44.もっと伏線を大事にしてください(震え声)

 ドラゴンを倒した。まだ巨体がビクンビクンしているので、当分余韻が残っていそうだ。


「さて、と。これで終わったんだよな……」

「ええ。そうなのだけど……」


 ドラゴンを倒したというのに、ユフィーナが不安そうにしている。

 戦友となったゴブリンに目を向ける。奴はふっと息を零すと、戦いが終わったと判断したのだろう。クールに立ち去った。

 ゴブリンがいなくなったことで、ユフィーナも敵はもういないのだと安心できたようだ。


「いや、まだ後始末が残っていたか」

「後始末って?」


 不思議そうにするユフィーナに、俺は嫌そうな顔を見せてしまった。



  ◇ ◇ ◇



 激しい戦場の痕跡。大きなクレーターの底に、ボロボロになったラインハルトが横たわっていた。


「これは、ひどいわね……」


 あまりの惨状に、ユフィーナが顔をしかめる。

 俺に至っては吐きそうになっていた。だってグロいにもほどがあるんだもんっ。ボロボロっていうかグチャグチャになっていたのだ。骨とか筋肉とか内臓が飛び出たりして、怖いほどに血が流れているのだ。失神しないだけでも褒めてほしいほどの有様である。

 ドラゴンの執拗な踏みつけ攻撃で、ラインハルトは原形を留めていなかった。いけ好かない奴ではあったけど、今はただ痛ましい気持ちしか湧いてこなかった。


「あまり好きではなかったけれど……、埋葬くらいはしてあげましょう」


 ユフィーナは目を伏せる。自分を狙った男なのに、彼女は律儀にも葬ってやるつもりのようだ。


「いや待て。ラインハルト……生きているんじゃないのかい?」


 スーザンがはっとしたように言った。耳を澄ませてみれば、微かに「かひゅー……かひゅー……」と呼吸と呼べなくもないような音が聞こえる。


「確かに息はあるようですが……。これは、死んでいないだけですよ」


 アリッサちゃんが首を横に振る。

 死んでいないだけ。生きてはいるが、死んでいるのと大差ない状態だ。こんなにもグチャグチャにされて、ここで生かされる方が残酷だろう。


「そう、だね……。こんな状態じゃあ回復魔法やポーションを使って下手に意識を取り戻す方が苦しいだろうね。伝説のレアアイテム、フェニックスの実のような奇跡でもない限りどうにもならないよ」


 スーザンの諦めた言葉を聞いて、ぽんっと手を叩く奴が一名。


「なるほど。つまり先輩の【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】の出番っすね!」


 空気の読めないノルンが、そんなことを明るく言い放った。


「え、なんでだよ?」

「ジェイル先輩のスキルには治癒効果があるじゃないっすか」

「にしたって限度があるだろ……」


 ボロボロを通り越して、表現を躊躇う有様になっている勇者。いくら俺の【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】が優秀な治癒効果を持っていたとしても、どうにかなるようには思えなかった。

 しかも相手は男である。異性じゃなければ俺のスキルは使えない。


「あたしが作った魔結晶は【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】のパワーを抽出したものっすよ。あれだけでもものすごい力が内包されていましたけど、先輩のフルパワーならフェニックスの実に匹敵するパワーを出せるはずっす」


 本当かよ……。

 だが俺のスキルもレベルアップしている実感がある。もしかしたらノルンの言っていることは事実なのかもしれない。


「ミンチになった勇者さんを救えるのはジェイル先輩だけっすよ。魔法やポーションでは無理でも、【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】ならいけるっす。奇跡を起こすのは今! さあさあ、一肌脱ぐのは今っすよ!」

「む、むう……」


 ノルンがさあさあ! と急かしてくる。

 ノルンは今まで命の危機を【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】で救われてきたのだ。言葉に実感がこもっている。実際にこの場でラインハルトを助けられるのは俺だけなんだろう。

 信頼が重いぜ……。しかし、どのみち何もしなければラインハルトは助からないのだ。

 奴を裁くためにも、ここで死なせるわけにはいかなかった。


「くそっ、目を覚ましたら責任取れよな」


 物は試しだ。やるだけやってみるか。

 ラインハルトの残骸に近づく。うぅ……近づくと血なまぐささも加わって吐き気が込み上げる。

 俺は手で奴に触れて、意識を集中した。


「【絶対発情領域ラブエリア・トリガー】……フルパワー!」


 剥き出しになった筋肉や内臓がビクンビクンと震える。グロすぎる……。

 だけど、しっかりスキルの効果が出たようだ。ラインハルトはあらゆる部位をビクンビクンさせながらも、なんとか人の形を取り戻した。

 それでも完全回復とはいかなかった。まあ命を繋いだだけで感謝してもらいたいね。


「ふぅ……これでやっと終わったか」


 勇者の命を救い、ついでに無力化した。これでようやく一息つけると安心した時であった。


「アンタ、よくもせっかくアタシが用意した玩具を台無しにしてくれたわね?」


 唐突に前方から眩い光が発生した。その中から一人の女が現れたのである。

 ……うん。いきなり知らない人を登場させるのはやめてもらえるかな? こう、伏線とかあるでしょうよ。

 理不尽を思わせる存在感。新たに登場した女に、俺は背中に冷や汗が流れるのを止められなかった。



  ───


野生のやべー人が現れた(え)


えりーさんがノルンさんのAIイラストを作ってくれています。興味のある方は近況ノートを覗きに来てくださいね(まさかの顔出し)


https://kakuyomu.jp/users/mizugame218/news/7667601420196748764

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