悪いのは誰なんだ

 飲食店が導入するタブレットは注文以外に客の精算を簡易化する。同時に注文の取り忘れを防ぐ。バイト先のチーフがそんな説明をしていたのを覚えている。

 MERINO′sのタブレットも同じ考えらしく丁寧に提供済かを教えてくれる。

 履歴を下まで遡ると、未提供マークの注文があった。“メリ男のオススメ メリノチョップ”。商品名に触れると詳細がでるが食べ放題メニューにはないし、n+3回中に実物を食べたこともない。けれども見覚えはある。

 問題は裏づけだ。店内には俺達と同じ食べ放題を頼んでいる客が複数いる。そのなかでも中年の背広男性で固まる卓を狙い、俺は席を立った。

「ごめんなさい、タッチパネルが動かなくてメニューみせてもらえませんか?」

 赤ら顔の彼らは俺を見て、顔を見合わせ、どうぞどうぞとタブレットを貸してくれた。

 タブレットを手渡してくれた男性に「美人に頼られるの良いね、色男」とヤジが飛ぶ。

 まずは注文履歴を確認する。思った通り、メリノチョップはない。続いてメニューを確認する。メリノチョップはない。

 俺は、「おすすめメニューがあるって聴いたのにおかしいなぁ」と呟いてみる。

「おすすめ? 玄関のメニューに貼ってある奴?」

 運よく目敏い客がいた。「そうそう…なんでしたっけ…」と尋ねれば、彼は隣の卓の家族連れからタブレットを借りてくれる。

「ほら、これこれ…食べ放題の対象外だから俺たちのだと表示されないんだよ。あーでも売り切れらしい」

 家族連れのタブレットには、メリノチョップが写っている。“売り切れ中です。入荷を待ってね。ごめんなさい”、頭を下げる羊は顔が白くメリ男と違うのがむかつく。

 だが、おおよそ思ったとおりだった。食べ放題を終える算段ができつつある。俺は協力してくれた客達に礼をいって卓に戻る。


「早く、早く肉持ってきてよ、まだキッチンにあるでしょ!!」

 卓を離れたのは5分。なんでこうなった?

 戻ると山内が白い顔の羊の両肩を掴みぐいぐいと揺さぶっている。山内の目は血走っているし、羊は羊で目を回している。事情は聴けそうにない。

 シノも俺より先に戻ってきていたのに状況が掴めず山内の横で慌てている。

「あ! ねぇ。どこ行ってたの。山内がぷっつんしちゃった」

「ぷっつんはないだろ! 僕はシノちゃんのために頑張ってるんだ! 肉! だせよ!」

 ぷっつんはないよな。山内。

 俺を勘定にいれないのはさておき、ついに怒鳴り始めた彼に少し同情する。けれども、羊を揺すっても店を出られないし、悪いけど今の状況は利用させて貰う。

 羊が白い顔でよかった。

 俺は羊の後ろに立つと後頭部を両手で押さえた。羊が怯えて「めっ」と鳴く。羊の顔を覗きこんで最後の確認をする。こいつら目が気持ち悪いな…。

「お前は食用か?」

 羊が大声を上げて否定した。

 遠くでめぇと鳴き声が聞こえる。アウトのラインを踏んだらしい。だが、これで正解。食べ放題はn+4回目で終わりだ。

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