第6話 爆裂も浄化もドMもいらない!? 俺、まともなPTでようやく評価される
アクシズ教徒の奇行を遠巻きに眺め、今日の依頼はどうしたものかと肘をついていた俺の耳に、聞きなれない声が届いた。
「なぁ、カズマ。お前って罠解除とか索敵とか得意だろ? ちょっと手伝ってくれないか?」
視線の先には、俺たちとは顔見知り程度の冒険者三人組。前衛が二人、後衛が一人の、見るからにバランスの取れたパーティーだ。一人分の空きがあるようで、その視線が俺に注がれている。
「……俺を誘うって、よっぽど人手が足りないんだな」
俺の言葉に、パーティーのリーダーらしき男が苦笑いを浮かべた。
「いや、その……」
男はちらりと、ギルドの酒場の片隅で、酒を飲みながらアクシズ教徒特有の熱弁をふるうアクアを一瞥する。その顔に浮かんだのは、深い諦念と、わずかな戦慄。
「アクアを一緒に連れてくると面倒だからさ。その、ダンジョン内の水を浄化してモンスターを湧かせたり、勝手に敵の死体を清めたり……」
ああ、なるほど。ダンジョン攻略においては、あいつの浄化魔法は毒にも薬にもならないどころか、ただただ厄介なだけの**地雷スキル**だからな。俺は心の中で深く頷いた。アクア抜きで誘うという、この冒険者たちの合理的かつ切実な判断に、ある種のシンパシーすら感じた。
報酬は悪くない。むしろ、普段の俺たちの依頼に比べたら破格だ。俺はちらりと、俺を置いて依頼で揉めているめぐみんとダクネスの方を向く。
めぐみん「……ですから、あの森に巣食うグールを殲滅する依頼を! たった一発、たった一発で! グールもろとも森を消し炭にする自信があります!」
ダクネス「いや待てめぐみん! グール討伐の依頼は生きたグールを捕獲して欲しいと依頼されているのだぞ! 貴様の爆裂魔法では、グールどころか森の木々も、森に住まうリスやウサギまで灰と化してしまうではないか!」
めぐみん「爆裂魔法に巻き込まれるリスやウサギは、私の爆裂魔法の前にひれ伏す栄誉を与えられた、と解釈すべきです!」
ダクネス「いや、それは違うだろうめぐみん! 貴様のその歪んだ思想は、いつか世界を滅ぼすことになりかねんぞ!」
(――あかん、この二人の言い争いは一晩でも終わらないぞ。むしろ明日、森のグールが町に流れ込んできても、まだ言い争ってるかもしれねぇ……。ま、アクアもいないし、たまにはまともなパーティーで、まともに冒険してみるか……)
俺は心の中でため息をつき、首を縦に振った。
***
前衛二人、後衛二人のバランスの良いPTに混じった瞬間、俺の地味スキルがこれでもかというほど光り始めた。
パーティーが向かったのは、最近発見されたばかりの新しいダンジョンだ。古い遺跡の地下にあるらしく、罠やモンスターの配置も不明な危険地帯らしい。
「カズマさん、罠の解除、お願いします!」
パーティーリーダーの指示を受け、俺はすっと前に出る。
(……罠か。この薄暗いダンジョン、足元に仕掛けられた落とし穴や、天井から落ちてくる落石トラップ、あるいは毒針が飛び出す仕掛けなんかが定番だよな。それに、この手のダンジョンは、決まって床に怪しい模様があったり、壁に不自然なレバーがあったりするもんだ……)
