投資先の会社が倒産したので債権者集会に参加してみた

枕崎 純之助

第1話 父さんが残してくれたもの

 皆さん。ごきげんよう。

 枕崎まくらざき純之助です。


 皆さんは「債権者」という言葉をご存知でしょうか。

 債権者とは、人に対してお金の支払い要求、物の引渡し、仕事の完成などを請求できる法律上の権利を持つ人のことです。

 たとえばお金の貸し借りの場合、お金を貸した人が「債権者」となりお金を借りた人が「債務者」となります。

 債権者は貸したお金の返金を請求する権利を持ち、逆に債務者は借りたお金を返す義務が生じます。 

 

 何を冒頭からかたい話をしているのかというと、実はこの枕崎まくらざき、以前にある一件で「債権者」となったことがあるのです。

 今日はそのお話をしたいと思います。

 僕が債権者となったのは、投資をしていた先の会社が倒産して、投資をした分のお金が戻って来なくなってしまったことが原因です。


「え? 枕崎まくらざきのくせに生意気に投資なんかして、しかも失敗したの?」


 そうお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、投資をしていたのは僕自身ではありません。

 病気で亡くなった父が個人経営していた会社で生前に投資をしており、その投資の配当金を投資先の会社から毎月受け取っていたのです。

 しかし父が亡くなり、父が個人経営していた会社の代表に母がきました。

 そして父の会社には一切タッチしていなかった僕が、役員としてその会社に名をつらねることとなったのです。


「え? 枕崎まくらざきのくせに生意気に会社役員になったの?」」


 そうお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、役員なんて言ったって社員が家族しかいない会社なので全然大したことはありません。

 しかしその役員になったことで、父が亡くなった後およそ1年間に渡って僕自身も父が投資していた会社からの配当金が回ってきたのです。

 母も僕も「父さんが残してくれたものだね」と喜んでそれを受け取っていたのです。

 しかし……。

 その喜びも長くは続きませんでした。

 

 配当金を受け取って8ヶ月ほどした時のことでした。

 いつも月末に受け取れるはずの配当金がその月は振り込まれなかったのです。

 どういうことだと不審に思いましたが、その後10日ほどして予定額が振り込まれました。

 しかしそれまで配当金が遅れるなどということは一度もなかった僕は不安を覚えました。

 そしてその不安は的中するのです。


 その数週間後、投資先の会社から一通の手紙が届きました。

 内容を要約すると「実は今、資金繰りに苦労しているので、配当金の振込が遅れることが今後もあるかもしれないけれど、がんばって支払うので理解してほしい」というむねの手紙でした。

 

 やばくね?

 僕はますますあせり、すぐに投資先の会社に連絡しましたが「資金調達手段を模索もさく中ですので、しばらくお時間をください」という回答ばかりで、今後の見通しについてはまったく良い答えをもらえませんでした。

 この時点で危機感を覚えた僕は、規約に乗っ取って契約の解除を申し出ることにします。

 多少の違約金は発生しますが、投資した金額の9割ほどは戻って来るはずです。


 投資先にそのむねを伝えたところ、先方の社員さんから「分かりました。では解約手続きの書類をお送りいたします」という返答をもらい、僕は一息ついたのです。

 多少損はしてしまうけれど、これで資金が戻ってくると思ったのです。

 しかし……現実はそんなに甘くありませんでした。


 この投資先の会社に連絡がついたのはこれが最後だったのです。

 解約手続きの書類は届きませんでした。

 代わりに届いたのは……「事業停止のお知らせ」です。

 この時、僕は薄々感じていたことが現実になってしまったと知りました。

 

 投資先の会社は倒産することになったのです。

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