第31話 レッカの如く

(烈火視点)



糸目の男が、紫色の長髪を垂らしておれに尋ねる。

「どう?一緒に来ない?」

「は?」




おれが、育った街は俗に言うスラムだった。

親は、おれが物心ついてすぐに栄養失調で死んだ。


「レッカ〜行こうぜ!」

「そうだな」


それからおれは、他の同世代の子供と徒党を組んで生活をしていた。いい身なりの奴を襲い金を奪ったり。逆に、大人たちがおれらを襲ってきた時に退治する。


おれは、グループの中でも身体能力が高くよく仕事をした。おれが働き者だから、おれは、皆んなから尊敬されていた。親がいなくなっても自分の分だけなら、食うに困らなかった。





そんな、ある日のことだ。


「レッカ!助けてくれ!」

と、仲間が走っておれの所に向かってきたことがあった。



「どうしたんだ?」とおれが質問する。すると、仲間は今起きている出来事を説明し始めた。

奇襲した身なりのいい男たちが拳銃を持っていたそうだ。仲間たちはすぐに散り散りに逃げたが、おれたちの仲間の一人。リコが捕まってしまったらしい。


「おねがいだぁ。リコを助けてやってくれ。お前くらいしかいないんだぁ」

と、おれに助けを懇願される。たしか、こいつはリコのことを好きだったはず。



「わかった」

おれは、そう答えた。

おれは、銃にも負けない。そんな確信があったからだ。





実際、その確信は当たっていた。

仲間が言っていたであろう男たちはすぐに見つけることができた。

全員が、タキシード姿にサングラスの、異質な集団だった。真ん中にる、一人だけ帽子をかぶっていない紫髪の男がやけに目立っている。


その変なグループの中にリコの首根っこを掴む男を発見した。

おれは、最初っから全速力を出しで奴らに近づいた。



地面を蹴った瞬間、視界がぶれるほどの速度で男に迫った。

奴らは、おれの接近に気づかない。

リコを掴む男の鳩尾を殴る。。

乾いた音と共に、男の指が緩んだ――その一瞬でリコを引き剥がし、肩に担ぐ。

振り返る間もなく、夜の路地を駆け抜けた。


しばらくして、やっとおれの存在に気が付いた奴らが後ろから発砲するがもう遅い。

十分に距離を稼げており、銃弾は当たらなかった。






「ほらよ」

仲間に、リコを手渡す


「り、りこ〜」

「安心しろ、ただ気を失っているだけだ。奴らに痛めつけられたんだろう」

「クソがぁ。」仲間が吠える。


「落ち着けよ」おれの言葉に、仲間が反応する。

「そうだな。うん。そうだ、、オレが怒っても仕方ない。ありがとうなレッカ。お前のおかげでリコが返ってきた」

「いいって」


彼が、怒りたい気持ちは理解できる。

おれが、回収した時。既にリコの体は『あざ』まみれで見るに耐えなかった。

おれも、その時怒っていた。





おれの、怒りは結局治ることはなかった。おれは、奴らにリコを怪我させたことの復讐をするために再び、変な集団を探した。


四人、全く同じ服装のモブがいる。

そして、一人。中央に集団のリーダーらしき男がいる。


すっかり暗くなっていた。奇襲もかけやすかった。


闇に紛れ、モブの一人の顎を蹴り上げる。骨が軋む感触が足裏に残る。

続けざまに拳を振り抜き、別のモブの男の股間を打ち抜いた。悲鳴と同時に崩れ落ちる。「モブ、二人目……」


次!


そう思って踏み込んだ瞬間――。

「そこで、止まってください」

耳元で囁かれたように、紫髪の男の声が響いた。

途端に足が鉛のように重くなり、一歩も動けなくなる。

「体が……」どうしても、体が動かないのだ。


当たり前だが、これは戦闘において致命的だった。

ああ、死んだ。


「どうして、体が動かないんだろう」


これから、殺される。だろうに、おれは純粋な疑問を覚えた。


「催眠術って知ってるかい?」


どうやら、おれの心の声が漏れていたようで

紫髪の男が、おれの質問に答えた。



「知らない」

おれは、自分が殺されていないこと、それどころか未だ危害すらも加えられていないことに、疑問を持ちながら普通に受け答えをした。



「人っていうのはここでいろんな行動をしているんだよ」といい、男は頭を人差し指でポンポン叩く。「そして、行動にはさまざまな情報をインプットして処理していかないといけない。催眠術は、特定の処理をできなくさせる。そんなメソッドの総称だと思ってくれればいいよ」