俺は冒険者としての経験と、前世でプレイしたRPGゲームの知識を総動員して、思考を巡らせる。そして、不自然に盛り上がった足元の床に気づいた。
「ストーン!」
俺は魔法でその足場を崩す。すると、**ガラガラガッ!**という音と共に、隠されていた落とし穴がその姿を現した。
「うおっ!? カズマさん、今の魔法はなんですか?」
パーティーリーダーが驚いた顔で俺に問いかける。
「これは『ストーン』。ただの土魔法だよ。足場を崩してトラップ発動を事前に潰したんだ」
「す、すごい! 俺たちじゃ気づかなかった……」
そして、次の通路では、壁に仕掛けられた毒針トラップを発見した。
(……このダンジョン、罠の起動キーが特定の石板になってるな。石板に触れた瞬間に毒針が飛び出すタイプか。これは『スティール』の出番だな……)
「スティール!」
俺は素早く手を伸ばし、毒針の起動キーである石板をすっと抜き取る。毒針は飛び出すことなく、壁の中に静かに収まったままだった。
「おおお! 見事に罠を無効化してる!」
前衛の戦士が感嘆の声を上げる。
さらに進むと、俺は壁の裏に隠れているゴブリンの気配を察知した。
(……この壁、向こう側にゴブリンの臭いがする……ってか、この壁の向こうでゴブリンが息を潜めてやがる。これは待ち伏せだな……)
俺は無言で「エネミーチェック!」のスキルを発動させる。すると、隠れていたゴブリンの影が、ぼんやりと光って見えた。
「おい、隠れてるぞ。気をつけろ!」
俺が叫ぶと、パーティーの面々が驚いた顔で俺を見る。
「なんでわかったんだ!? カズマさん、まさか……」
「……当たり前だ。俺はこう見えて、冒険者スキルを幅広く取ってんだよ。索敵に、罠解除、それにモンスターの弱点把握もな。まあ、俺から言わせりゃ、これくらいは常識中の常識だ」
俺の言葉に、パーティーの面々は感嘆の声を上げた。普段、アクアやめぐみん、ダクネスといった**脳筋パーティー**に埋もれていた俺のスキルが、ようやく光を放ち始めたのだ。この感覚、悪くない。むしろ、最高に気持ちいい! まるで、**普段は埃を被っていた名刀を研ぎ澄まし、いざという時にその切れ味を発揮した**ような、そんな達成感があった。
***
奥へ進むと、中ボスらしきミノタウロスが待ち構えていた。
「グオオオオオオオ!」
ミノタウロスの咆哮が、ダンジョン内に響き渡る。その巨体は、一撃で前衛の戦士を吹き飛ばし、後衛の魔法使いはパニックに陥っていた。
(……やべぇな。これ、普通に正面から戦ったら全滅だ。ミノタウロスは攻撃力は高いが、敏捷性は低い。それに、**このダンジョンの罠、まだ利用できるやつがあるはずだ!**)
俺は思考をフル回転させ、周囲を見渡す。そして、天井に仕掛けられた落石トラップを発見した。
「そこの落石トラップ! 今だ、ミノタウロスをそっちに誘導してくれ!」
「うおおおお!」
パーティーリーダーは俺の指示通りに、ミノタウロスを落石トラップへと誘導する。すると、**ゴロゴロと巨大な岩が天井から落ちてきて、ミノタウロスを押し潰した。**
「グガアアアアアア!」
岩に押し潰され、ミノタウロスは動きが鈍る。
(……よし! 今だ! 奴の弱点は**敏捷性の低さ**だ! この隙に……!)
