月虹の隠しごと

みゅぅ

プロローグ

真夜まよちゃん」

 

 声をかけられて振り向くと、部屋の前に従姉妹が立っていた。

 

星歌せいか。どうしたの、こんな時間に」

 

 今は夜の十時を超えている。普段の私たちなら既に寝ている時間だ。

 ……それを言うなら、私にこの質問が返ってきてしまうのだけれど。

 

「どうしたもこうしたも、真夜ちゃんがまだ起きてるからですよ。明日だって学校なのに」

 

 やっぱり言われた。

 

「……お父様たちは?」

「気づいてませんよ。あたしだけで来ましたから」

 

 それならよかった。家族に見つかってはいけないものが、ここにはたくさんある。

 

「何をしてるんですか?」

「……これからするべきことについて、少し整理してたの」


 そう、私がするべきこと、しなければいけないこと。それを紙に書き込んでいた。

 星歌が紙を覗き込んできた。


「最重要事項は、『あの子』を見つけること、ですか」


 紙の一番上に書いた言葉だ。


「そう。見つけないと、私の計画は始まらない」

 

 私の計画を実行するには、『あの子』の存在が不可欠だ。名前も知らないあの子が。

 昔出会ったときの、鮮やかな朝の瞳を思い出す。


「確かに見つけないといけませんが、そんなことができるんですか?名前も分からないんですよね」

「分からないけれど、絶対に『あの子』は魔法学園に入学する。私の記憶が正しければ、『あの子』は私と同い年だった」


 名前を教えた記憶はないのに、年齢を言った記憶はあるのだ。本当におかしいと自分でも思う。


「じゃあ、魔法学園に入学すれば……」

「それだともう遅い。『あの子』の力が見つかる前に……説明会の属性検査までに見つけて、隠させないと」

「え、本気で言ってますか?名簿も顔写真もない

んですよ?」

「私はずっと本気。それに、私は見つかると確信している」


 そもそも、名前を知らないなら名簿があってもなくても関係ない。記憶の中では辺りが暗くて顔立ちは当てにならない。

 手がかりは瞳だけ。それなのに、絶対に見つかるという自信がある。


「どこから来るんですか、その自信は」

「……分からないけれど。強いて言うなら――運命だから?」


 あの日、私と『あの子』が出会ったことが運命なら、きっとまた会えるはず。なんて、都合よく思っている。


「なんというか、納得してしまいそうですけど、確証なんてないんですからね!」


 騙されなかったか。仕方ない、星歌だから。

 

「一応、それも分かっているけれど」

「一応ですか。……まあ、いいですよ。あたしも協力します。あたしなら『色』も見えますよね?」

「おそらくは。できる限り私が探すけど、星歌にも探してほしい。時間がないから」


 星歌が私の依頼で失敗したことはない。なるべく手数は多いほうがいいだろうから、念の為に頼んでおこう。

 

「華藤星歌、承りました。真夜ちゃんのために『あの子』を探します!」

「ありがとう。よろしく」


 見つけるのは、きっと私だけれど。


「じゃあ、真夜ちゃんも寝てください!今日はもう終わりですよ」


 『あの子』を見つけたとしても、問題はたくさん残っている。いつ危険な状態になるのかも分からない。

 でも、大丈夫。

 絶対に私が守るから。

 少しだけ待っていて。私の対になる人。

 本当の聖女様。

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