5話 みんなの秘密基地

「そうだ!いい事思いついちゃった!」


夜明け前にパチリと目を覚ましたミア。

入学式のときに、助けてくれたアレクシスにお礼を渡してないことに気が付いた。

(すぐにお礼しなきゃ!

これを口実に、顔を見に行けるしね!)


田舎から持参した、祖母特製の魔法護符を渡そう。

小さな青い石を紙に貼りつけた素朴な護符。

霊験あらたか、効果はイボ取りから世界平和までどんな願いにも万能らしい。


思い立ったら即行動、ゴソゴソと机の引き出しをあさる。

(もっとちゃんと整理しておけばよかったなぁ)


まだ薄暗いけど、元猫なので夜目はへっちゃら。

えっと、安産祈願? こっちは家内安全、商売繁盛。


あった!これ!

引き出しの中で青い石がぼんやり光っていた。

彼女は目をとじて祈った。

「護符さん、どうか、彼をお守りください!」

思いを込めた途端、護符から虹色の光がパーッと輝きだし、まばゆい光をまき散らした。


「ん~、ねみぃ、わわ!なんだよ、この光!」

サクラがネグリジェのまま、目をこすりながらあたりを見回し驚いた。


「サクラちゃん、起こしちゃってごめんなさい。

ちょっと机の引き出しの整理をしてて」

「ん~そっかぁ、じゃ俺はまた寝る」

サクラはベッドにばたんと倒れ込んだ。

「サクラちゃん、二度寝は危険だってば―!!」



翌日の昼休み、ミアは勇気を出し風紀委員室のドアをノックした。


「はい、どちら様でしょうか」

出てきたのは、おかっぱ頭に丸眼鏡の少年。前髪ぱっつんが印象的だ。

アレクシスより少し背が低く、穏やかそうに見えるが、どことなく皮肉っぽい笑みを浮かべている。


名をシモン、彼はミアを見て、かわいく初々しい新入生だと好感を持った。が、自分の仕事はきっちり遂行させてもらうつもりだ。


「あの、アレクシス様はいらっしゃいますか?お礼を渡したくて。

私、ハートウェル男爵家のミアと申します」


「ああ、アレクシス様へのお礼ですか。申し訳ありませんが、彼は今、研究棟の方へ行っておりまして」

シモンと名乗った彼は、丁寧だけどどこかよそよそしい。

(アレクシス様に、この手の申し出、多すぎるんだよなぁ)


「そうですか。では、これをお渡しいただけませんか?」

ミアは護符を差し出した。シモンはそれを受け取ると、軽く眉を上げる。


(まったく、今どき手作り護符って……手作りセーター並みに重くて、ちょっとねぇ)


「一応、僕がお預かりしますね。点検など色々あるんですよ」

シモンはうんざりしつつ思った。

(今後は一切禁止にしたほうがいいのかもしれない)


彼は、日夜アレクシスの負担を少しでも減らすため苦労しているのだ。

その負担は、最近急激に増していて、アレクシス達の研究に進展があってからはなおさら気を張っていた。


「ありがとうございます……」

ミアは小さくお辞儀をして、その場を後にした。


とぼとぼと廊下を歩きながら、胸の奥がずしりと重い。やっぱり、昔とは違うんだ。


今の二人の距離を思い知らされる出来事だった。

でも、それでもと彼女は思う。


(助けてくれた時の、あの優しい眼差しは本物!変わらない!)


ミアは校舎を出ると、風を切りながら思い切り走った。みんなが待ってる温かい場所に行けば、この重い気持ちもきっと軽くなる。


屋上は、手芸部のみんなが持ち寄った色とりどりの布やクッションが散りばめられていた。風に揺れるガーランド、手作りのランタン、そして何よりも心地よいのは、みんなの笑顔。



「おい、何これ?」

招待していたサクラが屋上にやってきて、目を丸くした。


「秘密のお昼寝サロン!手芸部のみんなと作ったんだ、どう?」

「悪くねぇな。さ、お呼ばれしたからには、手土産だぜ」

サクラは紙袋から、ごそごそと茶色く丸いお菓子を取り出した。

「これ、俺の故郷の菓子、どら焼き。ほら、食べてみろ」


ふわふわしっとりした甘い皮に、豆をつぶして練ったあんこ。初めて見るお菓子に、手芸部の先輩たちは大喜び。


「これ、こっちで売ったら絶対儲かるわ!」

「バターを薄くスライスして挟んでも合いそう!」

「うんうん、紅茶は砂糖なしがぴったりねぇ」


みんなで盛り上がっていると、階段から足音が聞こえてきた。


「誰かいるの?」

現れたのは寮の上級生たち。大はしゃぎでクッションにダイブし、お昼寝サロンを楽しみ始めた。


「こんな場所、誰が作ったの?」

「え、えーっと……」ミアが慌てると、サクラが助け舟を出してくれた。

「こいつのアイデアなんだぜ」

「すごいじゃない!今度お友達も連れてくるわ!」

「私も昼休み、ここでお弁当食べたい!」


計画はどんどん膨らんでいく。詩集を読む会、お菓子持ち寄りパーティー。ミアは思わず「にゃーん」と言いそうになり、慌てて口を押さえた。


「どうしたの、ミアちゃん?」

「な、なんでもありません。ちょっと、嬉しくて!」


春のうららかな陽気の中、ミアは空を見上げた。ふと、心に黒いシミのような心配事が浮かんだ。


アレクシスの顔を思い出し、不安になる。彼の銀縁眼鏡越しの目、厳しいという噂の風紀委員会。


でも、みんなが楽しそうにしているのを見ると、胸の奥が温かくなる。

(いいや、今はみんなに喜んでほしい!)


一瞬の葛藤を乗り越え、ミアは自分を励ます。みんな癒しは必要だもん。きっと、喜んでくれるはず。


この場所はとても温かくて、ホームシックになる暇もないほど安心できる。

(だから、いつかアレクシスにも、ここでゆっくりしていってほしいな)


先日、教師と話していた彼の瞳には、深い影が宿っていた。

飼い主様には、幸せになってもらいたい。

ただそう願う気持ちが、ミアの心を占めていた。


そして気持ちを切り替え、彼女は新たな計画を胸に浮かべた。

明日の放課後は、日除けになる天蓋風パラソルハウス作り!棒に古いシーツやカーテン、重りやひもを集めなければ。


明日からも忙しくなりそうだけど、きっと楽しい毎日になる。

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