EP 5
エルフの里への誘い
訓練場に、勝敗を決した静寂が戻る。ヒブネはライザに突きつけられた剣の冷たい感触を首筋に感じながら、ため息と共に全身の力を抜いた。
「完敗です……。ライザさん、あなたの強さは、私の想像を遥かに超えていました」
悔しさを滲ませながらも、その声はどこか清々しい。ヒブネはライザに向き直り、深々と頭を下げた。
「そしてタロウさん、サリーさん。あなた方も、きっと私などでは足元にも及ばない力をお持ちなのでしょう。隠していても分かります」
ヒブネは感心したように三人の顔を順に見渡した。
「流石は……マンルシア大陸を救ったと言われる勇者様のパーティーですね。その伝説が、決して誇張ではないことを、今この肌で理解しました」
その言葉に、タロウは少し照れくさそうに頭を掻く。
「いやいや、僕なんて大したことないですよ。ほとんど、サリーとライザのおかげで……」
「謙遜なさらないでください。この二人を率いている時点で、あなたがただ者でないことは明白です」
ヒブネは穏やかに微笑むと、ふと何かを思いついたように、その翡翠の瞳を輝かせた。
「そうだ、皆さん。もしよろしければ、私の故郷に遊びに来ませんか?」
突然の提案に、タロウたちは顔を見合わせる。
「私の故郷は、ここから森を抜けた先にある、エルフの里『フィーリア』と言います。とても美しく、静かな場所です。あなた方のような素晴らしい方々なら、きっと里の皆から歓迎されますよ。長老も、外の世界の英雄譚には興味を示すはずです」
エルフの里。その神秘的な響きに、サリーの目がキラキラと輝き始めた。
「エルフの里! 行ってみたいです! きっと、珍しい植物や魔法がたくさんありますよね!」
ライザも興味深そうに頷く。
「エルフの隠れ里か。マンルシア大陸でも、その存在は伝説として語られるだけだった。是非、訪れてみたいものだ」
タロウも異論はなかった。冒険の目的は、未知との出会い。これほど魅力的な誘いを断る理由はない。それに、このサバラー大陸の情報を得る上でも、エルフの長老の話は貴重だろう。
「いいんですか、ヒブネさん? 僕たちのような新参者が、いきなりお邪魔して」
「もちろんです」
ヒブネは誇らしげに胸を張った。
「あなた方は、私の新しい仲間であり、命の恩人でもあるのですから。フィーリアは、恩人を心から歓迎する里です」
その言葉に、タロウは笑顔で頷いた。
「決まりですね! ぜひ、そのフィーリアという里に案内してください!」
こうして、新たな目的地が決まった。
ヒブネという頼もしい案内人を得て、タロウたちはサバラー大陸の深奥、神秘に包まれたエルフの里フィーリアを目指すことになった。
まだ見ぬ美しい景色、未知の文化、そして新たな出会いを胸に、四人の冒険者の心は、期待に大きく膨らんでいた。彼らの旅は、また一つ、新たな章へとページを進めようとしていた。
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