第33話

黒炎は天高く立ち上がり、絶望と虚無の交響曲の中で狂ったように吠えた。まるで地獄の柱が灰色の空に突き刺さったかのように、その炎はもがき苦しみ、自らも焼かれる魂の痛みを味わっているかのようだった。


ゾアは炎の中心に立ち、頭を抱えて自らを引き裂こうとするほどの激痛にうめく。記憶は一つ一つが刃のように心を切り裂き、底なしの苦悩と罪悪の淵へと彼を押し込む。


「…なぜ…なぜそんなことを…俺のために…」


黒炎の叫びの中で、ゾアの声は砕け散った。まるで世界全体が一つになって、崩れゆく魂の声を聴いているかのようだった。


粉々になった魂剣の破片が彼の周囲に浮かび、痛ましい記憶を反射する小さな鏡のように輝く。ひとつひとつの破片が記憶の断片――失われた笑顔、去った影――を映し出す。黒炎はそれらを包み込み、人間の痛みを愛するかのように、記憶の虚無の声にうめきながら撫でた。


目の前の相手は凍りつき、背筋に寒気が走る。本当に命を脅かされていると肌で感じた彼女は、ためらわず、最後の砦としての氷の壁を呼び出し、迫り来る悲劇を防ごうとした。


ゾアは剣を高く掲げる。黒炎は渦を巻き、光も色も飲み込み、死のブラックホールのように周囲を覆う。頭上の王冠は完成し、妖しい黒光を放つ。ゾアの目には涙が溢れ、痛みに染まった顔を伝い、まるで悪魔の涙が砕けた過去を嘆いているかのようだった。


周囲には小さな記憶の破片が星のように舞い、まるで爆発寸前の太陽の周りに浮かぶ星々のようだ。背後の空には巨大な記憶の断片が現れ、かつて存在した幸福な瞬間が黒炎に焼かれていく。空間は白と黒に染まり、生の色彩は奪われた。時間は凍りつき、残されたのは一つの燃える魂――ゾアのみ。


そして、攻撃が放たれる。


一振りの剣が空間を割り、ただの攻撃ではなく、崩れた魂の爆発となる。黒炎がその軌道を覆い、地獄からの大洪水のように全てを焼き尽くす。氷の大地は呑み込まれ、跡形もなく消え去る。砕けた氷の破片は無数の鏡のように散り、絶対的な破壊の瞬間を映し出す。


轟音が鳴り響き、大地と天の最後の叫びのように長く続いた。煙が晴れると、そこは黒炎の残骸が脈打つ荒野となっていた。


ゾアは倒れる。

彼の全てを捧げた最後の一撃の後、体は尽き果てた。


その光景を目撃した者は、悪魔が現れ、人間の生気を全て奪ったと感じるだろう。しかし――


ミレイユ・ブランシュフルは生きていた。


顔は青ざめ、恐怖で目が揺れる。彼女は見知らぬ青年の腕に抱かれていた。最後の瞬間、突然現れたその男は微笑み、手には地獄の一撃を受け止めた剣を持つ。周囲には西洋時計の古代の紋章が浮かび、小さな剣が黒炎に徐々に飲み込まれていた。


その瞬間、アックが現れたのだ。


時間操作の能力によって、彼はその凄まじい剣撃を防いだ。消えたかと思われたアックは、実際には一度も去ってはいなかった。


ここから、真実が徐々に明らかになる。


アックはかつてアコウと出会い、世界の存亡に関わる問題について話し合っていた。去る前に、アックはアコウに重大なメッセージを残した――これから学園生たちが直面するものは、単なる戦いや殺戮ではない。彼らが最も厳しく直面するもの、それは感情そのものだ。


その感情とは何か――裏切り、愛する者を失う痛み、そして何より――魂の内側からの崩壊である。ゾアはその生き証人だった。


アックは裏切られる感覚が受け入れ難く、赦すことも容易ではないことを知っていた。かつて彼自身、最も親しかった友人であるシドとケンに背を向けられた。必要な時に守ってもらえず、絶望の淵に放置されたのだ。長期にわたる鬱状態で理性を失いかけたアックは、世界には自分だけでなく、傷ついた心が無数にあることを悟った。笑顔の裏には、裏切られた心が隠れていたのだ。


「何があっても、アコウ…お前は冷静でいなければならない。文明を救う最後の希望の一人として。」


「では…私に何を望むのですか?」アコウは平静を装いつつも、瞳の奥に深いものを宿して尋ねた。


「ヒトミに代わるか、少なくとも…彼女と同等の影響力を持つ存在になることだ。」


現実に戻ると、アックは静かにゾアが倒れた場所へ歩み寄った。周囲の地面は恐ろしい一撃によって焼け焦げ、ゾアの圧倒的な力の証を示していた。


「さすがだな。消えた時間の流れから来たとはいえ、お前は我々が最も警戒すべき相手のひとりだ。」アックは静かに言い、わずかに残る惜しむような目を向けた。「ヒトミに何度も殺されそうになったとき、お前は数少ない俺を案じてくれた者の一人だ…惜しいが、俺にはお前に何もしてやれなかった。」


アックは身をかがめ、特別な力を使ってゾアの記憶を一時的に凍結させた。そのおかげで、別の場所にいるアコウはゾアの覚醒を目撃することができた。


だが、どうやってアコウはゾアの過去を目撃できたのか?


