11話 王国最強の男
大きな音が鳴り、俺たちは後ろへ振り返った。
ギルドの正面の扉が開いており、そこには人が2人立っていた。
すると、周りの連中が次々と声を上げた。
「お、おい、あの人は!」
「国王陛下直属部隊 火ノ隊―隊長のレオ・マルグスさんだ!」
「後ろには、副隊長のライナ・ミルタール様だ!」
「レオ様・・・今日もクールで素敵! ああ、かっこよすぎる……」
「レオ様!私と結婚してーーー!」
などと、周りから様々な声が聞こえてきた。
「ロミオ、あいつらは誰だ?」
ロミオは少し慌てたように話す。
「ユ、ユーリ、聞こえちゃうよ。あの人たちは国王陛下の直属部隊―火ノ隊の特級騎士と特級魔法師だよ。し、しかも火ノ隊は4つある直属部隊の中でも最強と謳われているんだ」
ロミオは一呼吸置き、続ける。
「そしてあの、レオ・マルグスさんは、この王国最強と言われていて、……あの神の産物と言われている神器を扱えるとってもすごい人なんだよ」
「なるほどな」
あいつらが特級クラス。
俺はよく目を凝らし、2人を観察した。
前に立っている、特級騎士のレオという男は、真っ赤な赤髪が特徴的で、背丈は俺と同じくらいだ。
表情は無表情で寡黙そうな印象を与える。
あまり感情を表に出すタイプではなさそうだ。
腰には剣を2本携えており、服は俺たち学生とは少し違うが、同じ白を基調とした服を身にまとっている。
その後ろに立っている特級魔法師のライナという女は、背丈はロミオと同じくらいで小柄だ。
綺麗な黒髪は肩よりも少し下の辺りまでまっすぐ伸びており、その上にはキャスケットというのか?
黒色の帽子をかぶっている。
とても綺麗な顔立ちだが、表情には少し幼さを残しており
俺たちより年上なんだろうが、……さほど変わらないくらいの年齢に見える。
ライナはレオの服と違って、黒を基調とした服を身にまとっていた。
騎士と魔法師で服が違うのか?
俺たちの学校では、学生は騎士・魔法師どちらの専攻でも同じ白色の服だが……
まあ白だろうが黒だろうが、服なんてどっちでもいいんだが。
などと考えていると、後ろに立っていたライナがレオの前にサッと飛び出してきた。
そして、なぜかライナは鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
次の瞬間、ライナは両手を前にまっすぐ伸ばすように構え、口を開いた。
「私の……レオ君……誰にも……渡さない」
そういうと、大気中の空気がライナの方へ、サーっと集まっていくのを感じた。
そしてライナの背後にはいくつもの魔法陣が瞬時に浮かび上がる。
「……おい、ロミオ、……あの人こっちに向かって何やらぶつぶつ唱えているんだが」
俺は隣へ目をやると、ロミオは俺が今まで見たこともないくらい、あたふたと慌てていた。
「ど、どど、どうしよう、魔法陣をあんなにも同時に、ギ、ギルドが、吹っ飛んじゃうよ」
さっきまで歓喜の声を上げていた周りのやつらも、
「あ、あんなの食らったら死んじまうぜ」
「ごめんなさい、もう結婚なんて口にしませぇぇぇん」
など様々な声を上げていた。
さて、どうしたものか……
と考えていた、その時。
「レオ君は……私の……はうっ!?」
ボスンッ!
っと、後ろに立っていた、レオがライナの頭をチョップした。
そして、ライナの背後に展開されていた魔法陣は消え、当の本人は頭を抱え、涙目になっている。
「うう~……レオ君……痛い」
ライナはか細い声を漏らした。
今まで向けられていた鋭い目つきとうってかわり、
可愛らしい表情をしている。
そんなライナの変貌ぶりに
周りから
「え、……ええええええええええええええええええええええ」
という声がギルド中に響き渡る。
数秒の間を置き、レオがライナへ向かって口を開いた。
「こんなところで魔法を打つな」
「ご、ごめんなさい……」
ライナは頭を抱えたまま、レオに頭を下げる。
レオは冷静に淡々と続ける。
「それに、俺はお前のものになった覚えはない」
「そ、そんな……レオ君、思い出して!……私たちの幼き日のあの約束を……」
「覚えていない」
「あ、ああ、……そんな……」
ライナはまるでこの世の終わりが来たかのように、ダンっと床へ膝をついた。
レオはそんな放心状態のライナを置いて、クエストカウンターの前まで歩き、1枚のクエスト用紙をカウンターへ出した。
クエストカウンターの女性は微笑み話す。
「S級クエスト、フェンリル10頭の討伐お疲れ様でした。レオ様、お怪我はありませんでしたか?」
「ああ、大丈夫だ」
「それなら良かったです。それではこちらが報酬になります、レオ様とライナ様で5:5で分けてよろしいですか?」
「頼む―」
すると、先ほどまで床へ膝をついていたライナが瞬時にレオの間に割って入ってきた。
そして、クエストカウンターの女性に強く訴えかけていた。
「いえ!……いずれ1つの財布で生活を共にしていく仲なので、……分けずにそのまま―」
「5:5で頼む」
「レオ君、そんな―」
「5:5」
レオは鋭く、冷めたような目つきでライナを見つめていた。
「うう……レオ君……でも、そういう冷めたい目も……好き……」
「……」
俺たちは一体何を見せられているのだろうか。
だが、あの2人……
この距離でも只者じゃないのはわかる。
特に、あのレオという男……
ロミオがいっていたように、この国最強なのは間違いなさそうだ。
正直に言って、シルバー以外でこれほどの強者と出会ったのは初めてだ。
レオは俺の視線に気づいたのか、俺の方へ振り返り、俺の視線に合わせた。
そして数秒の間、俺たちは無言で視線を交わした。
「ユーリ……?」
隣のロミオは不思議そうにこちらに視線を送っていた。
「レオ君……あの子、知り合い……?」
ライナもレオに問いかけていた。
レオは俺の目から視線を下げ、俺の腰のあたりを見つめていた。
そして、数秒後、レオは視線を外し歩き出した。
「何でもない、行くぞ」
「うん」
そういって、レオとライナはギルドを後にした。
「ユーリ、……どうかしたの?」
ロミオが不安そうにこちらを覗き込んでいた。
「あ、悪い。……俺たちもそろそろ帰るか」
「うん、そうだね」
俺たちもギルドを後にし、帰路へ着いた。
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