第25話

目の前に広がるのは、非常に混沌とした光景──沈岳(シェン・ユエ)とキングの激烈な戦いだった。


この時点で、戦局は一方に偏ってはいなかった。双方が信じられないほどの機敏な動きで攻撃と移動を繰り返す。能力はそれほど強力なタイプではない沈岳はやや劣勢であったが、一方でキングは積み重なった禍々しい気(あくき)によるダメージ蓄積の恩恵を受けていた。


教会の外からは、ルーカス(Lukas)が石の一つ一つに伝わるかすかな振動をはっきりと感じ取っていた。内部で繰り広げられる戦いの余波だった。


――「あいつ……キングと互角に戦えるのか?」――


ルーカスは沈岳の真の実力を目の当たりにして驚きを隠せなかった。


戦いの現場に戻ると、沈岳は卓越した技術でキングの攻撃の大半を軽減していた。しかし、彼の反撃は相手にほとんど効いていないように見えた。沈岳の目には、キングはまるで獲物を狙い続ける野生のライオンであり、自分は必死に抵抗するか弱い青年に過ぎなかった。


技術と俊敏さを駆使し、キングが放つ一撃一撃は建物全体を震わせた。倒壊は避けられないが、内装や構造物は容赦なく破壊されていく。


沈岳は槍を大きく伸ばし、舞うように振り続けてキングの接近を許さなかった。目の前にはほぼ完璧な防壁が築かれていた。


だが、絶対防御にも限界はある。


キングは全身に禍々しい気を溜め、極限まで顔を歪めた。目の前には濃い赤の模様が空中に描かれ、拳の軌跡は沈岳に真っ直ぐ向かっている。


――「またか……」――


沈岳は唇を噛み、緊張を隠せないまま、強烈な気配に染まったキングの姿を見据えた。


そして――極めて強烈な一撃が放たれた。赤黒い獅子が進路上のすべてを引き裂き、怒りに満ちて暴れ回る。避けなければ、沈岳はその場で命を落とすだろう。


技を使わず、彼は身を翻して致命傷を避けた。獅子の咆哮が轟き、全てを薙ぎ払っていった。荒れ果てた空間と焼け焦げた大地だけが残された。


大半を避けたとはいえ、沈岳は攻撃の端を受けてしまった。腕は重度の火傷を負い、服は焦げ、額から血が滴り落ち、痛みに眉をしかめてうずくまった。


キングはゆっくりと近づき、冷たい声で言った。


――「それだけか?」――


その瞬間、沈岳は突然立ち上がり、竹の棒でキングの腹部を突き飛ばし、相手を吹き飛ばした。キングは痛みを伴う攻撃に驚きを隠せなかった。


沈岳は毅然と立ち向かい、動じることなくキングを睨み返した。


観覧席では貴族たちが歓声をあげ、両者に賭けられた金が鳴り響くなか、誰も彼らの価値が既に最初の水準を超えていることなど気に留めていなかった。


キングは身体に付いた埃を払い、ゆっくりと前へ歩み出し、突然加速して沈岳に向けて拳を繰り出した。


二人はぶつかり合い、その衝撃で振動が響き、見ている者たちの息を呑ませた。キングの血が振るわれる竹に滴り落ちる。沈岳は片腕と片目しか残っていないが、戦線を維持し続けていた。攻撃は途切れず、砂煙の中で爆発していた。


