三千白のショート集
三千白
【先輩後輩1】人の話を聞かない
「引き続き、説明を行うぞ、後輩」
「お願いします、先輩」
「次のお題は、こっちの世界の人間は基本的に人の話を聞かない、だ」
「聴覚に異常がある人が多いのですか?」
「物理的に聞こえないわけではない。どちらかというと聞く気がない、と言った方が近い」
「話をしているのに聞く気がない。どいう状況なんですか?」
「後輩なら、相反する発言があった場合、どちらの言ったことを信じる?昔から知っている人と、今日会ったばかりの人と」
「質問の意味がわかりません。内容を聞いてみないと判断できないと思います」
「こっちの世界の人間は、昔から知っている人を信じる傾向がある。彼らは、発言内容ではなく、誰が言ったか、その人の役職とか経歴、関係性などを重視する」
「ますます、意味がわかりません。関係性が変わると、発言内容を変えるのですか?」
「関係性によって発言内容を変えることは、よくある事だし、その話の真偽を変えることがある。つまり、嘘を言うことがある」
「思い違いや、何かの間違いということではなくて、ですか?」
「意図的に嘘を言うことがあるということだ。珍しいというわけでもなく、よくあることだ」
「なぜ、そのようなことをするのでしょうか?」
「様々な理由があるようだが、根源には人より有利な立場になりたいという欲求があると推察する」
「嘘を言うと有利になるのですか?意味がわかりません」
「その人の功績を奪い取ったり、ありもしない罪や責任を押し付けたりすると一時的に有利になると考えているようだ」
「いずれ嘘が発覚するのでは?」
「嘘は、嘘か真か判断したときにわかるものだ。そもそも判断すること自体を放棄したとしたら?」
「嘘かどうかわからないままですね。なぜ判断しようとしないのですか?」
「信じたいものを信じる性質、”思い込み”が強いのではないかと推察する」
「判断さえしなければ真偽がわからないから、引き続き、信じたいものを信じることができるということですか?」
「そういうことになるな」
「信じがたい性質ですね」
「もう一つ推察がある。”考えるのが面倒だから”……かな」
「考えるのが面倒?嘘を言う人を放置していたら、不利な状態が悪化してどのような被害が出るか予測不能ですが?」
「被害が出て初めて、事の重大さに気が付く人が多いようにみえる。そして気が付いたときには……」
「手遅れというわけですか。恐ろしいことです。このままだと、遅かれ早かれ彼らは絶滅するのではないですか?」
「ふむ、今日会ったばかりの人に、いずれ絶滅するかもしれないから、何とかした方がいいって言われたら、彼らはどうすると思う?」
「……今日会ったばかりの人の話は聞かない、ですか。」
「このお題は以上だ」
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