アイディオローグ その7
“
この世界を、「木、火、土、金、水」の五種類の元素で説明する、自然哲学。
この世界観では、方角や色など様々なものに、五行が配された。
「土」を中心として、
北に「水」、色は黒。
東に「木」、色は青。
南に「火」、色は赤。
西に「金」、色は白。
そして四季の変化のような自然現象も、同様にそれらを使って説明された。
上述の位置関係で、「木」に相当する春から順に、時計回り。
“青春”、“
また、それぞれの方角を
これまた東から順に、“
あとは「南」、「朱雀」、「火」に該当する誰かがいれば完璧だ、
みたいなことを、彼ら3人で話したことがあった。
身内のみで使われる
自分達だけが意味を知る、特別な暗号。
それは
主人公という、大役を任せられたような、自信を授けてくれたのだ。
そこからの全てが、間違いだった。
世間知らずの自己の肥大化が、あの惨状を招いた。
あれからトオノ達が病院へと駆け込んで、ちょっとした騒ぎになった後、続々と判明した事実を前に、タイセイはもう笑うしかなかった。
黄鉄鉱に、酸性硫酸塩土壌。
それらが、冷めた現実を説明してくれた。
多分、昔の人間は、あの地に死体を埋めると、形が変わりにくいものになると、知っていた。
どうして
湿度が高く腐敗が進みやすい日本では、土葬文化のような、遺体に魂が戻る思想は生まれにくい。
死体が残りにくいからだ。
けれどこの地では、そうじゃなかったのかもしれない。
形を保てば、いつか復活するという、信仰が生まれたのかもしれない。
死者の痕跡を残したい。
形が喪われなければ、完全な死じゃない。
その想いが「永遠」なんていう伝説を作り、ペットの死体やら遺品やらずっと残したい大切な宝物やら、様々な方向へ派生していった。
その残り
そんなところだったのだろう。
あの手首は、その風習の痕跡。
恐らく死蝋化した、元人間の一部。
「いつか、大切なあの人が、生き返る」、
そういう祈りの
その後の捜索で、ソウジも見つかった。
廃坑への道から少し外れた、
あそこに、サワキの遺体を隠せそうな窪みがあると、ソウジは思い出した。
サワキを引き摺り落とし、それから奥へ押し込めようと、自分も飛び降りた。
結果、二酸化炭素
ああいう低いところにある洞窟は、空気より重いガスで満たされている危険が多い。
大人達から、そう聞いた。
サワキは硫化水素で、ソウジは二酸化炭素。
ソウジが見た光も、恐らく硫化水素中毒のせい。
山は、自然は、人間の生き死になんて、お構いなし。
吐く息一つで、寿命の
歩いているだけで、人が蟻を踏み潰すみたいに。
来訪神についても、自分達の深読みぶりが見えてくるにつれ、眼を回しそうだった。
そういう言い伝えはあったらしいが、戦争時に特定の年代層が喪われ、詳しい内容の継承に失敗。
それなら残った情報を元に、新たな文化を作ろうと、戦後すぐに誕生したのが、“ハタナイ”の名と、その
「果」町の「内」側、そして山の向こうと通じ、「果てが無くなり
言語体系がどうのもない。後付けだったのだ。
時期だって、「祭りと言えば夏だから」、くらいのノリで決められたものだった。
アオは騒動が膠着した頃、普通にまた姿を現した。
単なる家出でしかなかったらしい。
その不在は、事件とは無関係だった。
点在する、この世の偶然と不完全。
それらは何かの断片で、だからジグソーパズルのように、全体で一つが完成すると、彼らはそう思っていた。
けれどパズルの完成形は、宇宙全体だ。
そして手が届く範囲ですら、見えていないピースばかり。
ちゃんとやるなら、虫食い、空白ばかりの絵になる。
それを無理に、完結した一枚にしようとして、話がおかしくなったのだ。
どうしてそんなことをしたのか?
欠けだらけの絵に、満足できなかったのは何故か?
それは彼らが、「自分達こそが正義側だ」と、思い込もうとしたから。
これまでの不満に、不遇に、報いてやるには、
その行動の全てが正しかったと、肯定するしかない。
意地を張って、間違いを突き進み、時間を浪費したわけじゃない。
もう二度と戻らない青春の時間を、プライドだけでドブに捨てたわけじゃない。
そう思いたかった。
彼らが直進する道こそ、正解なのだと宣言する、その為の証拠が欲しかった。
だけど、普通のやり方では、見つけられなかった。
それはそうだ。そんなもの、見つかるわけがない。
だって彼らは、間違っていたのだから。
正しいのは、トオノ達のような、他者と調和している方で、
彼らオカルト同好会は、協調性のない、はみ出しもの。
そこで「やっぱり間違っていた」と損切りせずに、「見つからないのはおかしい」と考えて、みるみるドツボに
他の人間と違って、日常の中で証拠を積み上げられず、だから
タイセイの場合はそこに、仲間内への劣等感までプラスされた。
外見的に優れ、実は人気もあるツトム。
頭脳明晰で、行動力に
彼の助手として、最高の適性を持っていたサヨ。
特にソウジとサヨのバランスは、完成され尽くしていた。
二人で一人、隣合っているのが、これ以上ないくらい似合っていた。
彼らの間に、入る余地などなかった。
補うべき部分など、何もなかった。
タイセイは、彼らにくっ付いているだけだった。
彼は自分がそこに居ていいか、分からなくなった。
あらゆるタイミングで、自分は必要ないのではないかと、そういう思いが
彼らと同じ「特別」であれば、「選ばれ者」であれば、一緒に居ても許される。
ただ運良く居合わせただけの、「
彼はあの同好会の、完璧な時間を、
彼の青春を守る為に、
オカルトにのめり込んだのだ。
若さから来る
そう言うとまだ、パワーを感じる。
けれど実際、タイセイは何も出来なかった。
最初から最後まで、
その頃の自分を思い出すと、彼は死にたくなる。
全身を
あれは、失敗だった。
それも、買ってでもするべき苦労とは違う。
やらなくていい、大失態。
世界は終わらなかった。
全部嘘で
若者が思う、「特別感」なんて、結局そんなものなのだ。
「自分だけが例外」、誰もがそう思っている。
「特別」だと感じた時点で、その者はもうパターン通りで、逆説的に「特別でない」のだ。
あんな経験は、他の誰にもして欲しくない。
これからを生きる者達に、あんな失敗はあまりに
特にそれが、彼にとって大切な人の子なら、
サヨの息子なら、尚更である。
サヨは結婚して、今の姓は「
その一人息子が、彼らの母校であり、今のタイセイの勤務先である、金淵に入学してきた。
どころか、2年時には、彼が担任を請け負うことになった。
サヨの息子を一目見た時から、彼には分かった。
かつてのタイセイと、同じ目をしている。
自分が特別だと、自分だけが回りと違うと、そう思っている。
優越感なのか劣等感なのか分からないが、どっちでも変わらない。
自分を「例外」に置いている時点で、それらは同じものなのだ。
諦められないから、そうなるのだ。
自分の中の、間違ったプライド、譲れない
世の常識を
だから止まれない。
取り返しがつかなくなるまで、罪を深め重ね続ける。
今ならまだ、間に合う。
諦めることを、覚えさせないと。
矯正しないと。
正しくしないと。
サヨを大切に思い、彼女と青春を共にした彼だからこそ、本気でそれに取り組まないと。
タイセイはそれが、
自分こそが、自分だけがやれる使命だと、
今年度に入って、その少年を見た時から、そう確信していたのだった。
首の後ろを、鳥肌で
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