白狐ベルルの従魔ライフ

カー

第1話

暇つぶしで書きました。3話投稿して高評価なら続けます。


その日、俺は特にやることもなく、ベッドでごろごろしながらスマホをいじっていた。


昼下がりの光がカーテン越しに差し込み、部屋はぽかぽかと温い。

机の上には食べかけのスナック菓子と、飲みかけのペットボトル。動画サイトを適当にスクロールし、くだらない配信やゲーム実況をだらだら眺める――まさに平和そのものの午後だった。


……だったのだが。


ふいに、画面の端で何かがチラリと動いた。

広告バナーだ。しかも、妙に目を引く。


『終わりのない広大な中世ファンタジーの世界で、モンスターを育て、自由に暮らそう!』


はいはい、よくある異世界系のゲーム広告ね。

だが、次の瞬間俺は二度見した。


映像が……やたらリアルすぎる。


草原を渡る風が、本物のように柔らかく草をなびかせ、川面に光が反射してきらめく。カメラが低く動くと、小石や土の質感までくっきり見える。

いや、それだけじゃない。


……匂いがする。


ほんのり湿った草の香り。土の匂い。

まさかと思い、スマホに鼻を近づけた。


「……うわ、本当に草っぽい匂いする……。最近の広告、どこまで進化してんだよ……てか、スマホに嗅覚機能なんてあったっけ……?」


妙な興味が湧き、つい広告をタップしてしまった。


すると、画面はすぐにアンケートに切り替わった。


『好きな動物は?』

『年齢は?』

『性別は?』

『和風と洋風、どちらが好きですか?』

『モンスターは人型と獣型、どちらが良いですか?』


「……おいおい、なんで広告でアンケート? 個人情報抜かれるやつじゃねえだろうな……」


文句を言いながらも、指は勝手に動いていた。


——好きな動物:狐

——年齢:十五歳

——性別:男

——世界観:和

——モンスター形態:どちらでも


入力を終えると、画面いっぱいに金色の文字が浮かび上がった。


『設定を保存しました。モンスターに転生しますか?』


「……転生?またそういうネタかよ。まあいいや、はいっと」


何も考えずに『はい』をタップした、その瞬間――。


——ピカッ! ドンッ!


昔の理科実験で見たマグネシウム燃焼の光が可愛く思えるほどの閃光が視界を埋め尽くし、脳内を雷が直撃したような衝撃が走る。

耳をつんざく轟音。

目を焼くほどの白光。

そして全身が真空に引きずられるような浮遊感。


「っ……ぐ、うぁ……!」


息ができない。

上下左右の感覚が消え、ただ光と音だけが世界を支配する。

喉を震わせても声は出ない。

時間の感覚すら、じわじわと溶けていった。


……やがて。


ふっと、世界が静まり返った。


目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。

湿った木の香り。虫の羽音。遠くで鳥が鳴く声。

俺は古びた神社の拝殿の前に……立っていた? いや、立ってはいない。


「……ん? え?」


視線を下ろした瞬間、全身の血が逆流する感覚に襲われる。

腕がない。代わりに、ふわふわの白い前足。

体はやけに小さく、地面が近い。

後ろを振り返れば――純白の尻尾が一本、ふさふさと揺れていた。


「な、な、な……っ!? 俺、キツネ!? いや、なんで!? どうして!?」


混乱して叫んでも、口から出るのは甲高い「コン!」という鳴き声だけ。

夢……にしてはリアルすぎる。匂いも、温度も、風の感触も。


『召喚に……』


え? なんか今、声が……。


あーもう!なんでもいい!誰でもいいから助けてくれ!


『承諾を確認。対価:何でも』


ふぇ? なにこの即決感のある物騒な声!?


