屑恋(1)

 俺のネット恋愛歴は厚い。ぴよまるくんと出会ったゲームに至って言えば期間的には3年間はそこだけで出会いと別れを繰り返している。


 もちろんぴよまるくんみたいな別れは特殊も特殊なもので、多くであのような別れをしようものなら自分なんかじゃ抱えきれずに忘れようとするだろう。


 そして、これ以降の恋は完全に屑みたいな恋だ。

 略して屑恋。

 俺の屑恋の被害となった1人目、その人物は申し訳ないが名前を思い出すことができない。


 それは本名的な意味で。ぴよまるくんの本名は未だに覚えているのにそれ以降を覚えていないのはだいぶ酷い。

 いや、俺は何年も話してもいない相手の名前を覚えているほど記憶力のいい人間じゃない。


 ぴよまるくんと、その他の覚えている人らがただ本当にイレギュラーなだけだ。

 第一に本名を聞いてない相手もいるしな。


 屑恋の1人目の被害者だが、これまた年上である。年齢は1つ上。俺は基本的に年上の包容力ある女性が好みなのである。


 彼女との出会いに関してだが、正直にぴよまるくんと違って覚えている。

 試合がキッカケであったのは当然だが、その試合で使ったキャラクターからフレンド申請で言われたセリフまでも覚えてるのだ。


 役職はアタッカー職。鬼を攻撃する事で他のプレイヤーを助けることが出来るのだがそれを見事に成功させると

「さっきの試合、すごくイケメンでした!」

 との具合で惚れられたわけである。


 ここから親交を深める訳だが、彼女から屑恋の基本的手段が生まれたんだよな。


 ネットで知り合った相手といい感じに仲良くなるSTEP1、2、3のような物が。


 まずは挨拶だ。基本の挨拶、そこから自分の身分がくねんを明かす。

 すると相手も年齢を教えてくれるのだ。


 そこから、どうにかして相手の声を聞き出す。

 自分が声フェチというのもあり仲良くなったフレンド相手には毎回声をねだっていた。


 声を聞くにあたってだが、多くは躊躇ちゅうちょを見せる。そこでとにかく相手をはやし立てて声を聞く。

 この時に「自分の声も送るから」と毎回言っていた気がする。


 そうして声が聞けたらSTEP2の声を褒めるだ。可愛いと褒めるのである。

 どんな声であろうと毎回可愛いと言う。

 ただ「どんな声でも」とは言うが個人的には俺は全ての声を魅力的で可愛いと思う。


 続けてSTEP3、自分が声を送る時にもポイントがある。

 最初は女声を使い、相手が性別を勘違いしたところで地声を送る。

 これによってギャップが生まれてなんかいい感じになるのだ。


 まぁ、STEP3に至っては正直地声が良ければそれが一番だろうけど。


 STEP4はなんだろうか。聞き手に回る、相手に寄り添う、肯定する、と言ったところか。


 以下の4STEPを得て、告白をすると付き合えたんだ。


 この4STEPは現実でも併用できるはずだ。

 現実と言うよりはマッチングアプリか?


 声の部分を顔に変更して、女声を女装に変える。……いや、女装姿をプロフィール写真に使うのはなんか違うな。現実での恋はよく分からん。


 とりあえず彼女について、覚えていることは声がカッコイイよりだったことである。

 少年ボイスと言うべきだろうか。これまた同性にモテそうな女の子であった。


 彼女とはよく「好き好きゲーム」というのをやっていた。互いに好きと言って先に照れた方が負け……みたいな。

 互いに顔見えないのにやるべきゲームではない。ただイチャイチャする口実のようなゲームとなっている。


 好きを交わす度に互いの性別が逆なのではないかと思うほどに彼女はイケ女ボイスで好きを発していた記憶が印象的だ。

 当時は声変わり前であり自分の声が女の子のように高かったのもあるだろう。


 声変わり前、だから彼女と付き合っているタイミングとぴよまるくんと友達であった時期は被っていた。

 だから、ぴよまるくんに新しく彼女が出来たことを報告したのだ。

 反応は覚えていない。


 こうして着々と仲良くなっていく新しい彼女であるが、その関係はあまり長く続かなかった。


 結果から言えば俺は彼女を振った。

 付き合った期間で言えば2月にも満たないような期間な気もするし意外と長かった気もする。


 振った理由であるが

「ネット恋愛は現実的じゃない」

 である。


 ネット恋愛が成就するほど現実は甘くないと言うことを俺は彼女に説いた。

 彼女は別れを拒んでいた。

 長く続く道を信じていた、方法を提案してきた。しかしそれを俺は否定した。

 否定できたのは、俺が彼女を可愛いと思えても好きではなかったからだ。


 そうして、友達に戻ることになった。


 彼女と友達に戻った頃、季節について正直に言えば覚えていないが秋も終盤であっただろう。


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