第32話 家族

このラジオの出演も大きな反響を得た。

ブライアンがSNSでアルマクを宣伝してくれた事もあり、更に加速度的にフォロワーやチャンネル登録者数が増えていった。それにより再生回数も一気にバズり始めたのだ。この2曲が宣伝効果も生み、これまでに配信して来た他の曲の再生回数も伸びていく。あれよあれよと登録者は50万人に迫る。

そして、このあたりからチラホラとタイアップもつき始めていく。個人レーベルを立ち上げ、著作権の相談や税務の相談等で顧問選びにも奮闘。音楽以外にもするべき事はたくさんあった。

【Let’s live on】と【君のために】を中心にサブスクも申請。慌ただしい日々が続き、その間にも状況は目まぐるしく変化していく。しかし、星夜も美緑も経営にあまり興味がない。2人の共通認識としては、プレーヤーでい続ける事。

ここは2人で何度も協議した結果、この会社組織の経営は星夜の兄に任せる事にした。ゆくゆくは音楽を愛する人達を中心に、アルマク以外のアーティスト、インフルエンサー、ボイストレーナー、楽曲制作、動画編集者らが自らの才能を存分に発揮していける様な組織になったら社会貢献も出来ると考えていた。


アルマクの基本的な考えとして顔出しはしない。これは今も変わらない。音楽活動以外の時間は普通に穏やかに過ごしたい。なので、音楽番組等には一切出演しなかった。

星夜が【Ado】のLIVEに行った際に見た、シルエットしか見えない様な演出であれば公なライブ活動もしていこうと言う事になった。出来る範囲、無理のない範囲で初のライブツアーを検討していく事となった。ライブツアーをすると言っても、まだまだ大きなハコで人を集められる程の認知度ではない。

『ホールツアー』として選ばれる様な比較的小規模なところがターゲットとなる。因みに地元の愛知県では、『Zepp名古屋』に決まった。

そして、ツアーになる為、グッズの種類やデザイン等にも着手しなければならない。ただ、この作業は星夜も美緑も大好きなジャンルだ。タオル・キーホルダー・Tシャツ等の定番は直ぐに決まったが、これもまたなかなか難しい。在庫を大幅に残しては本末転倒。最終的には7つ程の種類に落ち着いた。


美緑は今でも、定期的にリハビリに通っている。勿論完治する保証はないが、いつかまた、趣味でもいいから楽器には触れたいそうだ。

一方の星夜は、今も変わらずトモちゃんにボイトレを習っている。歌の日、曲作りの日に分けて、ボーカル力と楽曲制作力の向上に余念が無い。今世の人生では、自分に満足する日は来ないまま終わるのだろう。これだけトモちゃんにお世話になっているので、アルマクのいる会社組織にいつでも招聘させてと伝える事もあるが、トモちゃんも同じ年の星夜達に刺激を受けて、自らのユニットでの野望を捨てていない。そう言う精神も理解出来る。幾つになろうが、どんな時だって、挑戦する事は自分を成長させるし、輝かせる。星夜はその意志も見守りつつ、お互いウィンウィンになる事を思い続けている。何かを始めるのに年齢は関係ないと言うが、正直少しでも早く自分の進むべき道が見えた方が良いに決まってると言う声も、よく理解出来る。

体力や記憶力、様々な体の筋力も、維持し続けるのは言う程容易くない。人間は弱い様で強いし、強い様で弱い。だがひとつだけ確かな事は、同じ志を持つ人が1人でも側にいれば幾つになって何を始めてもきっと大丈夫。様々な境遇にいる人達が存在する事はよく理解しているので、出来れば…とも言いたいところだが、

『独り』の状況は作らない事をおすすめしたい。


星夜がうつ病になり、会社を辞めてから月日は流れた。険しい会社員時代を経て、すり減った心は、完治すると言う事はないのかもしれない。今でも不安定になる時はある。

そんな星夜にとって、その苦しみに光を当ててくれたのが、美緑と始めた音楽と、もう一つは家族の存在だ。今では小学4年生となった娘は、2年生から始めたバスケットボールの影響もあってか、凄く背が伸びた。女の子なので口も達者で結構厳しい。何かあると、こちらの痛いところをついてくる。ややクールな性格も影響してか、こちらが注意を受ける際の言葉が鋭く突き刺さる事もある。娘は勉強が出来る。家ではそんなに勉強してる姿を見て来なかったが、誰に似たのか地頭は良いのだろう。絵を描くことや、レジンを使った物作りにも没頭し、なんだかんだ習い事のピアノはずっと続けている。

以前ピアノの発表会に参加した際には、初めての人前という事もあり、少しは子供らしい動揺した姿を見せるのかと思いきや、最後まで堂々と演奏して見せた。音楽に関して才能があるかは別の話だが、大した度胸だと感心したものだ。ちゃんと育ってくれている。そう感じる。

一方の息子はというと…。

まあとにかくやんちゃ盛り。それでも甘えん坊の為、父にも母にも都合よく擦り寄ってくる。詳しくは触れてこなかったが、星夜は大の野球好き。その為、息子には野球をやってくれないかなと密かに期待している。息子は体も小さいし、集中も長く続かない事もあり、何か突出したところは今のところ見当たらない気がするが、唯一思うのは、大きくて良い声をしている。既に鼻腔共鳴が発達しているのだ。

親というのはバカになる。誰だって自分の子の才能を疑わない。姉がいる男は、小さな頃から『理不尽』を沢山体験する。『姉の言う事は絶対』。そんな環境で育つと、まあ優しくなるし、女性の事を少しは理解した男に成長する。女性にリスペクトがあり、一方的に否定したりはしない。小さな頃から『仕込まれる』からだ。どんな時もお姉ちゃんの味方でいる弟でいてくれたら良いと願う。

そして、妻には…とても感謝している。

音楽を始め、そこに没頭する様になってからは、家族で過ごす時間を犠牲にしてきた。

恋人だった時、妻になった時、親になった時、そして今に至るまでの様々な『彼女』を見てきた。女性は、大人気漫画の『ドラゴンボール』に出てくる【フリーザ】の様に『変身』する毎に形態を変えていく。同じ様にどんどん強くもなっていく。男性側からすると、自分の知ってる子じゃなくなってきた…。等と困惑したり、幻滅したりする事が多いのではないか。

しかし、この『進化』は女性側からすれば当たり前の事だ。たまに会ってたかが知れた時間を過ごすだけの時と、共に生きていく事を決めた時では見える物と見えない物が変わる。同じ様に、見たい物と、見たくない物も変わる。そこに一緒に生きていく人数が増えれば、『チーム』にもならなければいけない。『出産』とは、命懸けだ。自分に大きな負荷をかけ、可愛い子供達を生んで育ててくれた妻には、根本的に感謝がある。

夫婦というのは色々あるものだ。良い時もあれば悪い時もある。身の回りに起きる事は想像の範疇を超える事もある。如何に『協力』出来るか。そして、『吐き出せる』か。これからも互いに勉強が必要だが、出来るだけ長く一緒にいられたら良いなと思う。

家族の存在は、今も星夜の大きな支えであり、原動力になっている。

そんな日常が一変するのは突然の事だった。

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