第9話 探索
シェルターでの出会いから二日目。
昨日のパトロールは空振りに終わった。
女の子の口ぶりから、また絶対に会えるとトキコは確信していた。朝早くにキックボードで旅館を飛び出し、日が暮れるまで街中を探した。しかし、女の子の手がかりは何も見つけられず、しょんぼり帰ってきた。
でも、ここでめげてる場合じゃない。
もし歩いて移動しているのなら、まだ街に着いていない可能性もある。昨日は旅館周辺をぐるぐるしていたが、今日はもっと遠くまで行ってみるつもりだ。
やる気十分のトキコは、牛乳をたっぷり注いだシリアルをかき込むように食べ、弾丸のように旅館を飛び出した。
その様子を見ていた朝食当番のマトが、片付けをしながらため息混じりに呟いた。
「昨日は何も見つからなかった。今日も明日も明後日も何も見つからないかもしれない。」
今日は元気に飛び出していったが、このままいつまでも何もなかったら、トキコはどうなってしまうだろう。マトなりにトキコを心配しているのだ。
「でも、トキコは絶対会えるって思ってるわよ。」
ラディナがマトの呟きに答えた。だから問題なのだと、マトは思う。期待すればするほど、裏切られたときの反動も大きい。そう口に出しかけたが、その前にラディナが続けた。
「だから会えるわよ。」
「……何故?」
「トキコとあたしの、女の勘。」
そう言ってラディナは食堂を後にした。そんなもんが当てになるならロボットは要らないと、マトは思った。言葉にはしなかったが。
───
目指すは街の北部。あの子が街に来るなら、やっぱり湖の方からだろうと考えたのだ。
亀裂の走るでこぼこ道を真っすぐ北に向かい、五つ目の交差点、道の真ん中に置き去りにされた大きな軍用車を目印に右に曲がった。
昨日走っていて気づいたのだが、廃墟と化した街は、全体が同じような色合いで、単調な景色が続く。そのため、自分が今どこにいるのかすぐに見失ってしまう。さながら迷路のようだ。それで昨日は日和ってしまい、道に迷わないよう旅館の周辺だけにしてしまった。
でも、今日は違う。
曲がるのは、さっきみたいなわかりやすい目印のある交差点、それも一度の探索につき三回までと決めてきた。
それでも万全を期して、ここまでの道のりを記録しよう。
曲がった先の二つ目の交差点で止まり、ゴーグルを外して、背負ったリュックから縒れたノートと鉛筆を取り出す。何番目の交差点をどちらに曲がったか、そしてその交差点には何があったかを書き込んだ。これからも、曲がった先で記録を取ることにしよう。
曲がるのはあと二回。ノートと鉛筆をしまって、再びキックボードのエンジンをかける。
さらに一つの交差点を過ぎ、四つ目の交差点、目印は、なぜか三本ある信号機、左へ。
続いて三つ目の交差点、建物に突っ込んだ戦車、左へ。
しばらく進んで、キックボードを道路脇に止めた。旅館からどのくらいの距離だろう。周囲は相変わらず瓦礫と廃墟だが、他とは違う点が一つあった。
今いる場所から道を挟んで向かい側に、一際大きな建物がある。たぶん、百貨店っていうやつだ。
トキコの好奇心が囁く。探検しよう、と。こんなに大きな建物が、こんなにしっかりと残っていて、楽しくないはずがない、と。
せっかくだから、ちょっとだけ、あくまであの子を探す目的で、ちょっとだけ中を探検してみよう。あの子も、ここが気になって入ったことがあるかもしれない。
入り口まで駆け寄って、建物を見あげた。割れた窓ガラスがキラキラと輝く大きな建物は少し不気味で、冒険者を待ち受けるダンジョンのように見えた。
───
これからトキコはダンジョンの攻略に入る。リュックからグミを取り出し、数粒まとめて口の中に放り込んだ。このグミにはHP回復の効果がある。マトなら、砂糖とゼラチンと香料と着色料にそんな効果はない、と言いそうだが、そんなことは知らない。
装備品は、リュックに入れておいた懐中電灯。防具はもともと被っていたヘルメットとゴーグル。武器がないのは少し心許ないが、頑丈で動きやすいブーツを履いてきたのは、我ながら冴えていた。レベルが低いうちは逃げるが勝ちだ。ノートにダンジョンマップを作成しながら進もう。
今回の目的は、ダンジョン最深部からお宝を見つけ出し、お姫様を悪の大魔王から救い出すこと。建物だから最深じゃなくて最上部か?まあ、とにかく何でもいいから面白いものを見つけること!
「よーし!」
何物をも恐れない無敵の笑顔を浮かべ、トキコは建物内へと踏み込んでいった。
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