第2話
「あっ! しまった!」
部活で練習試合をしていた一誠の蹴ったシュートがゴールを外れて飛んで行く。全員がそのボールの軌道を見て、あっ! という声を上げる。ボールは真っ直ぐと飛んでいるが、そのまま飛んで行けば…
「危ない!」
一誠は慌てて大声を上げる。ボールの向こうで部活で走っていた女子目掛けてボールが飛んで行ってしまっている。女子は気づかずに校庭でテニス部のボール拾いをしていて一誠の蹴ったボールの方を見ていない。一誠が大声を上げながら駆け寄ろうとするが間に合わずに、ボールはそのまま女子の頭に当たってしまい、女子は小さな叫び声をあげて倒れてしまった。
「大変だ!」
一誠は叫んで慌てて駆け寄る。女子の元へ行くが倒れたままの女子はピクリとも動かない。一誠が屈んで顔を覗き込むが気を失ってしまっている。打ちどころが悪かったらどうしよう? 倒れた時にどこか打ってないだろうか? 一誠が倒れている女子を抱きかかえるがぐったりとしてしまっている。
「保健室!」
と半ばパニックになって叫び、女子を抱きかかえて走っていく。女子が目が覚める気配はない。女子の短い髪の毛が一誠の腕の中でなびいているが起きる気配は一向になく、慌てて廊下を駆けていく。保健室は廊下の奥だ。保健室までが長く感じるくらい一誠は慌てていた。
「先生!」
叫びながら保健室に飛び込んだ。保健の先生は、どうしたの!? と驚いて立ち上がった。女子を抱きかかえたまま保健の先生に事情を説明し、ベッドへと促される。女子を大切にベッドに寝かせて気づいた。この子、上屋先生の娘さんだ。入学式の時騒がれていたから知っていた。
それにしても……めちゃくちゃ可愛い……一誠は呑気にそんなことを考えていた。白い肌にショートヘアーだけどふわふわなのが分かるくせ毛で少し茶色い。寝てても可愛いのが分かるくらいだ。いわゆる美少女と言っていいだろう。と、一誠は女子をまじまじと見つめていた。
その時、彼女が目を開いた。
「……あれ?」
大きな目は少し茶色くて肌色にあっていて、声も少し高めで可愛い声をしている。こんなお人形さんのような女子がいたなんて知らなった。そんなことを思っていたがハッとして彼女に声を掛ける。
「気が付いた?」
一誠が言うと女子は一誠を見つめてひと言、誰? と言った。
「あ、俺3年の東島 一誠。ごめんな、俺のシュートが外れて君の頭に当たっちゃったんだ」
慌てて弁解のように話してしまった。つい赤くなってしまう。女子はじっと一誠を見つめているので余計赤くなって慌ててしまった。
「裕二先生の娘さんだよな?」
彼女はこくりと頷いた。
「具合はどう?眩暈とかしてないかな?」
心配そうに顔を覗き込む。何か後遺症があったらどうしようかと少しオロオロしてしまう。
彼女は起き上がって、大丈夫です。と言った。起き上がる綾音を支えながら良かった。と呟いた。
本当に傷とかつかなくて良かった。心底ほっとする。女の子に何かあったらと思うと心から安堵してため息をつく。
「綾音!」
その時上屋先生が保健室に入ってくるが、あまりの勢いに保健室のドアが壊れるんじゃないかと驚いてしまった。
保健の先生がその様子に、先生! もっと静かにドアを開けて下さい! と怒ると、上屋先生はすいません……とペコペコと頭を下げている。
そして彼女の方にやって来て、大丈夫か? と顔を覗き込んだ。そんな先生に、うんと笑顔で返した。
「先生すいません、俺の蹴ったボールが当たっちゃって……」
一誠は遠慮がちに先生に頭を下げた。この様子だと先生は彼女をとても可愛がっているようだ。凄く伝わってくる。先生は一誠を見つめ、背中をポンと叩いて言った。
「気にするな、東島、わざとじゃないんだし、綾音も無事だったしな」
綾音とは彼女の名前だ。そう、上屋綾音っていうんだ。思い出したぞ。名前も可愛いな。そんな事を思っている自分が恥ずかしくなる。
東島は少し赤くなりながら綾音の方を向いて頭を下げた。
「すいません」
綾音は少し顔を赤くしながら慌てて答える。
「大丈夫ですからっ」
本当に平気なのかとじっと見つめてしまったが、一誠の視線を感じたのか、綾音はどんどん顔が赤くなっていく。白い肌が赤く染まってとても綺麗に見えた。
そんな様子を見て上屋先生がゴホンと咳払いをしてから二人を促す。
「さ、もう遅いから二人共帰ろう」
外を見るともう夕方になっていた。気づいたら自分はサッカーユニホームのままだ。部室に帰って着替えないと。そんなことを考えながら保健室を出て会釈して綾音と別れた。
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