EP 6

神秘の森と白銀の里

ヒブネの案内に従い、タロウたちはバザールの町を後にして、サバラー大陸の心臓部へと続く広大な森林地帯へと足を踏み入れた。

森は、彼らがこれまで見てきたどの森とも異なっていた。天を突くほど巨大な樹々が陽光を遮り、地面にはビロードのような苔が一面に広がる。空気は清浄で、どこからか聞こえる水のせせらぎと、鳥たちの歌声が耳に心地よい。まるで森全体が、一つの生命体として呼吸しているかのようだった。

「すごい……。空気が澄んでる」

サリーが深呼吸をして、気持ちよさそうに呟く。

「この森は『古き森』と呼ばれ、古の精霊たちの力が今も色濃く残っている場所です。私たちの里は、この森に守られています」

と、ヒブネが誇らしげに説明する。

数日間、森の奥深くへと進んだ一行は、やがて巨大な滝の前にたどり着いた。轟音と共に流れ落ちる水のカーテンが、行く手を阻んでいる。

「ここから先が、私たちの里、フィーリアです」

ヒブネがそう言うと、滝の前に立ち、澄んだ声で古エルフ語の詩を詠み始めた。すると、信じられないことに、轟音を立てていた滝の水が左右に分かれ、その向こうに隠されていた道が現れたのだ。

道の先には、幻想的な光景が広がっていた。

巨大な樹々の幹や枝に、優美な曲線を描く家々が一体化するように建てられている。家々の間には蔦で編まれた吊り橋が架かり、足元には水晶のように澄んだ小川が流れる。木々の間からは柔らかな光を放つ苔や花々が咲き誇り、里全体が淡い光に包まれていた。

「わぁ……!」

サリーもライザも、そしてタロウも、そのあまりの美しさに言葉を失う。これが、伝説に聞くエルフの隠れ里『フィーリア』。

彼らが呆然としていると、里の中から何人ものエルフたちが姿を現した。皆、ヒブネと同じように整った顔立ちと尖った耳を持ち、好奇心と少しの警戒が入り混じった目で、新来の者たちを見つめている。

その中から、ひときわ威厳のある、白く長い髪と髭を蓄えた老エルフが進み出てきた。

「ヒブネ、戻ったか。息災であったか」

「はい、長老。ただいま戻りました」

長老と呼ばれたエルフ――バウサは、ヒブネの無事を確かめると、その視線をタロウたちへと移した。その深い瞳は、まるで人の魂まで見透かすかのようだ。

ヒブネが前に進み出て、タロウたちを紹介する。

「長老、こちらの方々は私の仲間であり、命の恩人でもあるタロウ様、サリー様、ライザ様です。遠い大陸より来られました」

バウサは静かに頷き、その口を開いた。

「風の噂は、この閉ざされた里にも届いておる。悪魔を討ち、民を救った勇者様一行が、この大陸に来られたと……。ようこそおいでくださいました、フィーリアへ」

その夜、里の中央にある広場で、タロウたちのための盛大な歓迎会が開かれた。

エルフたちの宴は、人間のそれとは違い、静かで優雅なものだった。竪琴や笛の美しい音色が流れる中、木の実や果物、花の蜜から作られた芳醇な酒、そして清らかな水で育った野菜を使った繊細な料理がテーブルに並ぶ。

最初は遠巻きにしていたエルフたちも、タロウの気さくで謙虚な人柄、サリーの天真爛漫な明るさ、そしてライザの礼儀正しくも威厳のある立ち居振る舞いに、次第に心を開いていった。

宴の終わり、長老バウサがタロウたちの前に立った。

「勇者様、そしてその仲間たちよ。あなた方の旅が、安息を求めるものであるとヒブネから聞いております。もしよろしければ、このフィーリアの里に、しばらく腰を落ち着けてはいかがかな? 我らの森は、傷ついた魂を癒す力を持っております」

その申し出は、タロウたちにとって望外の喜びだった。

「ありがとうございます、長老。ぜひ、お言葉に甘えさせていただきます」

タロウが深く頭を下げると、エルフたちから温かい拍手が送られた。

こうして、タロウたちはヒブネの故郷であるフィーリアの里に住まうことになった。

彼らのために用意されたのは、里を見下ろす大樹の最上部に作られた、美しい住居だった。窓からは森の緑と、夜には満天の星々を望むことができる。

英雄としての喧騒から離れ、神秘の森に抱かれた静かな隠れ里で、四人の冒険者たちの新たな日々が、穏やかに始まろうとしていた。

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