その瞬間、足元が淡く光った。

体がふわっと浮き上がり、足場が消え、視界がぐにゃりと歪む――。


気づけば、俺は円形の魔法陣の上に立っていた。

周囲は石造りの広間。壁には奇妙な紋章や旗。天井からは魔力の粒子のような光が降り注いでいる。

背後には、杖を持ったローブ姿の老人が数人。

そして正面には――黒髪で十五歳くらいの少女。腰には短剣、右手には分厚い本。


「……来てくれた。私の……初めての従魔」


ほっとしたように微笑む少女。

その目は、俺をペットとして見ているかのようだった。


一方俺は、鳴き声しか出せず完全に硬直。

頭の中は「なんで狐?」「ここどこ?」「このガキ誰?」の三本立てで大渋滞。


「……まずは移動しよう」


そう言うと、少女は俺を抱き上げた。

柔らかいローブの感触と、かすかな花の香り。狐の鼻は妙に性能がいいらしい。


移動中、彼女は口を開いた。


「……あなた、どこから来たの?」


そんなこと聞かれても、しゃべれないし……。


俺が困っているのを察したのか、彼女は言った。


「……念話が使える。言いたいことを、念じてみて」


念じる……って、えっと……。


『こ、こんな感じ?』


「……うん、聞こえてる」


『す、すごい!』


『私からもできる。これで話そう』


『はい!』


そこから彼女は説明を始めた。


『召喚士ってわかる?』


少女は歩きながら、ちらっとこちらに視線を向けてきた。


『ごめんなさい、全く……』


俺は耳をぺたんと寝かせつつ、素直に降参。


『簡単に言うと、魔物を召喚して従魔にして戦う人』


『なるほど……じゃあ従魔っていうのは、その召喚士が召喚した魔物ってことですね?』


『そう。……ところで、召喚には対価が必要』


彼女の声が少し真剣になる。


『でも、あなたの場合……何故かこちらで対価を決められるみたい。普通はそんな仕様、ありえないんだけど。なぜ?』


えっ、そんなレアケース俺? 

あ、そういえば転生直前に「対価は何でも」って聞こえた気がするな……。でも詳しいことはさっぱり。


なら——


『……わかんない!』


尻尾ぶんぶん、開き直りMAX!


これぞ会話最終補完奥義、「知らぬ存じぬ戦法」!


あらゆる面倒ごとを笑顔(?)でスルーできる、サボり狐の必殺技だ!


少女はほんの一瞬眉をひそめたが、すぐにため息をついて首を振った。


『そう……まあ、いいわ。じゃあどうする? 呼び出すときだけ来るか、ここで暮らすか』


その問いを聞いた瞬間、俺の中で答えは稲妻のように走った。


『ここで暮らします!』


それはもう食い気味に即答!


古びた神社で孤独コースなんてまっぴらごめんだ。

それに、人と関わりがあるほうが楽しいに決まってる。


あと……せっかく可愛い白狐になったんだ。愛でられてナデナデされて、ぬくぬく生きるのが一番だろう!


俺は胸を張………れないので、代わりに尻尾をふわっと持ち上げて、決意表明のポーズを取った。


少女はそんな俺を見て、くすっと笑った。


『じゃあ、決まりね。あなたは私の従魔として、ここで暮らす』


『少しステータスを確認するね』


『おお、ステータス!』


——ワクワクしながら見た結果。





名前:未設定

種族:妖狐(白狐)

年齢:0歳

性別:雄

属性:火/幻

ランク:F

状態:健康


レベル:1

HP:50/50

MP:60/60

攻撃力:15

防御力:10

敏捷:24

知力:20

幸運:10


スキル

幻火 Lv.1:実体のない狐火を発生させ、対象を惑わす

変化 Lv.1:簡易的に姿を変える

感覚強化(聴覚/嗅覚) Lv.2


特性

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『……?』


『……?』


同時に首をかしげる俺と少女。


いや、弱いのはわかるけど、それより先に言いたいことがある。


『『何この文字化け!?』』


スマホの文字化け修復アプリで直せそうなやつが並んでいる。


だが、スマホはない。

……あっても世界観ブレるし。


まあいい。どうせなら!

せっかくの狐生、楽しませてもらうとしようじゃないか!

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