俺はミノタウロスに油断して背を向けた瞬間に、すかさずスキルを発動させる。
「スティール!」
俺が狙ったのは、ミノタウロスの武器でも、防具でもない。
「……!?」
ミノタウロスが信じられないといった表情で、自分の下半身を見つめる。
**そこには、ミノタウロスのズボンがなくなっていた。**
「グ、グ、グガアアアアアア!?」
ミノタウロスは恥ずかしさからか、両手で股間を隠そうと必死にもがく。その一瞬の隙に、前衛の戦士が必殺の一撃を叩き込み、ミノタウロスは派手な音を立てて絶命した。
「……カズマさん、あんた、一体何を……」
パーティーリーダーが呆然とした顔で俺を見つめる。
「いや、なんでもねぇよ。とにかく、ミノタウロスは倒せたんだ! それより、戦利品だ!」
俺は慌ててミノタウロスの死体から戦利品を回収する。
「カズマさんがいなかったら全滅してた……! いや、まじで。あのミノタウロスの突進は、いくらなんでも防げなかったっす……」
「……まあな。俺がいれば大抵の依頼は何とかなるんだよ。俺はなんでもできるんだからな」
俺はしたり顔でそう言って、パーティーの面々と共にダンジョンを後にした。
***
依頼を終え、ギルドに戻ってきた俺は、酒場の喧騒の中に突っ立ったまま、一瞬で面倒な状況を察知した。
ギルドの受付カウンターの近くに、見慣れた三つの影がある。アクア、めぐみん、そしてダクネスだ。俺の姿を認めるなり、アクアが子犬のようにぷるぷると震え始めた。
「カズマぁ!? なんで他のPTと一緒に行ってるのよ! 私たちがいないと寂しいくせに!」
アクアの怒りが、俺の胸ぐらを掴む手に込もる。その力は、まるで俺という名の**おもちゃを取られた子供の、純粋な苛立ち**のようだった。ああ、この純粋な暴虐性、嫌いじゃない。いや、嫌いだ。
続いて、めぐみんがうなだれたまま、肩を震わせながら口を開いた。
「私の爆裂魔法の出番は……? まさか、カズマさんは私を置いて、爆裂魔法を使わない冒険に出かけていたなんて……」
その声には、深い悲しみと、**自分の存在意義を否定されたかのような絶望**が滲んでいた。このままだと、この場で爆裂魔法をぶっ放しかねない。俺は思わず後ずさり、防御態勢に入る。
そして、ダクネスが顔を赤らめて俺に詰め寄る。その瞳には、いつものように歪んだ興奮が宿っていた。
「裏切ったのかカズマぁ! 貴様、私という立派な壁があるというのに、他のパーティーと冒険するなんて……! くっ、その理由を問いたださせてくれ!」
こいつはもはや、**俺が他のPTと冒険したという事実そのものに、性的興奮を覚えている**だろう。その顔は、喜びと怒りと、そして**新たなプレイへの期待**でぐちゃぐちゃになっていた。
「いや、違うから! ちょっとした依頼に誘われただけだよ! それに、お前らが依頼で揉めてたから……」
俺が言い訳をしようとすると、俺と一緒に依頼をこなした冒険者たちが、俺を弁護するように声を上げた。
「いや、カズマさん、マジで有能だったぞ。ミノタウロスを倒すときなんて、俺らじゃ考えもつかないような作戦を思いついて、それでミノタウロスを倒したんだからな……」
「そうそう! 俺ら、カズマさんのおかげで、一度も危険な目に遭わなかったんですよ!」
冒険者たちが俺を褒め称える。その言葉に、アクアたちがさらに驚いた顔をする。
「え、カズマが? あのカズマがそんなに有能だなんて……」
「信じられません! 私が見たカズマは、いつも冒険中に駄々をこねたり、アクアに泣かされたりしてばかりなのに……」
「だが、貴様が褒められているのを見ると、なぜか胸が熱くなるな! カズマぁ!」
その場に、なんとも言えない空気が流れる。俺たちのパーティーが**いかにまともじゃないか**を、周囲の冒険者たちが**まざまざと理解した瞬間**だった。
ギルド職員「ほう、カズマくんが他のパーティーで活躍したのか。……今後も他のPTにレンタルしては? 君なら、どんな依頼でもこなせるだろうし、報酬も高くなる。うちのギルドとしても、有能な人材は多い方が助かるからな」
ギルド職員の言葉は、俺の心に**天啓の光**を灯した。
(……冒険者レンタル業か。悪くない。いや、むしろ最高じゃないか? この地獄のようなパーティーから一時的にでも離れられて、まともな冒険ができる上に、報酬もいい。それに、**俺のスキルが正当に評価される!** これ以上の天職があるか……?)
この世界に、ようやく**俺の居場所ができた**ような気がした。アクアたちの文句を背中で聞きながら、俺はすでに次のレンタル依頼の計画を立てていた。
こうして、カズマの「冒険者レンタル業」が、ギルド内で噂され始めるのだった。
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