第1話やり直し

眩い光が差し込む眩しくて目は半開きになる


(眩しい……あれ?私)





――――――やがて光が収まり目が開く


「なに……これ……私……たしか、死んだ……よね……?」


首筋を伝う風が、やけに心地いい。

さっきまで感じていた痛みも、血のぬるさも、跡形もなく消えていた。

私は、自分の手を見つめた。白い。血も傷もない。


「闇子、考え事?」


――また、あの声。


顔を上げると、そこには真白がいた。笑っていた。

制服、光の加減、空気の温度――見た光景とまったく同じ。


「ん?ああ……なんでもないよ」


(夢……?だったのかな……)


「ふーん。今日さ、一緒に帰ろうよ?新しくできたカフェ寄ってこ~よ」


(……このセリフも、さっきと同じだ)


ドクン、と胸が鳴った。

ただの既視感(デジャヴ)じゃない様な気がしてならなかった。だがあまりにも不自然すぎる言葉では表せないほど



「……あ、うん。一緒に行こっか」


それは、言えなかった返事。


二人で歩く帰り道。

ふと、真白のバッグの口が少し開いていて、そこから紙の端が見えた。ピンク色の封筒。

その瞬間、私の脳内は光速を凌駕する勢いで駆け巡った。

そして確信した"私はタイムリープしている"と


(あれはあの時の……嘘、でしょ?次はバレずに殺さなきゃ)


「真白、その手紙……」


声をかけた瞬間、真白の頬がほんのり赤く染まった。


「と、とりあえずカフェ行って話そ!」


あたふたとバッグを閉じる姿が、妙に愛おしくて切なかった。



カフェに着いて、向かい合って席に座る。

注文したラテが届く頃、真白は両手でカップを包んだまま、深く深く息を吸った。


「闇子!」


その呼びかけは、まっすぐで、熱かった。


「私……実は、ずっと前から闇子のことが好きでした! 女の子同士で変だって思うかもしれないけど……でも、それでも、付き合ってほしい!」


「……え?」


頭が、真っ白になった。


あの時の手紙は、翔くんに宛てたものじゃなかった。


(私が“用事がある”って、勝手に嘘ついて……家が近い翔くんに“代わりに渡して”と、真白はお願いしただけだったのか……)


全部、私の勘違いだった。


勘違いから狂って、疑って、刺して、殺して、自分も死んだ――

それなのに、全部、嘘だった。


気づいた瞬間、涙が止まらなくなった。


「ごめん……ごめんね、真白……」


カフェのにぎやかな空間の中で、私は机に突っ伏して泣いた。

真白は、そんな私の背中を黙って、優しくさすってくれた。


「どうしたの?闇子? 変だよ」


真白が、いつもの調子で笑って言った。

その笑顔が、今はただただ、まぶしかった。


私は袖で涙を拭って、震える声で返す。


「……ごめん」


真白は、少しだけ眉をひそめた。でも、すぐに微笑んで見せる。


「で、どうなの? 返事、聞かせて?」


(優しいな。こんな私に、まだ……)


私はゆっくりと顔を上げ、目を逸らさずに言った。


「ごめん。付き合えない……私……」


一瞬、真白の笑顔が揺らいだ。

でもすぐに、彼女はいつもの笑顔を作り直す。


「……そうだよね。うすうす分かってた。好きな人、いるんだもんね」


優しい声だった。その声は少し震えている様な気がした。悔し涙を浮かべながらも笑顔を作って、責めるような言葉は一つもなかった。

私はその強さに、また泣きたくなった。


真白はラテを一口飲んで、ふぅと息を吐いた。


(だけど……)


真白は、心の中でそっと誓った。


(いつかは、闇子を惚れさせるような女になってみせる)


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