「みんな出来るのか?」

「いーや。使いこなせるのは、今のところ僕くらい。僕が開発した技術だからね。特別なチカラってやつさ」


特別な、、、力。


「僕は、特別な力を持ってるから。この世界で上手くやってけてるんだ」


こいつは、何を求めてるんだろう?おれに?

その答えはすぐにわかる事になった。



糸目の男が、紫色の長髪を垂らしておれに尋ねる。

「どう?一緒に来ない?」

「は?」


なぜ?こんなクソガキを?


「ふふっ。なぜって思ってるでしょ?」

読まれている。心を

「君のその身体能力が特別な力だからだよ」


よくわからなかった。しかし、このことだけははっきりしていた。

おれには、この提案を受ける道しかないことを。





「どうですか、仕事の調子はの烈火さん」

「ぼちぼちだよ。別に」


おれは、そう答える。


おれをこの業界に引き込んだ張本人。周公はあっけらかんとした様でおれに質問をする。


周公から、この世界に誘われて1年ほどが経つ。

評判は上々だ。身体能力を最大限に使っていろんな仕事をこなしていたら、壊し屋なんて2つ名もついた。


「ところで、烈火さんにお願いがあって」

周公のその発言におれは体をこわばらせる。


「お願い?」


この子を、引き取って欲しいんですが…

そう周公が言うと、彼の体の後ろからおれと同年代くらいの子供が出てきた。


「彼は、天命と言います。どうぞ、一緒に仕事をしてください」

「おれが?こいつと?」


天命と呼ばれる少年は、痩せ細っていて病的なまでに肌が蒼白かった。

お世辞にも、おれの受ける依頼についていけそうもない。


「いやっす。周公さんが世話すればいじゃないすっか」

「僕は、近々大きい仕事がありましてね。この子と居れないんです。あと、君のペアにぴったりだと思いましたし!」

「マジすか?」

「物は試しです。天命」


天命は「はい」と返事し、おれの方を見る。


「ツゥ」

その瞬間。一年ほど前に感じたものと同じ。『動けなくなる』感覚を体に覚えた。


「もういいです、」

周公がそう天命に命じるまで、おれは動けなかった。



「こいつは?」

なんだ?おれは、周公に問い詰めた。


「天命は、私よりも優秀な催眠術士ですよ。人を動かなくさせることにおいては。催眠と、言うと語弊があるかもしれません。私と原理が違うんです。」

「原理が違う?」

「そうです。彼は、我々の避けられない。しかし、体験できない運命を想起させるんです。」

「避けることのできない、、運命?」

「そうです。彼は、死を想起させるんです」


死を想起?どう言うことだろう?

それが、動けないことと何が関わってくるんだろう?


「トラウマの原理は知っていますか?」

「何だよいきなり。」

「動けない原理を知りたいのかと思いまして」


当たっている。おれの考えを周公は完全に読んでいる。


「大抵の感情は自分が予期するラインとの差分によって引き起こされるものなんです。トラウマとは、嫌だった体験を反復して思い起こすことでその予期するラインをより正しいものにし。差分をなくし。陳腐化させ。その記憶にたいする感情の固着を無機的なものとする働きなんです」

「はぁ、」

「つまり、過去は段々と過小評価されていくんです。脳にとってはね」

――それでは、未来のことはどうでしょう?


「未来のこと?」

「未来のことは、正解となるラインが設定されていません。だからこそどうなるかわからない。『わからない』は怖いんです。その最終形態が」


死だと?


