第19話 孤児3

 さて、郊外のキャンプ。


 スラムの子供たちを集めた。

 総勢、十五名。

 俺にビタンビタンされた少年がマックス。

 十歳だという。

 他、少年が八名。

 少女が六名。

 年齢は六歳から十歳までばらばらだ。

 みな痩せこけていて、服はボロボロ。

 髪の毛は伸び放題で、垢まみれだ。


 孤児で半分プーだから発育が遅れているのはある。

 でも、子供ってこのぐらいだよね。

 肉体とか。


 それに比べると、やはり俺は随分と成長している。

 俺は六歳だけど、肉体的に十歳のマックスと同等だ。


 精神年齢はもっと差がありそうだ。

 おっさんの俺は彼らの親世代でもある。

 少年たちだと、うんこ、って言っただけで爆笑する。

 流石に俺はうんこでは爆笑できない。



「よし、みんな集まったな」


「「「おー」」」

 

「俺の名前はフェムルだ。そして、こちらがマリエール。通称マリ。でな、まずやってもらうことが俺の崇める女神様への崇拝だ。そして宣言してもらう。ここで見聞きしたことを他にもらさないことを」

 

 俺は契約紋スキルを発現させていた。

 NDA、秘密保持契約である。

 体の一部に契約紋を浮かび上がらせ、違反者には強制的な罰則がもたらされる。

 具体的には、口が勝手に閉じられ、話せなくなる。

 さらに、その場で気を失うという仕組みだ。


「「「はい、誓います!」」」


 そして、各自にマリに渡した女神像を渡す。

 有名なサモトラケの彫像女神ニケの頭部に、ブグローという画家の作品アプロディーテを模したものをくっつけたやつだ。

 高さ15センチほどの、白い大理石のような素材でできている。

 翼と優美な体のラインが特徴的な像だ。


「「「ええ、なんてキレイな女神様」」」


「いいか、まずその像を拝め。けがれなき心で拝めば、奇跡が起こるぞ」


「「「はい!」」」


 子供たちは目を閉じ、両手を合わせて像に祈りを捧げ始めた。


 数分後。



「え、これなに? 女神様の像が消えた……いや、収納された?」


「よしよし、崇拝者第一号はマックスか」 

  

「あ、私も」


 次は高熱を出していた少女ミレーヌ。

 彼女の額には汗が滲み、頬は紅潮していた。

 それからも、どんどんと続いていく。

 十五人全員が、およそ十分ほどで像が消える現象を体験した。



「いいか、今、君たちに発現したのは、『シークレットバッグ』だ。君たちは他人に見えないバッグをもつことになる。そのバッグに女神様の像が収納されたんだ。じゃあ、取り出してみな。取り出そうとする意識だけで出てくるから」


 以前、乳母用のシークレットバッグを製作した。

 インベントリの簡易版だ。

 これは、それを進化させたものだ。

 俺はシークレットバッグを他人に付与できるのだ。

 容量は約三十リットルで、生物は入れられない。


「あ、ほんとだ」


「そのバッグな、トップシークレットだ。見つかったら、冗談抜きで誘拐されるから。極めて有能なバッグだから、いろんな人から狙われるので慎重に扱うように」


 容量は大きくないが、秘匿性が高いからな。

 簡単に物を持ち出すことができる。


「「「え、そんな恐ろしいものを?」」」


 ブルブル震えだした。

 特に小さな子供たちは怯えた表情を浮かべている。


「他人に見つかった瞬間にその機能は消滅するから問題ないけどな」


 その時はバッグの中身が外に溢れるから、問題があるとはいえるが。


 ちなみに、もちろんマリにもこのバッグを渡してある。

 彼女のは特別仕様で、容量が百リットルある。



「では、今、君たちは女神様の加護がついた状態にある(厳密には俺の加護)。俺とおまえらはある種の契約状態にある。いいか、ここで知った事柄を絶対に他に漏らすなよ。漏らすとペナルティで地獄におちるからな。嘘じゃないぞ」


