第23話 まさかの開かれたゲートに不貞腐れる面々
「ほら、いつまで不貞腐れてるんだよ」
『せっかくご挨拶したばっかりだったぷー』
『それに、自己紹介したばかりだった』
『それと蝶ネクタイとキラキラを、確認しようとしたところだった』
『だからこれから、大切な話しを聞くところだったなんだな』
『まだ、何にもしないうちに、ここに来ちゃったわ』
「はぁ、仕方ないだろう。こればっかりは、いつこういう事になるか分からないんだから。お前たちだって分かってるだろう」
『何で今日くるぷー』
『本当よ。ここまで空気を読めないなんて』
『大切なお話し合いだったくま』
『まったくです』
「今日はダメだけど、また別の日にゆっくり時間を作ってくれるって、和也おじさん言ってただろう」
「そうだぞ。俺は嘘をつかないだろう?」
と、俺たちがビルの屋上で話している時だった。和也おじさんが協会への連絡と、メンバーへの指示を終えて戻ってきた。
「許可は降りたんですか?」
「ああ、今回は見るだけだが、俺たちの戦闘を見てもらう。おうおう、ずいぶん凄い顔してるな。今言ったが、別の日にまたちゃんと時間を作るから、今日は我慢してくれ。さすがに今回はダメだ」
「そうだぞ。とりあえず一緒に来られただけ良いじゃないか」
『一緒に来るのと、可愛いお話しを部屋でするのとは、ぜんぜん違うわよ』
『オレたち楽しみにしてたんだな』
『最悪』
はぁ、まったく。今俺たちは、ゲートが開かれた事により、出撃要請を受けて現場に来ている。と、これはいつもの事だけれど、問題はゲートが開かれた時間だった。
そう、異世界人のレオニード・カステルと彼の家族魔獣に会い、ニコニコのクルルたちが挨拶をし、魔獣も挨拶をしてくれようとした、まさにその時。ゲートが開かれて、俺たちに出撃要請が出てしまったため、話しをするどころではなくなり、みんなで現場へくる事に。
だからクルルたちはずっと、不貞腐れたままなんだよ。それにずっと、今みたいな文句が止まらないし。
和也おじさんは、レオニード・カステルと家族魔獣との面会を、他の日にずらし。絶対に会わせてくれると、約束してくれたんだけど。この約1ヶ月間、ずっと楽しみにしていたみんなを、そう簡単に落ち着かせることはできなかった。
「ほら、戦闘が終わったら、みんなでかき氷でも食べに行こう」
『それじゃあダメぷー』
『オレたちの気持ちは収まらないぜ』
「パフェも付けてやるからさ」
『考えておくわ』
『うん、考えておく』
これでもダメか? 大体機嫌の悪い時は、みんなが好きなものを食べさせてあげると、機嫌が治るんだけど。
今回のゲートのランクは1番低いDランクで。ゲートから出てきた魔獣は、この間のブラッドウルフと。これまた1番レベルが低いDランク魔獣の、シャドウラットとサンドライオンだ。
シャドウラットは、その名の通りネズミに似ている魔獣だけど。大きさはクマより少し小さいくらいで、真っ黒な姿をしている。
性格は臆病だが、とても卑怯な手を使い、攻撃を仕掛けてくる。また甲高い鳴き声で周囲を混乱させることもできるぞ。
サンドライオンは砂色のライオンのような魔獣で、大きさはライオンより少し大きいくらい、獰猛な性格だ。
群れで動き、砂を使い周りを見えなくし奇襲してくる。おもに突進や鋭い牙と爪で攻撃してくる。だけど外見のわりに、単体ならおそらくユキとルーナでも負けないと思う。
ほら、ユキたちはあやかしとしては生まれたばかりだから、まだ攻撃はさせていないんだよ。みんなと話して、そろそろだとは言っているんだけどさ。それなにユキは勝手に突っ込んでいくし。
『はぁ、さっさと倒しちまおうぜ』
『そうですね』
『さっさと倒すぷー』
『せっかくみんないるくま。可愛い見せるくま』
『もちろんよ』
みんなが大きな溜め息を吐きながら、前に出ようとする。この前みたいにビルの屋上にいる俺たち。そんなクルルたちに、待ったをかけたのがミミナたちだ。
『ちょっと、約束でしょう? 今度はこの前戦っていない私たちが戦うって』
『あ、そうだったぷー』
『ごめんごめん、忘れてたよ』
