<第1章第1話を読んでのレビューです>
読み終えて最初に思ったのは、文字通り「遠くまで連れて行かれた」という感覚だった。物語の舞台は紀元前なのか現代なのか、あるいは異なる宇宙なのか。時間軸と空間軸が入り乱れ、私の頭は整理する前に、すでに別の座標に移動していた。
文体は抑制されていて、しかし淡々と膨大な情報を提示する。天文学のデータ、ガンマ線バースト、ブラックホールの事象の地平面──その一つひとつを解説する語りが、読者を混乱させるのではなく、宇宙の広がりを理解させるための装置になっている。知性体の視点で描かれる語り手の存在は、物理法則と意識の境界を探る哲学的な装置にも思える。
会話文も独特だ。異なるユニバース間での意識の転移や複数の「私」が同時に存在するという設定は、少し疲れるほど複雑だが、だからこそ脳内で情報の組み替えを促される。読み手が物語に介入する余地は少ない。だがそれが、この物語の面白さであり、挑戦でもある。
言語は極めて冷静で、過剰な感情表現がない。だが、だからこそ一つの超新星爆発の描写でも、壮大さと静謐さが同時に伝わる。読む側はその距離感を自覚しながら、情報と物語の両方を受け取ることになる。
宇宙の広がり、時間の流れ、意識の分岐──それらを重層的に組み合わせる手腕は見事で、SFの冒険と哲学的思索が混ざり合った、深みのある出だしだった。