EP 12
ドワーフの喝と鋼鉄の森
ドワーフの名工ゴッドンがフィーリアの里に住み着いて数日。彼はレーザーポインターの分解と研究に没頭していたが、ある日、気分転換にと里の周囲を見て回っていた。そして、ライザが構築した防衛施設の前で、ピタリと足を止めた。
ゴッドンは、エルフたちが作った木製の罠や、見張り台を一つ一つ、職人の厳しい目で検分していく。そして、訓練中のライザの元へやってくると、その編み込まれた髭をわなわなと震わせ、大地が揺らぐほどの大声で喝を入れた。
「なんじゃあ、この素人が作った警備はッ! なっちょらん! 全然なっちょらんわい!」
その剣幕に、訓練していたエルフたちがビクリと体を震わせる。ライザは冷静に振り返った。
「何が不満だ、ゴッドン殿。これが、私たちが今できる最善の形だが」
「最善じゃと!? 笑わせるな、赤髪の嬢ちゃん!」
ゴッドンは腰に手を当て、ライザが設置した落とし穴を指さした。
「木の蓋なんぞ、オークの一撃で粉々じゃ! 吊り橋を支えるワイヤーも、グリフォンの爪一発で切れるわい! そもそも、敵の侵攻を『遅らせる』だけの発想が甘っちょろいんじゃ! 防衛ちゅうもんはな、敵の心を『折る』ためにあるんじゃろうが!」
ゴッドンの言葉は、職人としての、そして戦乱の時代を生きてきたドワーフとしての、経験に裏打ちされたものだった。
ライザは、その指摘が的確であることを認めざるを得なかった。
「……仕方ないだろう。私たちは専門家ではないし、資材にも限界がある」
その弱々しい反論を聞いて、ゴッドンはニヤリと、挑戦的な笑みを浮かべた。
「専門家なら、ここにいるだろうが」
彼は自分の胸を、ゴツンと金槌のような拳で叩いた。
「よーし! この名工ゴッドン様が、このひ弱な森を、鋼鉄の要塞に生まれ変わらせてやるわい! オラ、タロウ! ぼさっとしとらんで、儂の言う通りの材料を出せいッ!」
突然、話を振られたタロウは、慌てて駆け寄る。
「は、はいはい! なんなりと!」
こうして、ライザの戦術眼と、ゴッドンの神業的な職人技、そしてタロウの無限ともいえる資材供給能力が融合した、フィーリア防衛計画・第二陣が始動した。
ゴッドンの指示は、まさにドワーフならではの、豪快かつ緻密なものだった。
「まず、森の木にドワーフ鋼の板金を貼り付けて強度を上げる! 敵の斧なんぞ、刃こぼれさせてやるわい!」
「落とし穴の底には、ただの杭ではなく、回転刃を仕掛ける! 落ちたが最後、ミンチよ!」
「見張り台には、ただの鐘ではなく、レバー一つで里中に警報が鳴り響く『連動式警報装置』を取り付けるんじゃ!」
「そして極めつけは、滝の入り口に、儂が設計する『三重回転式自動防護壁』を設置する! 歯車と蒸気機関を使った、ドワーフ技術の結晶じゃ! 竜が体当たりしようが、傷一つ付かんわい!」
タロウがスキルで次々と最高級の鋼材や、複雑な歯車、蒸気機関のパーツなどを取り出すと、ゴッドンはそれをまるで自分の手足のように操り、驚異的な速さで防衛設備を組み上げていく。
エルフたちも、その神業を目の当たりにして、今度は建築助手として目を輝かせながら働いた。
数週間後、フィーリアの里の姿は一変していた。
美しい森の景観はそのままに、その内側にはドワーフの叡智と技術が詰め込まれた、難攻不落の仕掛けが張り巡らされている。それはもはや、ただの隠れ里ではない。優雅さと凶悪な防御性能を両立させた、世界でも類を見ない「森の要塞」へと生まれ変わっていた。
ライザは、完成した防衛網を見上げ、ゴッドンに深く頭を下げた。
「……完敗だ、ゴッドン殿。あなたの技術は、私の戦術を遥かに凌駕している」
ゴッドンは鼻をふんと鳴らし、満足げに髭を撫でた。
「ふん、当たり前じゃ。ま、嬢ちゃんの戦術の組み立ても、悪くはなかったわい」
こうして、また一人、タロウの規格外の能力に魅せられた(巻き込まれた)仲間によって、フィーリアの里は、大陸のどの国もが無視できない、強力な武装拠点へと変貌を遂げたのだった。
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