第3話・天変地異……邪神の巨星落ちる!カルマの相棒『餓鬼道 リンネ』登場
賽河 カルマは、その日──少し遠出をして、町の市場に来ていた。
欲しいものがあれば、カルマが持っているスマホアプリのチート能力で、どこからでも取り寄せるコトもできたが……さすがに、海の向こう側から。
たった一つの小箱を海賊船で運ばせた時は……運んできた海賊に恨まれた。
(あの宅配チートは、少しやり過ぎた……わけもわからずに、海賊のキャプテンが、ボロボロの姿になって木箱を持って来たんだからな)
木箱に入っていたのは、遠方の国で売られていた推しのキーホルダーが一個──後に半年間かけて海賊が運んでくる間に、同種のキーホルダーがカルマが住んでいる地域でも、普通に流通されるようになった。
市場の店先で、売られていた別バージョンのキーホルダーを手にして、カルマは苦笑する。
(こんなコトなら、海賊を使って購入する必要なかったな……まさか、製造している地域が地元だったなんて……運んできた海賊バカみたい)
チート能力の犠牲になった海賊に対する、身も蓋もない言い方だった。
カルマが、屋台で売られている異世界焼きイカでも食べようかと……店に近づくと、何やら焼きイカを売っている店先に人だかりができて……なにやら騒動になっていた。
カルマが人垣の隙間から中を覗くと、一人の少女が大皿に盛られた、クットルフ風の串刺しされた邪神焼きイカを、半分以上貪り食べているところだった。
屋台の店主が青ざめた顔で、大食いの少女に向って言った。
「あと、十分間以内に百匹のクットルフ焼きイカを全部食べ切終わったら、飲食代金無料で景品だ……ムリならリタイヤしてもいいんだぞ」
鎌首を持ち上げた白蛇のような角を生やした、大食いチャレンジ少女が言った。
「冗談言わないで……このくらい楽勝……お腹の口を使って食べてもいい?」
「あぁ、どんな方法でも食べきれれば一年間の無料飲食券だ」
ヘビ角の大食い少女が立ち上がって、腹部を露出させる。
「約束だよ」
少女の上半身が仰け反るように、後方に中折れした。
折れた腹部には、上と下にノコギリのような歯があった。
腹の口が、大皿に残った串焼きのイカもどきを、串ごと一気に吸い込んでモグモグ食べる。
元の体の状態に戻った少女が、両手を合わせて言った。
「ごちそうさまでした……無料飲食券よろしく」
イカ焼きを食べ終わった少女は、見学者の中にカルマの姿を見つけて手を挙げる。
「カルマ、久し振り元気していた?」
答えるカルマ。
「リンネも、相変わらずの食欲旺盛じゃない……恋人はもう食べた?」
「うん、食べちゃった……若いイケメンだと思っていたら、正体はくたびれたオヤジだったんだもん」
城を飛び出して、勇者見習いをしていた時に、カルマと出会い一緒に旅をする。
カルマがリンネに訊ねる。
「まだ、消化していなかったら、食べた恋人見せてくれない?」
「うん、いいよ」
リンネの体が、また背中から後方に二つ折りなって。
中からリンネが食べた人間の恋人のガイコツが、頭に焼きイカを乗せた格好でヒョッコリ顔を覗かせる。
恋人を見せ終わると、リンネは元へと戻った。
カルマがリンネに質問する。
「恋人は現世界で社畜やっていた中年オヤジの、転生者だったっけ?」
「うん、オヤジだよ……だから食べちゃった……あと少しで骨も溶ける」
リンネが言った。
「今度、この町に引っ越してきてスローなライフやろうと思う」
「いいんじゃない」
「何をやったらいいと思う?」
「う~ん、スローなライフの職業ねぇ」
少し考えてから、カルマが言った。
「〝世捨て人〟なんて、いかにもスローなライススタイルの職業っぽくない?」
「えーっ、それって無収入の〇〇〇か〇〇〇〇〇だよ、他に無い?」
「〝自給自足人〟は……ほら、向こうから歩いてくるボロボロの、汚ったねぇ海賊みたいな」
木の棒を杖にし、カルマを睨みながら歩いて来た、ボロボロの海賊が怒りの形相でカルマに言った。
「やっと見つけたぞ、賽河 カルマ……オレにかけたチートな力を解け! オレは海賊王になる男だ! てめぇの使い走りじゃねぇ!」
カルマが、ストローハットの埃を払いながら言った。
「あぁ、あのチート能力ね……ムリ、アレは一度発動すると死ぬまで、続く呪いに近い力だから」
海賊が木の棒の杖を地面に叩きつける。
「ふざけるな! なんでオレが永遠に海をさ迷って、おまえが望む物品を探して持ってこなきゃならねぇんだ! 一生、宅配か!」
「外道な海賊の自業自得だ」
海賊は服のポケットから、キューブ状のモノを取り出してカルマに見せて言った。
「これが、何かわかるか!」
「『邪神クットルフの隕石の召喚キューブ』よく、そんなの見つけてきたね」
「驚かないのか?」
「別にレアなアイテムには違いないけれど……驚くほどのアイテムじゃない」
陸に上がった海賊がキューブを回して、一面の色を揃えて言った。
「空を見ろ! 〇賽河 カルマ、おまえ終わったぞ」
見上げると、砕けた空から遠ざかる邪神の隕石が、こちらに向って落下してくるのが見えた。
無数の目と、触手のような腕を丸めた醜悪なクットルフの邪神……邪神の焼けた香ばしい香りが地上に届く。
海賊が声高らかに、勝ち誇った口調で言った。
「わはははっ、賽河 カルマ、ザマァしてやる! この一帯を邪神の熱量で焼き尽くす、蒸発して消え去れ!」
カルマが冷静な口調で、隣に立つ餓鬼道 リンネに言った。
「リンネ……」
「はいな」
「海賊と邪神隕石……喰ってよし」
「喜んでぇ!」
リンネの背中が中折れして、現れた口に海賊と邪神隕石は吸い込まれて……消えた。
元の状態に戻ったリンネが、両手を合わせて言った。
「海賊と邪神……美味しくいただきました……ごちそうさまでした」
カルマとリンネは、何事も無かったように、並んで歩きながら談笑を続けた。
「パン屋さんなんてどう? 朝早いけれど」
「えーっ、あたし朝早いのは苦手だな……昼まで寝ていたい」
「スローなライフも、何をやるのか探すのが大変なんだから……都会の連中は、憧れだけでロクに考えなくて、理想だけでスローライフ送りたいっていうけれど……スローライフはじめても、その不便さに、一週間で挫折して都会に帰る」
カルマが、第四の壁を越えるチート能力で、向こう側にいる者に厳しい口調で苦言する。
「平凡な異世界スローライフをなめるな!」
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