E級冒険者の俺の昔に別れた幼馴染は剣聖と剣鬼になっていました。〜俺に構っても得はないんだから頼むから自分の道を歩んでくれ〜

ハンノーナシ/たいよね

再会


 いつ頃だったろうか、懐かしい記憶。

 俺だけが違えてしまった3人の約束。


「あたしは、剣鬼って呼ばれたい! かっこいいし、なにより力! って感じがして! ね、みんなでここで言った称号で将来呼ばれたいねっ!」


「私は剣聖の方がいいな。正々堂々って感じがするし」


「なら、俺は欲張って剣神だ! かっこいいだろ? 剣の神様って!」


 ほろ酔い気分で思い出す、過去。

 俺、ハイト・メイルは路地裏の屋台ラーメン屋で一杯、いや──何杯も酒を飲み干していた。


「あんちゃん、今日はいつにも増して飲むね……なんか嫌な事でもあったかい?」


「無いよ……別に。不貞腐れてるだけだって、今の現状に」


 俺だけが違えた、と言うのは。

 彼女達は、本当に『剣鬼』『剣聖』と言われる程に成長した。


 幼馴染の片割れは何でも屋の傭兵、通称『剣鬼』と呼ばれるまでに成長し。

 幼馴染のもう片割れは、闘技場の頂点に君臨する『剣聖』として名を馳せた。


 そして、俺だけが。

 剣神にもなれず、何も名を残せないまま今を過ごしていた。

 今の俺はE級、冒険者として最低ランク。


 薬草狩りやスライムやゴブリンなど下級のモンスターを狩る軽い街の安全を守る仕事ばかり。

 冒険者の仕事だけで収入が足りず、酒場でのアルバイトを繰り返す日々。


 そんな日々に葛藤と苦痛を感じていた。


 彼女達と俺の繋がりは、唯一。

 手作りの不細工なドックタグ。

 何処で死んでも繋がれる様に願っていた。


「おっ、街角のてれび? だっけか。俺は古い人間だから、新しい文化には馴染めないが……剣聖様、レアン様が写ってるじゃねぇか。あの美しい容姿にあの剣筋、息子の師匠だったら嬉しいねぇ……」


「……俺だけ、か」


 『剣聖様』がインタビューを受けている。

 テレビは取材や最近の出来事ばかりで面白みがない。

 後は若い子達の魔力検査の生放送とか、そこら辺ばっかり。


 ──「私か? 私のやるべき事は……別れた幼馴染を見つける事のみだ。この闘技場で名を馳せれば、彼にも情報が伝わるはずだ」


 ……俺達は幼い頃に、別れた。

 俺だけが、と言えば正しいだろう。


 彼女達は村に残ったが、俺は親の都合で他の村へと引っ越してしまった。

 その村で友達も作れず、孤独だった。


 ずっと彼女達の追憶を繰り返して、孤独を有耶無耶にする日々だった。

 

「今度は剣鬼ユナか……テレビはこんな奴にもインタビューすんのかい? 恐ろしい姿だねぇ、やっぱり。ボロボロのローブから覗く赤い髪と眼……息子がこんなのと出会わない様に祈るばっかりだよ」


──「あたしにインタビューとは、お前勇気あるなぁ。いいよ、答えてやる。目標? う〜ん……幼馴染を見つける事しかねぇな」


 ──俺は彼女達に、探されている。

 何年もの月日が経ったと言うのに、彼女達は俺を忘れていない。

 こんな姿、見られたくはない。


 彼女達は立場は違えど、夢を叶えた身だ。

 俺だけこんな姿で出会う訳には行かない。

 少しでも名を残した人にならないと。


 彼女達を思う度に、脳裏に浮かぶ。


 ──孤独。


 ──未練。


 ──羞恥心。


 ──そして沸き立つ、勇気。


 彼女達の存在が俺の人生の羅針盤だった。

 その羅針盤は今も彼女達の方向を指し示す。


 けれど、向かえない。

 目的地に辿り着くには、足りなすぎる。


「おい、あんちゃん! 起きろ!」


「んあっ?! 何、何?!」


「襲撃だよ、魔物の!!」


「嘘だろ? 王都は安全の筈じゃ……」


 背後を見ると、小さな魔物が路地の奥を通っていく姿が見えた。

 俺は隣に置いた鞘に包まれた剣を携え、魔物を追う。


「お、お代は後で払うから! ちょっと待っててくれ!」


「お、おう! 頼んだぞ、冒険者!」


 必死に魔物の背を追うが、足が尋常でない程に早い。

 まるで、俺を何かの元に誘っているかのようだった。


──────


 必死に走っていると、街の中心に出た。

 そこには、大量の低級の魔物と大きな図体を持ったオークがいた。


「俺一人じゃ、無理だろ……ははっ」


 俺は恐怖と動揺で、足を引く。

 しかしここで引くと怪我人が出てしまう。

 無謀な正義感で引いた足を進める。


 剣を構え、奴らに向ける。

 そして、構えのまま一気に走る。


(せめて、一体くらいは……!)


 そう考えていた時だった。


「あんた、流石に無謀だろ?」


「君は引いていろ、私達が処理する」


「久々に会ったけどあたしらが組めば最強だろ! 低級なんて秒殺だっての!」


 目の前には……『剣聖』と『剣鬼』。

 彼女達は目にも止まらぬ速度で、魔物共を蹂躙し始めた。

 剣筋さえ見えず、閃光が煌めくばかり。


 閃光と共に血飛沫が吹き荒れる。

 そして、いつの間にか。

 魔物は死体の山になっていた。


 俺は腰が引けてその場に尻もちを着いた。


「あんた、そのプレート……E級だろ? よくそんな無謀な事すんなぁ……」


「勇気は認めるべきだろう、立てる、か……」


 『剣聖』レアンが俺の手を取る。

 そして、俺の胸元に視線が行く。


 レアンの目線の先には不細工なドッグタグがあった。


「君、は……」


「はは……こんな姿、見せたくなかったな……」


「なんだよ、知り合いか……? って、おい、おいおいおい!!」


 ユナは俺の元に走ると、レアンを押し退け俺の手を取る。

 もう片方の手で俺のドッグタグを掴んだ。


「あんた、ハイトか?! やっと……やっと、会えた……♡」


「今まで何処に行っていたんだ……? さぁ、私達と共に帰ろう……♡」


 俺は二人の手を取り、立ち上がる。


「……帰れないよ、俺は」


「なっ……どうしてだ。私達は君と故郷に共に帰る為に、約束を果たして……」


「そうだぞ! そんな事言ってないで、あたし達と昔みたいに幸せな毎日を送ろうぜ♡」


「俺はお前らみたいに、約束を果たせてないんだ。俺は何もない、だから……お前らと一緒にいるには、釣り合わない」


 俺はレアンとユナから手を離し、背を向けて歩き始める。

 行く宛ても無いが、今は二人から離れたかった。


 少しだけ、背後を振り向く。

 ──ユナはへたりこみ、ぶつぶつと独り言を呟いていた。

 ──レアンは心を失ったかのように、小さくこちらに手を伸ばし続けていた。


 俺はアイツらと一緒には帰れない。

 こんな姿で、隣に立つだなんて愚行は。

 出来やしない。


 ──そんな時。

 後ろから声が聞こえた気がした。


「「逃がさない」」


 二人の声がそう重なるように、俺の耳元に囁く。

 驚きで息を吐きながら背後を振り向く。


 ──そこに二人の姿は無い。

 その場に残されていたのは。


 二つ。

 名の片割れが空欄になった、彼女達の名が記入済みの婚姻届だった。

 

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