[第5もふ]徹夜はむりです

夜。

社内は静まり返っていた。いや、いつも静かなんだけど。

「……なあ、徹夜でがんばれば、12個なんてすぐ終わるんじゃないか?」

ケモ男が言うと、ケモジが針を持ったまま首をかしげる。

「……うん。理屈ではそうだけど……」

「……けど?」

「眠い」

ガクッと針が布に落ちた。

「こらー! まだ6個もできてないのに!」

私は思わず立ち上がって声を張った。

「起きて! 徹夜チャレンジだよ!」

しかし――。

「……むり」

「……ねむ」

二匹は同時に床にごろん。

あっという間にスースーと寝息が響き始めた。

私は慌てて両手を振る。

「ええ〜!? 二桁発注なのに!? せめて夜ふかしくらいしてよー!」

仕方なく、私は一人で針を手にとった。

ちく、ちく、ちく……。

「……あ、糸がからまった……」

「……針穴に糸が入らない……」

「……やっぱり、ねむい……」

気づけば私も、針を握ったままウトウト。

そのまま机に突っ伏して眠り込んでしまった。

朝――。

差し込む光に目をこすりながら起きた私たちの前に並んでいたのは、昨夜のまま中途半端に出来かけたぬいぐるみたち。

「……やっぱり徹夜は、ナマケモノには向かないね」

私は笑って、二匹の顔を見た。

ケモ男とケモジも、苦笑いでうなずいた。


【次回】納期ギリギリ大パニック!

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