それはアックの独自能力によるものだった。ゾアの脳を通じて過去の出来事を再現し、その映像をまるで映画のようにアコウの脳へ直接送り込むことができるのだ。発動すると、アックは記憶の中に入り込み、アコウは無力な目撃者となる――見て、感じることはできても、介入はできない。


ただし、アコウは理解していた。今の時点でゾアに全てを思い出させるのは適切ではないと。現在の力では、ゾアはゼークに抗うことも、ましてや学園全体に立ち向かうこともできない。だからアコウはアックに、記憶を凍結させるだけで完全に解放しないよう指示した。時が来たとき、真実をゾアに伝えるつもりだった。


ミレイユ・ブランシュフルの驚愕の視線を残して、アックは影のように消え、冷たく不思議な空気だけを残した。その後にアコウが現れ、ゾアのもとへ歩み寄った。


「戦いは終わった。あなたの勝ちよ。今は仲間のもとに戻っていい。」アコウはミレイユに告げた。


ゾアを背負い、月明かりが木々の間から差し込む道を静かに進む。


「ごめん…勝手にお前の人生に入ってしまって、ゾア。でも約束する。もし望むなら、俺はこの学園をひっくり返し、兄貴のために復讐を手伝う。俺たちは…友達だから。」


ゾアは意識を失い、何も聞いていない。しかしアコウは信じていた。たとえ無意識でも、その心のどこかで理解しているはずだと。


戦いはミレイユ・ブランシュフルの勝利で終わった。ナサニエル・クロウリーの救出任務は成功。アコウと仲間は退却し、ゾアの回復を待つ。唯一の戦利品は、ルーカスがクライスから奪ったカードだけだった。


現状:


カラス団は2枚のカードを保持:Aと2をジファが持つ


レ・フルール・モルテルは5枚を保持


アコウのチームは1枚のみ


合計8枚が明らかになり、残り5枚は依然として謎のまま。


時間は静かに流れ、大きな戦闘はなく、アコウの計画も一時休止。他の勢力はカードを求めて動き続ける。カラス団には新たなメンバー、シェン・ユエが加わった。彼は痛ましい過去を持つ強力な戦士だ。


レ・フルール・モルテル――シェン・ユエの親友を殺した者たちは、廃教会に籠城し、誰も近づけない。


キングとクライスは早く回復し、残る学園生と戦い続ける。


アコウのチームだけが静止していた。どうやら、大きな変化はすべて彼の一歩から始まるようだ。


遠い記憶の中で――


古い木造の家の中、ゼークは煙草を吸い、9歳の少年――アコウ――と向き合って座っていた。


「研究者として、俺は数え切れない悪事を目撃してきた。間違いと知りながら、止められないこともある。人類のために、心が許さぬことをやらねばならぬ時もある。俺自身、正しい道を歩んでいるのかも分からない。」


アコウは無邪気だが聡明な目でゼークを見つめる。


「少なくとも、あなたは偉大に見えるよ。でも…本当にお父さんと兄弟なの?二人はあまりにも違いすぎる。」


背後から、木箱を担いだ屈強な男が笑った。


「お前は父が偉大でないと言いたいのか?」


それがアコウの父――ゼークの兄だった。


アコウの家族は人里離れた森で質素に暮らしていた。裕福ではなかったが、負傷した学園生を救うことにためらいはなかった。ゼークが過度の親切は不幸を招くと警告しても、父は笑って言った。「助けられるなら、助けるだけさ。」


厳しくも愛情に満ちた日々。母は温かく微笑み、アコウに世界を肯定的に見る目を教えた。


アコウはゼークの語る話に育った。見捨てられた者、実験された者、苦しめられた者たちの物語。ゼークが涙するたび、父は弟を家に呼び、ご飯を置き、「もう黙れ、食え」と言った。


そこからアコウは愛し方を学んだ。しかし、全ての苦しみの根源が一人の名前にあることも理解していた――ヒトミ。


ヒトミ――文明を鉄の手で支配し、個人的な感情を顧みない者。非道な実験、淘汰プログラム――憎悪によって歪められた人間しか生み出さない。


アコウは理解していた。全てを変えるには、学園に入り、頂点に立ち、決定権を握らなければならないと。


「すべてを変えるために…俺は頂点に立つ。失敗はしない。助けてくれ――友よ。」




















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