CERES07-AAR-01 着任

艦内ブリーフィングルーム。無機質な白い壁と、冷えた空気が緊張感を増幅させていた。

中央のホログラフィックテーブルに、三つの人影が向き合って立っている。


一人は、統合地球宇宙軍の戦略司令官――ハリソン提督。

残る二人は、前線任務から帰還したばかりのマラリ少尉とカワチ軍曹だった。


「よく戻ったな、マラリ少尉。それにカワチ軍曹も」

「ありがとうございます、提督」


色白で長身のマラリは、制服の襟元をわずかに正しながら答えた。

士官学校を卒業してまだ数年の若き小隊長であり、実戦経験は数えるほどしかない。

それでも視線は揺らがず、緊張の奥に固い決意を覗かせていた。


その横に立つカワチ軍曹は二十代後半。

現場経験の豊富なベテランで、わずかに肩を開いて立ち、状況全体を俯瞰している。

無言のうちに小隊長を支える構えが、態度ににじんでいた。


「君たちの戦闘記録はすでに確認した。模範的な制圧作戦だった」

ハリソン提督は頷きながら、ホログラフの操作パネルに手を伸ばす。


一瞬の光とともに、空間に惑星の投影図が浮かび上がった。

「ケレス7……ですか?」

マラリの視線が、虚空に浮かぶ小惑星を捉える。


「ケレス7は外縁宙域に位置する鉱業コロニーだ。ヘリウム-3と希少鉱物の産出量は連合でも上位に入り、航路の補給拠点としても重要視されている。外縁部には鉱山群、中心部には居住区と交易施設があり、最大稼働時には三千名以上が生活していた。定期通信や物資輸送の拠点でもあり、失われれば周辺宙域の戦略バランスが崩れる可能性が高い」


提督の声が一瞬途切れ、視線が二人に向けられる。

「昨日未明、ケレス7との定期通信が突如途絶えた。途絶の直前まで異常はなく、緊急信号も発信されていない。原因は依然不明だ」


数秒の沈黙の後に提督は続ける。


「まずはマラリ小隊に偵察を兼ねた初動任務を任せる。

生存者の有無、施設機能の稼働状況、そして敵勢力の存在――これらは後続部隊の作戦計画を大きく左右する。

つまり、この任務は単なる偵察にとどまらず、今後の作戦全体の命運を握る極めて重要なものだ」


「……我々だけで、ですか」

カワチ軍曹が、わずかに低い声で問いかけた。


「いや、今回は特殊部隊からも増援がある」

提督は即座に答え、操作パネルをタップする。

ホログラフには、二人の人物のプロファイルが映し出された。


「ノヴァ少尉、クロス軍曹。両名とも戦闘経験は豊富だ。作戦中、マラリ小隊に一時的に配属される」


やがて扉が開き、二人が現れる。

ノヴァ少尉は軽く顎を上げて声を張った。

「私が来たからには、任務は成功する。皆、期待してくれ」


クロス軍曹は短く頷き、落ち着いた声で続ける。

「共に任務を全うしましょう」


マラリはその言葉に力強く応えた。

「頼もしいです。共に頑張りましょう」


提督はわずかに顎を引いた。

「ケレス7への降下は48時間後だ。装備を整え、準備に入れ。以上だ――君たちの働きに期待している」


ホログラムが静かに消え、室内の空気がわずかに緩む。

しかし、マラリとカワチの間には緊張が残ったままだった。


「コロニー奪還か……」

カワチが低く呟く。


「初の重要任務が、これほどの規模になるとは思いませんでしたが……やるしかありませんね」

マラリの目は、再びホログラムが浮かんでいた空間を見つめていた。

そこには、若き士官としての覚悟が確かに宿っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る