「そうです。死を連想させる天命は、人をパニックにし筋肉を膠着させるのです。」


わかったようでわからない。





周公の言っていたことはわからなかったが、確かにおれと天命は相性が良かった。

天命が、人を硬直させる。

おれは、体が弱い天命が不得意な肉弾戦やその他諸々をする。


そんなこんなで10年後ほど二人で行動しているうちにおれたちは業界でも有名な、方になってきた。しろい天命と、褐色なおれを対比させて白黒コンビなんてダサい異名がついている。



最近。黒田から、新たな依頼を受けた時も、「白黒コンビ」と呼ばれた。


黒田。

おれや、周公のお得意様で模範的な精神破綻者。何をやりたいのかもどんな意図で行動しているのかも、よく分からないし。わかりたくもない。



こんかい、黒田から受けた任務も30コ年下の婚約者が逃げた時に取り押さえる係という、嫌な仕事だった。


「お前らは、ここにいろ」

黒田が、スマホの地図アプリを表示しある道路を指さす。

「何でですか?」

「直感だよ」


『直感』か。

ほとんど予知に近い『直感』の持ち主なのだ。おれ自身は、こいつの『直感』はは単なるデマだと思っていた。しかし、こいつの仕事を受けるたびにこいつ自身の中身の無さと『直感』の効力でが証明されていった。


今なら、断言できる。この黒田という男は、直感だけでこの世界を生き抜いてきた。



一度、天命と黒田のことを話したことがあった。

「なぁ、黒田の直感ってどう言う理屈だと思う?」

「運命でしょう」

「何言ってんだお前?」


話にならなかった。


そもそも、理屈を追い求めたおれがナンセンスだったんだろう。運命という言葉で片付けている天命の方が、よっぽど芯をくってるんだと思う。

訳こそ分かんねぇが。



しばらく、黒田の指定した場所で待っていたら案の定。

女が走ってきた。


「貴方は、逃げられませんよ。おそらく。運命は社長を支持してますから。ね!烈火さん?」天命が目を閉じそう発言する。


おれは、天命の発言に「天命よぉ。おれぁ、運命だかなんだか知らねぇ。仕事をこなす。それだけだ。悪く思うな嬢ちゃん」と返す。

100%本心だった。運命は、分からない。目の前にいる女性は不憫だと思う。とにかく、飲み込めない事が多いが、飲み込めないままでも、仕事だからと体を動かす。



気の毒だなぁ

なんて呑気に考えているその時だった。


――チャリンチャリン

自転車のベルが鳴る。



「ぐふぁ」

次の瞬間。おれは自転車に轢かれた。


何でこんな時に、自転車がぶつかるんだ。



「あらあら、大変だ〜」と天命が、目を閉じたままニヤニヤしている。

「チッ。なにヘラヘラしてんだ」


「いーや。運命って面白いと考えていただけですよ」

あ?


女のいた方向を見る。

なんと、おれを轢いた自転車は女をのせて逃走を始めている。運転手は、子供。それも少年だ。

まさか、、おれを轢いたのは故意だったってことか?


おもしれぇ。伏兵ってことか


その伏兵の少年が後ろを振り向いた。

「天命」おれは、天命に支持をする。

「わかってますって。」


天命の力が働き、少年は動きを止める。


おれは、すかさず。全力で突進し自転車を投げ飛ばす。女が怪我すると黒田に何されるか分かったものじゃないから、ちゃんと少年が女の下敷きになるような角度で投げ飛ばした。


おれ自身が、興奮していたせいか30mほど、ぶっ飛んでった。



「少年!、、少年。しっかりしろ!」

飛んでった先で、女が少年を揺さぶる。

揺さぶられた本人は「う、ううぅ」としか話せてい。頭からは血をだくだく垂らしている。


「はっはっは!こんな伏兵がいるなんてなぁ!」おれは、少年を褒めてやりたい気分になった。事故を犠牲に女を救う姿に、好感を持ったからだ。



「どうします?報告しておきます?」

背後から、天命の声が聞こえる。


「頼んだ」


今回も、無事仕事が終わりそうだ。

そう思いながら、おれは二人の元へ歩く。


つもりだった。


「は?」


おれが天命の方向から振り返った時にはもう。

二人の姿はなかった。

ただ自転車の残骸だけが置かれていた。



当たりを見回す。

変わりない。路地の姿しかそこにない。

車の音がする。路地を抜けたところで

ワンボックスカーが、一台走っている様だ。



「やっちまった?」

「どうやらそのようですね」





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