キングは突然強烈なフックを繰り出し、沈岳を空中で回転させた。さらに蹴りを加えて地面へ叩きつけた。地面は割れ、沈岳は血を吐き苦痛の表情を浮かべる。


それでも意識は失わず、次の攻撃をかわし、竹棒で激しい反撃を仕掛けてキングを後退させた。


防御の態勢にあっても、沈岳はかなりのダメージを与えていた。彼は吠え、回転攻撃を放つが、力が尽きかけていた。


キングは吹き飛ばされて地面を転げ回る。沈岳は飛びかかり、棒を振り下ろす。キングはX字に腕を組んで防御する。衝撃で砂煙が舞い、地面に亀裂が走った。


キングの腕は貫かれ、血が滝のように流れる。沈岳は更に突こうとするが、キングは蹴りを繰り出し沈岳を遠くへ吹き飛ばす。沈岳は数回転がって地面に倒れ込み、息を荒げた。


画面の前のアコウは、この極限の戦いに息を呑んだ。


――「低ランクでも弱くないと言っても、これはさすがに……」――


キングは荒い呼吸で歩み寄り、沈岳へと近づく。致命的な蹴りを受けたにもかかわらず、沈岳は諦めていなかった。立ち上がり、荒い息をついた。


――「こんなふうにされたのは初めてだ……お前は本当に恐ろしい、キング。」――


キングも息を切らしながら笑い返す。


――「お前だけが俺をこんなに楽しませるやつだ。」――


二人は笑い合い、観衆を驚かせた。


――「こいつら、頭おかしいんじゃねえか?」――宴の貴族の一人が声を上げた。


別の貴族で宴の主催者が一口ワインを飲み、こう言った。


――「こんなクズ能力でキングと互角に戦うとは、理不尽だ。」――


彼は他の多くの貴族同様、学徒を玩具と見なし、能力ランクだけで評価していた。低ランクはクズ、高ランクこそが希少で価値ある存在だ。


だが、もし貴族たちが単なる力のゲームプレイヤーなら、ゼークはその対極にいた。彼は無能でも生き抜く度胸ある者を評価していた──アコウがその典型だ。


当初、彼はアックからこの天才の話を聞くだけだったが、実際に目撃し、学園の未来は間違いなくここにあると確信した。アコウには即座に最高点がつけられ、カードなしで合格となった。


他の審査員と平均を取る必要はあるが、その点数ならアコウは試験を突破するのは確実だ。


戦いに戻ろう──誰も止まらない。


キングと沈岳は再び激突し、拳と棒が炸裂する。沈岳は片腕と片目ながら極めて効率よく戦っていた。


キングは腕に穴が空きながらも、攻撃の威力は衰えない。彼は溜まった禍々しい気を全て込め、決定打を放つ準備をした。地面の紋様が鮮やかに光り輝く。


沈岳は慎重に心臓が高鳴るのを感じていた。もしその一撃を受ければ、確実に死ぬだろう。


もう逃げ場はない──沈岳は全力で飛び込んだ。足音が地を踏み鳴らし、砂埃が舞い上がる。


キングは顔を上げ、揺るがぬ眼差しで応える。沈岳は叫び、空間を裂く轟音を響かせた。外のルーカスもそれを聞いた。


竹棒がキングに迫り、地面の紋様が完成した。中心は沈岳だ。


――「さよなら……今まで会った中で最強の男よ。」――


凄まじい一撃が放たれた。


空気は凍りつき、その瞬間、赤く燃え盛る獅子が地獄の炎のようなたてがみをなびかせ、怒りの咆哮を上げる。風を切り裂く速度で駆け抜け、恐るべきエネルギーを放ち、地面さえ揺るがした。


一瞬のうちに、獅子の前にあったすべて──椅子、岩、雑草、静寂さえも──消し去られた。赤黒い光が津波のように押し寄せ、すべてを飲み込んだ。音さえかき消され、遠くからは重苦しい爆発音だけが残り、終末の余韻を思わせた。


そして……静寂。


広大な区域は灰と塵と化し、草一本、生き物の気配すら消え失せた。焼け焦げた黒い大地だけが残り、巨大な傷跡のように歪んでいる。煙が立ち上り、空中で渦巻き、言葉なき怨嗟を放っていた。


その瞬間、すべてが終わったかのように感じられた。


もはや戦いではなく──消滅。絶対的な終焉。容赦のない結末だ。その一撃はただの力ではなく──それを放った者の宣言でもあった。退くことなく、悔いもないと。


――「ついに……勝った。」――沈岳は呟いた。


その時、声が響いた。


――「この力があれば、我々の有力な右腕の一人になれるぞ、沈岳。」――


キングがはっと振り返ると──ネイサニエル・クロウリーが立っていた。


冷酷で恐ろしい男が沈岳を抱え、キングを睨みつける。


――「お前も限界か……さあ、送り届けてやろうか、キング?」――


言い終わらぬうちに鋭い剣が飛び出し、彼の前の地面に突き刺さった。ゾアが門からゆっくりと現れた。


――「下がれ。あいつに手を出すな。」――


ネイサニエルは眉をひそめ、不快感を示した。こう答えた。


――「まあ、この男は助ける。あとはお前が処理しろ。」――


アコウが警告していたため、ネイサニエルはゾアに手出しできなかった。彼はゾアより強いが、無闇に動けなかった。


画面越しにアコウはホッと息をついた。


しかし、安心する間もなく別の映像が映し出される。なぜ彼がルーカスではなくゾアを頼ったのか、その理由に不安が募る──ルーカスは見覚えのある影と対峙していた。


――「初対面だが、君はアコウの仲間だろう。紹介する、俺はクライス。Cランクの学徒だ。試しに一戦やろうじゃないか?」――

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