13話 失恋卒業!?黒薔薇の君
ローズフェスタが終わり、屋上サロンは取り壊されることなく、生徒たちの憩いの場として存続することになった。学校側のお墨付きだ。
この知らせを受けたミアと手芸部員は心から喜んだ。
管理は手芸部と風紀委員に任されている。当初は「全く面倒な仕事が増えたよ」と言う風紀委員もいたが、しばらくすると彼らものんびりとお茶を楽しむようになり、不満の声は少数派となった。
ミアもその光景を見て、作ったかいがあったと思った。
*
放課後、校舎をパトロールしていた風紀委員のアリスは、テーブルの上の見覚えのある詩集に目を留めた。
(もう!また落とし物だらけじゃない!風紀委員の仕事が増えるばかりよ!)
つい手にとってめくってしまう。
「あら、これは『夕暮れの調べ』第3版限定版?!これ、限定版……」
(予約が遅くて手に入らなかったあれよ!)
アリスは1枚の紙が挟まっていることに気づき、折りたたまれたそれを開いた。
(だ、誰の持ち物か分かるかもしれないもの)
青いインクで記された波打つ筆跡。
詩のフレーズのようなものが記されていた。
『赤い髪が夕日に輝き、三つ編みに結んだ意志の強さ?君は薔薇より美しい。
その瞳に映る、学園の秩序を守る光』
(なにこれ?一体誰の事なの?)
彼女にはそれが誰の筆跡か心当たりがあった。
その人物の声が背後で聞こえた。
「あ!それ!」
詩集を取りに戻ってきたレンとアリスの目が合った。
「その、落とし物を取りに……」
「これ、あなたの?」
思わず彼女の声が裏返る。
「あの……君、僕の詩、読んだことってあるかな?」
「え?!そ、そんなわけないじゃない!今、たまたま目に入っただけよ!」
「そうか……実は君に読んでもらいたくて、詩を書いてるんだけど……」
(思わず本音を言ってしまったよ!)
「え?」
(ありえない!私達ずっと仲たがいしてるのに、どういうこと?
レン、頭でも打ったのかしら?)
アリスの頭の中は混乱していた。
(まさか、他にも詩集があって、私に対する呪いや憎しみの感情が綴られているとか?)
「あの、次の詩集、楽しみにしてるから」
(私までおかしくなってる!?でも、本当に見たいのよ、才能あるレンの詩
何でもいいから読みたいの)
「え?アリス今なんて?」
「ふ、風紀委員として、学園内の出版物をチェックするのは当然でしょ!」
(ああ、うまく切り抜けられそう……)
「そうか、大変だね」
レンは分かりやすくがっかり肩を落としている。
アリスが本当に言いたいのは、こんなことではない。
せっかく、レンからうれしい言葉をもらったのだ。
今が謝るその時だ、ついに彼女は決心した。
「レン。子供の頃のこと、ごめんなさい」
「え?」
「『話しかけないで』なんて、意地悪なを言って。あなたはただ優しくしてくれただけなのに……」
アリスは意を決して謝罪の言葉を続けた。
「あなた、何を見ても、『かわいいね』って言ってた。犬も、猫も、鳥も、花も、昆虫にまで……」
当時は、それが無邪気で子供っぽくみえて、アリスの気に障ったのだ。
い・つ・も、同じ形容詞……。かわいい……。
それしか言えないの?
アリスはかわいいって、私はテントウムシと同じなの?
レンから可愛いと言われるたびに、疑問が渦巻いていくアリスだったのだ。
「それが許せなくて……。でも、今思えば馬鹿みたいな理由よね」
アリスは自嘲気味に呟いた。
「君が教えてくれたから、僕は変われたんだ。
『かわいい』しか言えないのって言われて、最初はショックだった。でも、君の言葉があったから、僕は国語を頑張るようになった。詩人になれたのも、君のおかげなんだ」
「でも、あなた最近『黒薔薇の君』って呼ばれて、すっかり軽薄になっちゃって…」
アリスは少しすねたような顔をしている。
「あ、それは…実はセレスティアに『嫉妬作戦』を提案されて……」
「嫉妬作戦?」
「君の気を引くために、他の女子に人気になれば振り向いてくれるかもって…でも裏目に出たみたい」
「あの……」
「うん?」
「『黒薔薇の君』って、結構、似合ってたわよ」
「え?」
「べ、別に褒めてるわけじゃないけど!でも、あの……
たまには、そういうのも悪くない……かも」」
「なに?」
「私にも、ああいう感じで話しかけてみたら?『レディ』とか言って……」
アリスはぼそぼそと囁いた。
「美しきレディ、アリス。君の瞳は夕日よりも美しい」
「……っ!」
「どう?」
「ま、まあまあね。でも『美しい』だけじゃなくて、もっと語彙力を……」
顔は真っ赤だが、嬉しそうだ。
しかし、レンの心中には、例の禁句が渦巻いていた。
(かわいい、かわいいよ、アリス、かわいすぎる!ああ、それしか言えない)
「僕ら、もっと早く話し合えばよかったね」
「意地を張っていた私、馬鹿みたいだった」
そして、黒薔薇の君と赤薔薇の少女が結ばれた噂は、レンが光の速さで詩として発表したため、学園中を駆け巡った。
男性ファンは「俺たちのレン様を返して……」と嘆いていた。
彼らにとってレンは失恋や哀しき男心の代弁者だったのだ。
ミアはアリスの変化を感じ、ローズフェスタの頃よりもぐっと穏やかで、きれいになった気がすると思った。
生徒会室でセレスティアも喜んでいた。
「私の作戦はうまくいかなかったようですが……。
両片思いとは、かのように、美しくドラマティックなのですね」両手を胸の前で交差させてうっとりとした。
「正直、僕としては、話がこじれた原因にドン引きですよ……。
かわいいが原因だなんて」
ルイスはやれやれと思いつつも仲間を祝福した。
*
屋上サロンも彼らの恋の噂でもちきりだった。
「あのお二人、仲が悪いと思っていたら実は両片思いだったなんて!」
「ホント、おどろきよね」
「誤解が解けてよかったわね」
「ねぇ、サクラちゃん、両片思いって?」
「両方好きなのに、お互いが『相手は好きじゃない』って思い込んでる状態のことだ」
サクラのあっさりとした説明に、ミアは目を丸くする。
「そんな、ありえない、もったいない……!」
屋上サロンからの帰り道、ミアは「両片思い」という言葉を、何度も心の中で繰り返していた。
(もしも、もしもだけど……アレクシスも私のことを好きでいてくれて、私たちも「両片思い」だったとしたら……)
ミアの頬が、桜色に染まっていく。
(なんだか、ドキドキしてしまう!)
妄想は止まらない。
ローズフェスタが終わってしまっても、もし両片思いだったら、ずっと一緒にいられるとミアは空想した。
夏には太陽の光がきらめく湖畔を散歩して、魔法の小舟に乗って……。
そして、冬の雪が降る夜には、暖炉の前で二人きり……。
ミアは想像するだけで、胸が熱くなり、足がフワフワと宙に浮くような感覚に陥った。
(飼い主様とそんなこと……。
でもいいよね?ちょっとくらい夢見ても)
「ミア、ニヤニヤしてキモいぞ」
サクラの容赦ないツッコミに、ミアはハッと我に返り、慌てて口元を押さえた。
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