「「「ごくり」」」


 しゃべろうとしてもストップがかかるだけなんだがな。

 子供との約束が守られるとは思っていない。

 だからこそ、スキルで縛りをかけているのだ。



「じゃあ、ここでマリのスキルを見せる。マリ、洗浄かけてやれ」


 マリのスキルは俺達以外に使用するのを禁じている。

 人の目にさらされたら、どのような輩が寄ってくるかわからないからだ。

 ただでさえ、マリはルックスがいいのだから。

 これ以上目立つのは避けたい。


「洗浄!」


「「「おお!」」」


 うーむ。

 マリの洗浄が強力になっているぞ。

 範囲洗浄になっている。

 十五人まとめて洗浄。

 半径十mほどの範囲を一度に洗浄できるようになっていた。


「「「うわあ、体がキレイになった! 服もキレイで臭いが消えた!」」」


 大騒ぎだ。

 洗浄は案外難しいスキルだ。

 これをやりすぎると肌荒れをおこしたり、服がボロボロになったりする。

 だが、マリの洗浄は完璧だった。

 垢は落とし、服の汚れも消し、しかも肌や布地を傷めない。



「じゃあ、次は風呂だ。ちょっと用意するから少し離れてろ」


 俺は風呂桶をインベントリから出す。

 直径二m、深さ一mの木製の大きな桶だ。


「「「おお」」」


「みんな、口を開けて耳をふさいでろ。大きな音がするから」


「みんな、マジだから!」


 マリはしゃがんで防御態勢に入っている。

 両手で耳を押さえ、目を固く閉じている。

 子供たちもマリを見て危険を察知したようだ。

 マリの真似をしている。


「超局地的超絶豪雨!」


『バリバリバッシャーン!』


「「「うぎゃー!!」」」


 子供たちは大騒動だ。

 涙目の子もいる。

 ああ、マリもしっかり涙目だ。

 雷鳴のような音と共に、局所的な豪雨が発生した。


『バッシャーン!』


 豪雨ではない。

 滝のように水が降ってくる。

 あっというまに風呂桶に水がたまった。

 

 その後、水を暖める。

 熱すぎず、ぬるすぎない、ちょうどいい温度だ。



「じゃあな、まずは男子からだな。いいか、まず、お湯に入る前に石鹸で体を洗えよ。女子は男子の行動をよく見ておけよ。マリも指導するがな」


「「「はい!」」」


 男子は俺がつきっきりで風呂の入り方を指導した。

 大変だった。

 まず、洗浄スキルで体をキレイにしたはずなんだが、石鹸で洗ってもまるで泡がたたない。

 体に汚れがこびりついているんだ。

 何年も体を洗っていない子供もいるのだろう。


「ハァハァ。よし、今日はここまで。いいか、毎日お風呂に入ってもらうが、体の汚れが取れるまで浴槽には入るなよ」


「「「はい」」」


 そのあと、男子は退避して女子が風呂に入った。

 一番上は十歳だからな。

 そろそろ男女の別を意識し始める年齢だろう。

 マリが女子たちの入浴を指導する。


 俺?

 唐辛子をふりまいてたさ。

 六歳だからな。

 気にするほうがおかしい。


 ◇


 ある程度体がキレイになったところで、買い物に出る。

 彼らの衣類と食料、それからシーツ。

 衣類は高いぞ。

 子供用の中古品でも、1セット数万ギル。

 ×十五人分だ。

 合計四十万ギルの出費になる。


 帰宅後、夕食。

 シチューとパン。

 みな、がつがつと食べる。

 おかわりを何度もする子もいる。



「じゃあ、おなかのふくれたところで、お祈りの続きを行う。真剣にその像に祈りを捧げるように。新しい【マナ】を感じたら、この空の魔石に【マナ】を送り込むように」


 俺は【マナ】という力の説明をした。

 そのうえで、マナ魔石を作るように指導した。


 ここでも優秀さを見せたのは少年マックスだった。

 すぐに体を光らせ、そしてマナ魔石を作り出すのだった。

 淡い青色の光を放つ魔石。

 これが彼の才能の証だ。


 なお、テント生活にあたって、俺の必殺技を紹介する。

 赤ん坊のときから練りに練られたスキル。

 モスキート迎撃結界。

 範囲指定をして、その範囲に入ってきた蚊を撃退する。

 ほとんど【マナ】を使用しない。

 テント3つ程度ならば、長時間でも問題ない。


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