第2話_図工室の掲示づくり
放課後の図工室は、夕陽が西の窓から差し込み、木製の机に長い影を落としていた。
結香は机いっぱいに画用紙や色紙、折り紙を広げ、その中央で鉛筆をくるくると回している。目の前の下書きには、大きく「ようこそ!6年3組の図工展へ」と描かれていた。
「じゃ、私は見出しの文字を切り出すから、有里ちゃんはこのパネルに色紙を貼ってね」
結香が指示を出すと、有里は「了解!」と即答して、すぐさまカッターを手に取った。その動きに迷いはなく、色紙を定規に沿ってすいすい切っていく。
「じゃあ私は……色を決める係でいい?」
莉菜は机の端で色紙の束を広げ、手早く暖色と寒色を仕分け始めた。
「そうそう。バランス見ながら配置してくれると助かる」
結香の声は明るく、どこかリズムがあった。彼女がデザインの中心を担うと、作業全体がすっとまとまる。
有里が貼るのは、模造紙の背景となる鮮やかな青色。のりを均一に伸ばす手つきも早い。
「こうやって端までしっかり押さえておくと、後で浮いてこないよ」
有里の説明を聞きながら、莉菜は色紙を一枚ずつ差し出す。
「じゃあ見出しは赤とオレンジのグラデーションで……下の方は黄色にして、遠くからでも目立つようにしようか」
「いいね! 明るい感じになる」
結香はそう言って、机の端に置かれた銀色のロール紙を手に取った。片面が鏡のように反射する特殊な紙だ。
「これさ、ところどころに入れると立体感が出るんだよね」
結香が見本を示すように、銀紙を小さく切って模造紙に当てる。
「わ、本当に鏡みたい」
有里が覗き込み、指先でそっと触れる。自分の顔がわずかに映り込むのが面白い。
「でも扱いが難しいんだ。指紋がつきやすいし、光の角度で印象が変わるから」
結香の声は少し真剣味を帯びる。鏡面紙は、見る位置や照明の加減によって模様が反転したり、色合いが変わったりする。それが魅力でもあり、注意点でもあった。
莉菜は手元の銀紙を持ち上げ、窓からの斜めの光にかざしてみた。
「……あ、これ、逆さに映ってる」
「そうそう。だから貼るときは向きに気をつけて。上下逆にすると、遠くから見たとき変な感じになるから」
結香は笑いながらも、丁寧に貼り位置をマスキングテープで仮止めしていく。
そんなやりとりをしているうちに、机の上の材料はどんどん形になっていった。鮮やかな背景に赤い見出し、間に散りばめられた鏡面紙のきらめき――。
作業が一段落すると、有里がカッターを置き、ふうっと息をついた。
「あと残りは貼り込みと、周囲の飾りだね」
「飾りは、余った銀紙で小さい星を作ろうか」
結香が提案すると、莉菜は「じゃあ私は色の配置をもう一度チェックする」と立ち上がり、少し離れた場所から全体を見渡した。
銀紙に映る夕陽が、ほんの一瞬、金色に輝く。その反射が壁や天井に揺れ、部屋全体が温かい光に包まれた。
「こういうの、なんかワクワクするな」
有里がぽつりと言うと、結香も頷いた。
「うん、ただの掲示でも、ちょっとした工夫で印象が変わるんだよ」
そして、結香ははさみを手に取り、星型を切り抜き始めた。小さな銀色の星が机の上にいくつも並んでいく。その一つ一つに、作った人の指紋や、わずかなカッター跡が残っている。
やがてチャイムが鳴り、図工室の時間は終わりを告げた。片付けを終え、三人は掲示板の前で完成イメージを確認する。
「これなら、きっと目立つね」
莉菜の言葉に、有里も満足そうに頷く。
「うん。……でも、銀紙って、使い方間違えると、逆さ文字とかも映っちゃうかも」
その言葉に、結香は少しだけ笑った。
「まあ、それはそれで面白いかもしれないけどね」
このときはまだ、銀紙の“反転”が、後日ちょっとした騒ぎを呼ぶとは、誰も予想していなかった。
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