爆弾発言


「じつは俺たち──」

「恋人です♡」


 は? こいつ今なんて言った?

 

「ええっ!? うそ!?」


 のけぞる天城。


「宮内くん! どういうこと!」


 つめよった天城が訊いてくる。


「ちょっと待った! じつはこれには理由がっ──いっ!」


 激痛が走る。

 後ろ手に莉愛が俺のわき腹をつねっていた。

 ただひっぱるだけじゃない。ちゃんとツイストした本気のつねりかただ。


「セーンパイ。恋人同士ですよね? 莉愛たち」


 にこっとあざとい笑み。

 目が「ほんとのこと言ったらコロス」と訴えていた。こいつ小悪魔なんかじゃない。悪魔だ。

 

 天城の背中越しに、ことねと小塚の姿が見えた。

 ふたりとも驚いた顔をしている。小塚にいたってはショックのあまり魂の抜けた表情になっていた。

 

 だめだ。これで俺が否定したら莉愛の作戦が破綻してしまう。


「ま、まあそういうことに」


 しかたなしにそう呟く。


「……うぅ」


 今にも泣き出しそうな天城。

 罪悪感で心がえぐられそうになる。この場をやり過ごしたらあとできちんと説明をしよう。

 

 そう胸に誓っていたら、タイミングよく、ことねと目が合った。


「あ、やば」と言ったのが口の動きでわかる。軽くにらみつけると、そそくさと小塚をつれて退散していった。


 これでよし。

 あとは天城に説明を……。

 

「宮内くんのバカ!」


 すごい剣幕で怒鳴られた。


「ちょ、天城さん」


 俺はもちろん、となりの莉愛までびっくりしていた。


「宮内くんのバカ! ウソつき! 女たらし! むっつりスケベ! おっぱい星人!」

「おい! さすがに言いすぎだろ!」


 ぶふっと莉愛が吹き出す。


「センパイ、おっぱい星人なんですか?」

「ちがうわ!」

「え~。でもセンパイ、莉愛の胸元ちらちら見てましたよね? さっきのファミレスのときとか」

「じ、自意識過剰だろ。そんなんでセクハラ認定されてたら、俺はもう一生女子とは話さない」

「もぉー、すぐすねるー。べつに莉愛は気にしてませんよ? 今日のコーデ胸元ゆるめですし、ある程度そういうのは覚悟してきてますので」

「なおさらたちが悪いな」

「えへ♡ すこしはドキッとしてくれました?」

「してるよ。いろんな意味でな」


 今日だけで寿命が五年は縮んだ気がする。俺が早死にしたら責任はこいつにとらせよう。


「……あれだけいっしょに遊んだのに」


 と、そんなやり取りを見ていた天城がぼそっとつぶやく。

 

 悲壮感すら漂う声音。リンゴジュースの入ったグラスを握りしめて、


「あたしのうちにも来てくれたのに……ううん。そのときにはもう堀井さんとつき合ってたんだね」


 自嘲じみた声で、ふっと笑った。


「いや、だからちが……」

「ふうん。センパイ、広乃センパイのおうち行ったんだぁ」


 間髪入れずに莉愛がじとっとした目を向けてくる。


「成り行きだよ。妹と買い物してたら偶然出会って、雨宿りがてら寄らしてもらっただけだ」

「へー。成り行きですかー。便利な言葉ですね」


 完全な棒読み。

 俺が天城とどんな関係だろうがどうでもいいはずなのにやたらと突っかかってくる。いくら偽の恋人とはいえ、ここまでしなくてもいいはずだ。

 

 小塚たちにはさっきの恋人宣言で十分なインパクトを与えたはず。天城との修羅場を演じたところで、たいして意味があるとも思えない。


 天城に個人的な因縁でもあるんだろうか。

 いや、それもないか。俺と天城が気まずそうにしているのを見て、気をつかって席を外そうとしてたくらいだし。


 なら、どうして?

 莉愛の言動が読めない。まあ、もとよりなにを考えているかわからないやつではあるが……。


 そんなことを考えていたら、


「ま、莉愛はもうセンパイとえっちだってしてますし」


 とんでもない爆弾を投下しやがった。


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