第1話 不思議な人
深夜の薄暗い路地。街灯の光がかろうじて地面を照らし、壁やゴミ箱に長い影を落としている。
一原愛媛はカルテを片手に、帰り道を急いでいた。ふと、街灯の下に立つ女性の姿が目に入る。
風になびくショートカットの髪――顔は影に隠れ、まったく見えない。5月にも関わらず。青いロングコートを着ていた
「…誰だろう
5月なのにロングコート?」
歩みを進めると、女性は微かに身体を向け、こちらを見ているような気配を放つ。
ただ静かに存在している。
次の瞬間、女性はまるで霧のように、音もなく視界から消えた。角を曲がったのか、それとも最初から存在しなかったのか――答えはわからない。
愛媛は背筋に冷たいものを感じ、立ち尽くした。その胸の奥に、言い知れぬ不安が残る。確かに誰かに見られていた――だが、その人物は、二度と姿を現さなかった。
帰宅しても、違和感は消えない。ふと携帯を見れば、未読メールはゼロ――しかし、微かに着信音の残響のような音を耳にした気がした。
その夜の違和感は、後に病院で起きる数々の奇怪な現象― ―の序章に過ぎないことを、愛媛はまだ知らなかった
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