20話 挑発


 エミリは遠くからじゃわからなかったが、背丈は高く165cmほどあり、スタイルが良い。

 艶やかな濃いめの青髪を、後ろで一つにまとめており、そのまとめた髪は腰のあたりまで伸びている。

 そして、表情も凛々しく、キレイに整った顔立ちをしていた。

 会って二言目でいきなり、怒らせてしまったみたいだが……。

 騎士の道、というのはよくわからないが、確かに自分から名乗らないのは失礼だったのかもしれないな。


 「名乗り遅れて悪かった」と続ける。


 「1年のユーリ・アレクシスだ。単刀直入に言う……エミリ、俺のパーティーに入らないか?」


 周りで木刀を振るっていた連中が手を止め、こちらに注目する。


 「おい、あの1年何を言っているんだ?」


 「あいつ下級騎士だろ? 上級騎士に対する口の利き方も知らないのか?」


 周りからそんな声が聞こえてきた。


 「なぜ、私が貴様のパーティーに入らねばならんのだ?」


 エミリは木刀を下ろし、その凛々しい表情を崩さずにそう問いかける。


 「俺にはある目的がある。そのためにはA級クエストをクリアしなくてはいけないんだが……そもそも下級騎士の俺には受けることすら出来ない。だから上級騎士のあんたとパーティーを組みたい」

 

 エミリは数秒の間を置き、口を開いた。


 「つまり貴様は、私の力を借りてA級クエストをクリアしたいと? そういうことだな?」


 「まあ、端的に言えばそうだ」


 力を借りたいというより、A級クエストを受注してもらいたいのだが。


 クエストを受注してもらうという点でいえば、力を借りているということにもなるのか?

 まあどっちでもいいか。


 「そうか……」


 エミリは目をつぶり、頷くように下を向いた。


 「入ってくれるのか?」


 俺がそう尋ねると

 ダンッ!

 と、エミリは木刀を地面に強く打ちつけた。

 

 そして顔を上げ―


 「私は貴様のように自分の力ではなく、他人の力を利用して己の目的を果たそうとする、そんな下衆な人間が大っ嫌いだ! そんな下衆な人間とパーティーを組むだと? ふざけるな! 死んでも御免だ!」


 エミリは鋭い目つきで俺を睨みながらそう叫んだ。

 断られてしまったか。

 そして、何か勘違いをされている気がするんだが……まあいい。

 こんな時のために、俺も作戦も考えてきた。


 「だったら、俺とここで勝負しないか?」


 「何? 勝負だと?」


 「ああ、今ここで、俺とあんた1対1で、剣を交えようって言ってるんだ」


 俺は堂々とそう言った。


 「おい、あの1年正気か?」


 「頭完全にいってるな、相手が誰だかわかってないのか?」


 周りからそんな声が聞こえてきた。

  

 「貴様、私の話を聞いて―」


 俺はエミリの言葉を切るように続ける。


 「あんたが勝てば金輪際、俺は2度とあんたに近づかないし、声もかけない。だが、俺が勝ったときにはあんたには俺のパーティーに入ってもらう」


 「おい貴様、勝手に決め―」


 「こわいのか? 下級騎士のこの俺が……」


 俺はことごとくエミリの言葉を切り、挑発するようにニヤリと笑って見せた。

 まるで悪役だ。

 だが今までの経験上、こういうタイプの人間は挑発に弱い。

 さあ挑発に乗ってこい。

 エミリはプツンと何かが切れたように、その表情には怒りを帯びていた。

 

 「なんだと? 貴様もう一度言ってみろ」


 エミリは俺を睨みつけ、覇気を帯びた声色でそう告げる。

 よし、いい感じだ。

 俺は追い打ちをかけるように、続けて挑発する。


 「何度でも言ってやる! あんたは下級騎士のこの俺がこわいんだろ! でないと、騎士の道とか言っているあんたが俺に勝負を挑まれて断るはずがないもんな」


 すると周りから俺に鋭い野次が飛んできた。

 

 「おい、1年坊! あんまり調子に乗ってっとぶっ殺すぞ!」


 「エミリさん、こんなやつ相手にすることないですよ、俺らで―」


 ダンッ!


 っと、エミリは再び木刀を地面に強く打ちつけ、周りの連中を黙らせた。

 打ちつけられた木刀は真っ二つに折れていた。

 周りが静まり、エミリは静かに口を開く。


 「ユーリとかいったか。いいだろう、ここまでコケにされては私の気も収まらない。貴様の安い挑発に乗ってやる。だが私が勝った時は覚悟しておけ」


 「ああ」


 俺がそう答えると


 「それじゃあ、審判は俺が務めよう」


 そういって、俺たちの間に1人の男が入ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る