第2話 初めての鎌倉タイムトラベル

 極楽湯の泡がふわりと光り、直樹の視界は一瞬で変わった。

 目の前には、昔の鎌倉の町並み。瓦屋根が並び、武士や町人が忙しなく動き回っている。


「えっ……ここが鎌倉……?」


 佐藤爺さんが湯舟の端で静かに言った。


「そうだ、若造。これが君の初任務の現場だ。気を抜くなよ」


 田中爺さんは笑いながら、直樹にコロリン桶を手渡す。


「桶の使い方はわかるだろ?右で動かすと武士団が前進、左で止めると戦の進行を調整できる」


 直樹は手に汗をかきながら、そっと泡をかき混ぜる。

 鎌倉の武士たちの行列が少しずつ動きを変え、町人たちも安全に避難していく。


「す、すごい……俺の手で歴史が……」


 だが、喜ぶ暇もなく、小さな反乱の兆しが町の端で起きた。

 若武者たちが不穏な動きを見せ、火の手が上がる。


「えっ、どうしよう……!?」


 佐藤爺さんが低く指示する。


「落ち着け、若造。泡の角度と水流を微調整すれば鎮火できる。焦るな」


 直樹は深呼吸し、桶を右へ左へ振る。

 泡が光を帯び、火の手が徐々に小さくなり、武士たちも秩序を取り戻す。


「はぁ……なんとか……でも、これで本当に大丈夫なのかな……」


 田中爺さんが笑いながら肩を叩いた。


「初めてにしては上出来だぞ、若造。歴史の歯車は思った以上に繊細だからな」


 佐藤爺さんは遠くを見つめ、静かに言った。


「応仁の乱も、鎌倉再建も、まだ序章に過ぎん。次はもっと複雑な調整になる」


 直樹は桶を握りしめ、心の中で決意した。


「……次は絶対、もっと上手くやる……!」


 極楽湯の湯気の向こう、泡が弾けるたび、鎌倉の町は少しずつ正しい歴史の軌道に戻っていく。

 直樹は初めての任務を終え、少し誇らしさを感じながら、湯舟に腰を沈めた。

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