第5話・カルマが召喚転生する前の現世界では……普通にF15戦闘機が空を飛んでいた
ある日──カルマはリンネの家に、竜のミルクが入った容器を運んできた。
「今朝、搾ったばかりの新鮮な竜乳だよ……チーズにすれば、赤いチーズができる」
「いつも、ありがとう……さっそく、チーズとバターを作ってみるね……その前に、赤いミルクを一口」
リンネは、木製のカップに注いだ竜のミルクを口に含む。
「美味しい……味が濃厚、これなら良質のチーズとバターが作れる」
カルマについてリンネの家に来た、モフモフ、フサフサの古代世紀の支配者犬が家の壁に、花瓶から染み出た水分を吸って生えてきた、キノコ房の匂いをクンクンと鼻で嗅ぐ。
リンネがカルマに訊ねる。
「名前決まったの?」
「うん『インガ』と名付けた……おいでインガ」
名前を呼ばれた支配者犬は嬉しそうに飛び跳ねて、椅子に座っているカルマの膝に飛び乗る。
インガの触角が出た頭を撫でるカルマ。
「よしよしよし、いい子……インガ、お手」
フサフサの中から、虫脚のようなモノが出てきて、カルマの手にピトッと乗せる。
リンネがカルマに訊ねる。
「インガの脚ってどうなっているの?」
「見てみる?」
カルマをインガの腹をリンネの方に向けると、カブトガニかダイオウグソクムシみたいな、節足脚が蠢いていた。
◇◇◇◇◇◇
来る途中に、林の中で拾ってきた人骨の大腿骨を振り回して、床で遊んでいるインガを横目に……カルマがリンネに質問する。
「スローなライフの生活……何をやるか決まった?」
「今ひとつ決まらない……家の中で楽にできり仕事なら、いいんだけれど……カルマ、何かアイデアない?」
「そうだねぇ……異世界スローラなライフだって無職というワケには、いかないから」
カルマは室内を見回す、新築の祝いで花を活けた花瓶に目には見えない亀裂があったらしく……染み出てきた水で濡れた柱や壁に、天然のキノコが生えていた。
カルマが言った。
「この勝手に家の中に生えてくる、キノコを売ったらいいんじゃない……元手かかっていないから」
「それ、グッドアイデア! キノコの菌糸で家がボロボロになるまで栽培できる……あたし、お気楽なキノコ栽培者になる」
キノコの栽培農家が聞いたら「ふざけるな!」と、怒鳴られそうな発言だったが、リンネのスローなライフ仕事は決まった。
◇◇◇◇◇◇
自然栽培されたキノコをカゴに少し採取しながら、リンネがカルマに質問する。
「そう言えば、カルマって現世界から異世界に召喚されたんだよね……現世界では
「女子高校生の帰宅部」
「それって凄いの?」
「結構、最強」
カルマは、穴に落ちて異世界に召喚された時の現世界は、空を頻繁に戦闘機が通過して、道路にも戦闘車両を積載した車両が慌ただしく通過する不穏な世界だったと語った。
「自然災害も異世界に比べると、酷かったからね……人が死ぬ危険な連日の暑さとか、いきなりの集中豪雨とか……毎日、イヤなニュースばかりが流れていた……そこへいくと、異世界は現世界から見たらまともな世界」
「そうなんだ……そう言えば噂なんだけれど、町外れに例の女が現れたらしいよ」
「例の女?」
「男奴隷のチーハーレムを作って君臨していた最低転生女……カルマにザマァされて恨んでいる」
「その変態最低転生女がどうして、町外れに?」
「なんでも、奴隷チート能力で村のいい男の心を操って、男ハーレムを再結成するために現れたらしいよ……カルマに対する恨みを晴らす前提で」
リンネの言葉に椅子から立ち上がったカルマが、片手の平に拳を打ちつける。
「懲りない女……やってやろうじゃないの、村のいい男が奴隷チーハーレムに組み込まれる前に」
◆◆◆◆◆◆
カルマとリンネとインガが町に行くと、若い数人の男たちの首に首輪と鎖を付けて持った女が、仁王立ちをしてカルマを待ち構えていた。
腰に手を当てた、最低の転生女が言った。
「来たなぁ賽河 カルマ……今こそハーレム壊された恨みを晴らす……可能なら」
