第6話 サダノブ 昏倒の幕開け

「あ、あのぉ…どちら様でしょうか?」

 緊張で頭はパンパン、気持ちもイッパイイッパイの僕

「もぉ、私のこと知ってるでしょ?」

 僕の方に顔を近付ける美人さん…って、近い近い!

「ほへ?」

 いよいよ語彙までおかしくなりだす。

「アカリよ、アカリ!

 渡辺 アカリ!」

 自己紹介を済ませる女性

「っっっ…ぅぅ…うえええぇぇぇ~~~!!」

 語彙を欠いた絶叫に周りが反応する。

 慌てて僕の口を抑えるアカリ。

 彼女の名前は…省略するね。

 ユカリと同じ学校に通っている高校二年生。

 ユカリと同じ図書委員で、二人の仲もすこぶる良好。

 そして、僕が通っている合気道道場のでもある。


 …なのだが、アカリさんが『こんな美人』とは聞いてないぞ!

 それにアカリさんは、何故この時間にこの場所に居るんだ?


 というわけで振り出しにようやく戻ってきた訳でした。


 閑話休題それはさておき


「あ、あのぉ…アカリさん?」

 語彙乏しめの僕

「ん?

 何を改まってるの?

『アカリ』で、良いわよ。」

 鼻歌混じりで嬉しそうに歩くアカリ。

「今日はお日柄もよろしく、そのぉ…。」

 どうなってるんだ、僕の語彙!

「もぉ、周りくどいんだからぁ!

 男なんでしょ?

 ちゃっちゃと話す!」

 外見は美人のままだが、中身は平常運転のアカリ。

「なんでアーチャンはここに居るんだ?」

 ようやく僕も平常運転に戻れそうだ。

「アンタをデートに誘ったからでしょ?」

 即答するアカリ。

「デートに誘うぅ…?」

 僕の頭、またまた思考が停止し始める。


「男の子をデートに誘い出すには『逆チョコ』が良い!

 って、友達に言われて…高かったんだぞぉ、あのチョコレート。」

 そう言って立ち止まり、僕の顔を覗き込むアカリ。

「チョコレートって…

 …

 …

 …

 ああっ!」

 思い出してきた!

 昨日、母さん達が美味しそうに食べてたブツ

『ワタナベ アカリさんって知ってる?』というユカリからの問い掛け。


「お心当たり出てきたかしら?」

 すまし顔のアカリの前に、思わず僕は土下座した。

「へっ?」

 彼女の反応を気にすることなく、平伏したまま口上を申し上げる。

「すいません、あのチョコレートは母と妹が片付けてしまいました。

 本日ここに参上したのも、決闘を受けたと勘違いし、まかりこした次第です。」

 顔は上げられない、恥ずかしいのは勿論、アカリさんの気持ちを察すれば、あまりあるところ、ありおりはべりいまそかり。


 緊張のあまり、身体が小刻みに震えていると…

「ふ、ふ、ふふふ。」

 穏やかな含み笑いが彼女の口から漏れてきた。

 顔を上げれば、両手を口にあてて笑いをこらえるアカリが目に飛び込んでくる。

「なぁ…。」

「ああ、ごめんなさい…ふふふ。」

 そう言って僕の方へ手をさしのべるアカリ。

 その手を取り、僕はゆっくりと立ち上がった。

「それで、何を勘違いしたの?」

 アカリの質問を受け、僕は答えた。

 男子校の下駄箱にチョコレートが入っており、冷やかしか、悪質なイタズラと受け取ってしまったこと。

 ユカリから男同士BoysLoveの話を振られて、勢いで決闘認定したこと…など。


「ふぅ~ん、そうだったんだ。」

 ちょっと残念そうなアカリ。

「ああ、そうだった…お土産を持って来てたんだ。」

 そう言って、取り繕うように母が持たせてくれた緑の紙袋をアカリへ渡す。

「え?なになに?」

 受け取った袋の外観を眺めた後、内部を物色するアカリ。

「これって…マカロンじゃない♪」

 ああ、アカリさんのテンションが上がってきましたよ。

「えへへ…じゃぁ、今回のチョコレート騒動はこれで手打ちね。」

 アカリの機嫌が回復したところで…

「さぁ、おやつも揃ったし、お昼にしましょう♪」

「へい、へ~~い。」

 今日一日はアカリに供される僕なのでした。

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