13話 失恋卒業!?黒薔薇の君

ローズフェスタが終わり、屋上サロンは取り壊されることなく、生徒たちの憩いの場として存続することになった。学校側のお墨付きだ。


この知らせを受けたミアと手芸部員は心から喜んだ。


管理は手芸部と風紀委員に任されている。当初は「全く面倒な仕事が増えたよ」と言う風紀委員もいたが、しばらくすると彼らものんびりとお茶を楽しむようになり、不満の声は少数派となった。


ミアもその光景を見て、作ったかいがあったと思った。



放課後、校舎をパトロールしていた風紀委員のアリスは、テーブルの上の見覚えのある詩集に目を留めた。

(もう!また落とし物だらけじゃない!風紀委員の仕事が増えるばかりよ!)


つい手にとってめくってしまう。

「あら、これは『夕暮れの調べ』第3版限定版?!これ、限定版……」

(予約が遅くて手に入らなかったあれよ!)


アリスは1枚の紙が挟まっていることに気づき、折りたたまれたそれを開いた。

(だ、誰の持ち物か分かるかもしれないもの)


青いインクで記された波打つ筆跡。

詩のフレーズのようなものが記されていた。


『赤い髪が夕日に輝き、三つ編みに結んだ意志の強さ?君は薔薇より美しい。

その瞳に映る、学園の秩序を守る光』


(なにこれ?一体誰の事なの?)

彼女にはそれが誰の筆跡か心当たりがあった。

その人物の声が背後で聞こえた。


「あ!それ!」

詩集を取りに戻ってきたレンとアリスの目が合った。

「その、落とし物を取りに……」

「これ、あなたの?」

思わず彼女の声が裏返る。


「あの……君、僕の詩、読んだことってあるかな?」

「え?!そ、そんなわけないじゃない!今、たまたま目に入っただけよ!」


「そうか……実は君に読んでもらいたくて、詩を書いてるんだけど……」

(思わず本音を言ってしまったよ!)


「え?」

(ありえない!私達ずっと仲たがいしてるのに、どういうこと?

レン、頭でも打ったのかしら?)

アリスの頭の中は混乱していた。

(まさか、他にも詩集があって、私に対する呪いや憎しみの感情が綴られているとか?)


「あの、次の詩集、楽しみにしてるから」

(私までおかしくなってる!?でも、本当に見たいのよ、才能あるレンの詩

何でもいいから読みたいの)


「え?アリス今なんて?」

「ふ、風紀委員として、学園内の出版物をチェックするのは当然でしょ!」

(ああ、うまく切り抜けられそう……)


「そうか、大変だね」

レンは分かりやすくがっかり肩を落としている。


アリスが本当に言いたいのは、こんなことではない。

せっかく、レンからうれしい言葉をもらったのだ。

今が謝るその時だ、ついに彼女は決心した。


「レン。子供の頃のこと、ごめんなさい」

「え?」

「『話しかけないで』なんて、意地悪なを言って。あなたはただ優しくしてくれただけなのに……」

アリスは意を決して謝罪の言葉を続けた。


「あなた、何を見ても、『かわいいね』って言ってた。犬も、猫も、鳥も、花も、昆虫にまで……」


当時は、それが無邪気で子供っぽくみえて、アリスの気に障ったのだ。

い・つ・も、同じ形容詞……。かわいい……。


それしか言えないの?

アリスはかわいいって、私はテントウムシと同じなの?

レンから可愛いと言われるたびに、疑問が渦巻いていくアリスだったのだ。


「それが許せなくて……。でも、今思えば馬鹿みたいな理由よね」

アリスは自嘲気味に呟いた。


「君が教えてくれたから、僕は変われたんだ。

『かわいい』しか言えないのって言われて、最初はショックだった。でも、君の言葉があったから、僕は国語を頑張るようになった。詩人になれたのも、君のおかげなんだ」


「でも、あなた最近『黒薔薇の君』って呼ばれて、すっかり軽薄になっちゃって…」

アリスは少しすねたような顔をしている。


「あ、それは…実はセレスティアに『嫉妬作戦』を提案されて……」

「嫉妬作戦?」

「君の気を引くために、他の女子に人気になれば振り向いてくれるかもって…でも裏目に出たみたい」


「あの……」

「うん?」

「『黒薔薇の君』って、結構、似合ってたわよ」

「え?」

「べ、別に褒めてるわけじゃないけど!でも、あの……

たまには、そういうのも悪くない……かも」」

「なに?」

「私にも、ああいう感じで話しかけてみたら?『レディ』とか言って……」

アリスはぼそぼそと囁いた。


「美しきレディ、アリス。君の瞳は夕日よりも美しい」

「……っ!」

「どう?」

「ま、まあまあね。でも『美しい』だけじゃなくて、もっと語彙力を……」

顔は真っ赤だが、嬉しそうだ。


しかし、レンの心中には、例の禁句が渦巻いていた。

(かわいい、かわいいよ、アリス、かわいすぎる!ああ、それしか言えない)


「僕ら、もっと早く話し合えばよかったね」

「意地を張っていた私、馬鹿みたいだった」


そして、黒薔薇の君と赤薔薇の少女が結ばれた噂は、レンが光の速さで詩として発表したため、学園中を駆け巡った。


男性ファンは「俺たちのレン様を返して……」と嘆いていた。

彼らにとってレンは失恋や哀しき男心の代弁者だったのだ。


ミアはアリスの変化を感じ、ローズフェスタの頃よりもぐっと穏やかで、きれいになった気がすると思った。


生徒会室でセレスティアも喜んでいた。

「私の作戦はうまくいかなかったようですが……。

両片思いとは、かのように、美しくドラマティックなのですね」両手を胸の前で交差させてうっとりとした。


「正直、僕としては、話がこじれた原因にドン引きですよ……。

かわいいが原因だなんて」

ルイスはやれやれと思いつつも仲間を祝福した。



屋上サロンも彼らの恋の噂でもちきりだった。

「あのお二人、仲が悪いと思っていたら実は両片思いだったなんて!」

「ホント、おどろきよね」

「誤解が解けてよかったわね」


「ねぇ、サクラちゃん、両片思いって?」

「両方好きなのに、お互いが『相手は好きじゃない』って思い込んでる状態のことだ」

サクラのあっさりとした説明に、ミアは目を丸くする。


「そんな、ありえない、もったいない……!」


屋上サロンからの帰り道、ミアは「両片思い」という言葉を、何度も心の中で繰り返していた。


(もしも、もしもだけど……アレクシスも私のことを好きでいてくれて、私たちも「両片思い」だったとしたら……)

ミアの頬が、桜色に染まっていく。

(なんだか、ドキドキしてしまう!)


妄想は止まらない。

ローズフェスタが終わってしまっても、もし両片思いだったら、ずっと一緒にいられるとミアは空想した。


夏には太陽の光がきらめく湖畔を散歩して、魔法の小舟に乗って……。


そして、冬の雪が降る夜には、暖炉の前で二人きり……。

ミアは想像するだけで、胸が熱くなり、足がフワフワと宙に浮くような感覚に陥った。


(飼い主様とそんなこと……。

でもいいよね?ちょっとくらい夢見ても)


「ミア、ニヤニヤしてキモいぞ」

サクラの容赦ないツッコミに、ミアはハッと我に返り、慌てて口元を押さえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る