カルマが背中に垂らした、一本三つ編みをグルグル回しながら答える。
「えーと、確か……やっと集めた男ハーレムの男たちをチートな能力で、黄色いヒヨッコに変えて解放したから恨んでいる?」
「それもある……ピヨピヨ鳴いて、懐いてくるヒヨコはそれなりに可愛かったが……全部オスでタマゴ産まないから売っぱらった」
「じゃあ、何が不満よ……ヒヨコ売ったカネが入っただろうが、男奴隷のチーレム作るよりは、食費がかからなくて済んだだろう」
「少しあたしの長い話しを聞け……それから、カルマへの恨みを晴らす……誰も聞いてくれなかったから」
そう言って転生女は、前世から続く不運を語りはじめた。
「最初に現世界から転生た、あたしは男から女への
「ほーっ、それは初耳だ」
「あたしは、転生する前から強く願っていた『異世界の悪役令嬢に転生して、破滅フラグを回避して幸せになると』……それなのに」
転生者女は、地面を幾度も踏みつける。
「転生したのはモブキャラの庶民の娘……イベントも何もなく、人生終わるなんて冗談じゃない!」
転生女は神に祈り続け、そしてついに自分の中に隠されていたチート能力『イケメン男を奴隷にして操って男だけのチートなハーレム、チーレム能力』に目覚めて成り上がった。
「あと少しで、この国の王子も刷り込みで、奴隷に変えて、この国の支配者になれるところだったのに……カルマ、おまえがチート能力『黄色いヒヨコ』で邪魔した!」
「だって、この国の王子サマ……あたし好みのイケメンだったんだもん……ところで、異世界転生する時に、どんな方法で転生したの?」
「そんなの、トラ転に決まっているだろう! 走ってきた大型トラックの前に飛び出したんだよ! あの、顔面蒼白になった運転手の顔は忘れられねぇ」
◇◇◇◇◇◇
カルマの視線が転生女に向って、鋭い視線に変わる。
カルマが、凄んだ口調で言った。
「人様に迷惑をかける〝トラ転〟や〝電転〟したのか……それを聞いたからには、容赦はしない……そっちが、なにかザマァ返しを仕掛けてくる前に、チート能力『転生アミダクジ』を、こちらの先制ターンで仕掛ける」
カルマは、走ってきたトラックや、電車の前に飛び込んで周囲にトラウマを残す、後先考えない身勝手転生が大嫌いだった。
カルマのチート能力を、受ける転生チーレム女。
もっとも、転生チーレム女にはカルマに報復チートや反撃チートをする能力は、最初から無かった。
カルマが頭上に伸ばした手の中に、黒雲が集結して、カルマの身長よりも高い漆黒の大剣が現れる。
大剣から放たれた、光りのアミダクジが、転生女を捕らえてホールドする。
「う、動けない」
「おまえのような身勝手転生者には、地獄でさえ生温い……転生アミダクジ、いっくよぅ!」
光りがアミダクジを上昇する。
あと数回の屈折で、転生生物が決まるというところで、カルマはアミダクジを止める。
「線を一本付け加えると、別の生物に転生するけれど……どうする? 選択肢与えてあげるから」
「どの生物と、どの生物?」
「このまま進めば、数分後の来世は〝ミイデラゴミムシ〟に魂が転生する」
「どんな虫?」
「体から高温のガスを噴出する虫」
「もう一つの生物は?」
「〝ゴホンダイコクコガネ〟角が五本あって
格好いい虫」
「じゃあ、その五本角の格好いい虫で」
「わかった、〝ゴホンダイコクコガネ〟に転生しろ! クソ虫がぁぁ」
線を加えられた転生クジが動き出し、転生女はゴホンダイコクコガネに転生した。
◇◇◇◇◇◇
地面で蠢く黒い虫を、しゃがんで見ながらリンネがカルマに質問する。
「ちっちゃい虫……この虫何を食べるの?」
「それ、
「糞虫?」
「動物のウ●コを食べる」
「うげぇ、あまり転生したくない虫だなぁ」
その時、ゴホンダイコクコガネに近づいたインガが、虫の節足脚の先端で、黒い蠢く小さな虫をプチッと潰す前に、ゴホンダイコクコガネは羽を広げてフンがある場所に飛んでいった。
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