第19話_足跡ワークショップと予期せぬ発見
翌朝の校庭は、夜の雨でしっとりと湿っていた。砂粒が重く沈み、足跡がくっきり残るには最適の状態だ。朝礼後、彩加たちは「足跡読解ワークショップ」の準備にとりかかった。
資材置き場からブルーシートと道具を運び出し、校庭の一角に長方形の実験ゾーンを設ける。四方をコーンで囲み、「入るときは声かけ」の札も立てる。中央の砂面は藍がブラシで均し、霧吹きで水分を均一に散らした。
「今日は“向きを当てる”ゲームと、“足跡の人物を推測する”ゲーム、二本立てです」
藍が声を張り、集まった生徒たちに説明する。見物に来たのは、放課後班の小学生から文化部の先輩まで幅広い。慎太郎はホワイトボードを用意し、記録と解説を担当。純一は司会進行、翔也は安全導線の見張り役だ。
まずは「向きを当てる」ゲーム。参加者はランダムに足跡をつけ、他の人がその進行方向を当てる。
「これ、わかる人?」
純一が指した足跡は、つま先がやや内向きで、踵の砂が盛り上がっていた。
「右から左!」と声が上がるが、藍は首を横に振る。
「正解は左から右。踵の砂の盛りは“蹴り”でなく“着地”のときにもできる。これは着地側の盛り上がり」
「おお~」と歓声が上がる。翔也が「俺も逆だと思った」と笑った。
続く「人物推測」ゲームでは、三種類の靴底で足跡をつけ、その持ち主を当てる。
「これは……有里先輩!」
「正解。踏み出しの角度が特徴的」
「こっちは……純一さんですね。歩幅が広いから」
和やかな雰囲気の中、慎太郎がふと、ゾーンの外れに続く足跡に目を留めた。
それは、準備のとき誰も踏んでいないはずの区域から始まり、校庭の端の裏門方向へと続いている。
「これ……今朝ついたものじゃないな」
慎太郎がしゃがみ込み、砂の乾き具合を確認する。足跡の縁がやや崩れ、表面は薄く乾燥していた。
「昨日の夕方以降か、夜のうちだ」
藍がメジャーを伸ばし、歩幅と靴底の幅を測る。
「……二五センチ、幅広。ソールのパターンが“校内で見たことのない”タイプ」
「外部の人?」
彩加の問いに、翔也が校門の鍵記録を思い出す。
「裏門は夜間施錠。だけど……あの柵、隣の畑側からだと足掛かりがある」
皆の視線が自然とその足跡の先へ向く。足跡は裏門の手前で途切れ、そこから柵の外の畑へと繋がっているようだった。
「……ワークショップのついでに、これも検証しましょう」
藍の提案で、ゲームは一時中断。慎太郎が足跡の型取り用に透明アクリル板とトレースペンを取り出し、藍が輪郭を写し取る。
「この靴底、地元メーカーじゃないな。中央にアルファベットの“R”がある」
ジョシュアが低くつぶやき、カロリーナが「私、見たことある。海外通販で売ってる登山靴」と補足する。
「登山靴で、夜に……? 何しに来たんだろ」
純一の言葉に場が少し緊張する。
彩加は深呼吸し、周囲を見渡した。
「まずは安全確認。翔也、裏門の施錠と柵の状態をチェック。有里、文化部の先輩たちに校内巡回をお願いして」
「了解」
皆が動き始める。ワークショップはそのまま残し、片隅に新たな“調査現場”が生まれた。
足跡は、単なる遊びの題材だったはずが、思わぬ方向へと話を広げていく――。
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