『そうね、これくらいの敵の量なら……。ユキ、ルーナは攻撃しちゃダメだからね。可愛いはさせてあげるから。約束だよ。もし攻撃したら、今日この後のかき氷、私が食べちゃうから』
『ユキくん、分かった!!』
『あたちもなの!!』
『それじゃを戦うのは私とランガ、それからピィスケとぽん吉で良いかな。優希、どう?』
「あ、ああ。それで良いぞ」
「ははっ、お前の出る幕がないな」
「ミミナは戦闘の時の判断が早いから。それに可愛い戦いができなくて、かなりイライラしてたからさ、やる気満々なんだよ」
「そうか。なら、ミミナだけでだいぶ倒すんじゃないか?」
「ちゃんとみんなの分も残すよ。その辺もちゃんと考えてるはず」
『それじゃあユキ、ルーナ、可愛い登場頑張って!』
『ユキくん、可愛い!!』
『ミーナも可愛いなの!! えと、可愛い見ててねなの』
『見ててなのぉ!!』
ルーナの真似をしながらユキとルーナが、後ろを振り返りそう言う。それから一緒にビルの端まで行くとランガが吠えて、下にいた魔獣たちがこっちを見た。そして……。
『まっしろユキくん、ふわふわふわっと可愛い登場!!』
『ふんわりルーナにみんな首っ丈なの!! ルーナ参上なの!』
そう叫びながら、ユキは右の翼を顔の方へ持っていき、左の翼はパッとと広げて、足を交差させたポーズを。ルーナは後ろ向きになって2本足で立つと、そのまま振り返り。両手を前で組んで、目をぱちぱちさせるポーズをした。2人とも小さいけど、ちゃんと見えてるかな?
ユキとルーナの登場に、少しだけ静かになる魔獣たち。だけどすぐにまた騒がしくなり、攻撃を仕掛けてこようとした。やはりまだクルルたちのように、しっかりは認識されていないようだ。でも当の2人は満足したようで、機嫌良くみんなの所に戻ってきたよ。
『2人とも、可愛かったわよ!!』
『最高だったぜ!!』
『えへへ、ユキくん可愛い』
『あたちも可愛い。ユキ、うれちいね』
『うん!!』
『あいつら見たかな?』
『見てるはずくま』
『後で話せたら聞いてみる?』
『うん、そうしよう』
みんなが後ろを見る。でもすぐに向き直って、ミミナが前に出た。
『じゃあ、次は私!! しっかり可愛い登場と可愛い攻撃見せるんだから!!』
『ミミナ、頑張って!!』
『可愛いを見せつけてやるんですわ!!』
『おう!!』
おうって……。みんなところどころに、可愛いじゃないのが入るんだよな。
ミミナがビルの端まで歩いていく。ユキとルーナの可愛いを見た異世界人と魔獣たちは、さっきよりもイライラし興奮している。もしかしたら可愛い姿だけ見せていなくなったから、馬鹿にされたと思ったのかもしれない。
まぁ、これからミミナたちの可愛い登場と攻撃を喰らえば、イライラなんてしている暇はなくなるだろう。
『ミミナ行く!!』
『頑張れぷー!!』
『ミミナ、ファイトッ!!』
ミミナが大きく息を吸い込んだ。そして……。
『かわいいミミナをみんな見て! ミミナ登場!!』
と叫び、耳をぴっぴっと動かし、立ち上がって手を口元へ持っていき、キュルンキュルンの瞳にして、最後に小さなしっぽをピコピコ振った。
ぽか~んとする異世界人と魔獣たち。
『うん! 良い感じ!! 次行く!! とぉっ!!』
ミミナがビルから飛び出す。
『可愛いミミナのかわいい攻撃!! 可愛い足蹴り攻撃ができるのはミミナだけ!!』
下に降りる寸前、まずは1番近くにいる魔獣に、1発蹴りを喰らわせるミミナ。体を潰されながら、遠くまで飛ばされる魔獣。その魔獣に巻き込まれて、やっぱりとされる異世界人と魔獣たち。
間髪入れずに、見えないスピードで飛び蹴りを喰らわせ、魔獣たちの体を押し潰したり、体を切断。着地と同時に衝撃波も放ち周りを飛ぶ。
そうして4分の1の異世界人と魔獣を倒すと、思い切りジャンプし、ビルの屋上にいるオレたちの所に戻ってきて、さっきの可愛いポーズをとった。
と、その瞬間、俺たちの後ろから、バシバシやら、パシパシやら、ドシンドシンやら、いろいろな音が聞こえてきたよ。
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