第9話
日も落ち、町は静けさを取り戻していた。
ルカとヴィヴィは、昨日お世話になった家で夕食を食べている。ただし、昨日のような賑やかさはない。
「メルの様子はどうだった?」
「ん、起きてから少しぼーっとしてたけど、食事もちゃんとするし、レイジさんに引っ付いていたよ。……フィルさんの妹さんの所に行って事情を話したら、メルを預かってくれることになったし、ひとまずは大丈夫だろう」
「そうか」
ヴィヴィはルカの報告を聞いて短く返してパンをかじった。今朝、フィルが作っていたものの余りだ。他にも家にあった食材を拝借し、ルカが作った料理が机の上に並べられている。
「背中の傷は大丈夫なのか?」
「おそらく平気だ。血も出ていない」
ポーターから生まれたコンダーギオに触手を刺されたが、そこまで深手ではなかったらしい。それにひと安心すると、ルカは神妙な面持ちで言う。
「まだ町の人たちは不安だろうけど、俺たちは早めに出て行こう。メルが俺たちを見たらポーターさんたちの死に様を思い出すだろうから……」
「……ああ」
町に現れたコンターギオは、町の男たちが火矢を使ってすべて退治した。近づかなければ向こうから来ることはないことが判明し、レイジが店の商品を提供してくれたのだ。
最後のコンターギオは門の前にいた。ポーターと、ルカたちが去った後にフィルから発芽した二体。ルカとヴィヴィも火矢をつがえ、感謝と悔しさとともに射った。
その後、会話がないまま食事が終わる。使った食器をルカが洗っている間、ヴィヴィは足を組んで椅子に座ったままランタンの灯りを眺めていた。
食器を洗い終え、ルカは自分の防護服や武器を点検する。
それも終えると、無言のまま居間を出て客室の方へ向かう。そして、扉の前で足を止め、背中を向けたまま決心したことを彼女に告げる。
「明日、メルの所に行ってお別れを言おう。その後は俺もルトゥタイについて行くよ」
その言葉に、ヴィヴィはゆっくりとランタンからルカの方へ視線を移した。
「家を建て直して元の暮らしをするんじゃなかったのかい?」
いじわるにも聞こえる問いかけだが、ルカの真意がわかった上で、だ。ヴィヴィなりの、本当に覚悟を決めたのか、という確認であった。
「あんな奴を野放しにしておくわけにもいかない。それに、あいつをどうにかしてもラドカーンという黒幕もいる。おそらく、ルトゥタイに向かえば何か情報が手に入るだろう」
「……そうだね。明日からもよろしく頼むよ」
「……別に、俺はお前の世話係じゃないからな」
そう言い残し、ルカは客室の扉の向こうへと姿を消した。
ヴィヴィはランタンへと目を戻す。時折揺れる火を、ガラス越しにじっと見つめていた。
やがて、その温かな灯りが消える。
月明かりが差し込む部屋で、ヴィヴィはルカを守る見張りのように、ゆったりと椅子に座って朝まで過ごした。
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