第12話:魂の深淵と創造者の顔
時間の回廊の扉をくぐると、重い闇が一行を飲み込んだ。目の前に広がるのは、無限に続く黒い海のような空間。足元はガラスのように透き通り、下には無数の光点が揺らめく。迷宮の第十階層――魂の深淵。空気は冷たく、胸を締め付けるような圧迫感。遠くで、低い唸り声のような音が響く。
「うわ、なんだこの場所…! 宇宙よりヤバい! 心が吸われそう!」カイトがリュックを握りしめ、震え声で叫ぶ。サングラスがずり落ち、慌てて直す。
「静かにしろ。敵が近くにいるかもしれない」リナが剣を構え、深淵の奥を睨む。彼女の目は鋭いが、時間の回廊での戦いで疲れが滲む。
セレナはフードを外し、金髪が闇に浮かぶ。「この階層は『魂の裁き』。鍵は深淵の中心、魂の祭壇にあるよ。でも…ここは心の全てを暴く。現実の伏線、願い、罪…全部向き合わないと、鍵は取れない」
悠斗はセレナの言葉に心臓が締め付けられる。(現実の伏線…ノートに書いた『日常を壊したい』、佐藤玲奈とのすれ違い。あれが迷宮の鍵だった。創造者は俺たちをどう操る気だ?) ポケットの十の鍵――金、銀、青、鉄、黒、虹、赤、青白、白、紫――を握る。鍵の映像に映る創造者の嘲笑が、頭から離れない。
「心の全てって…具体的には?」悠斗が尋ねる。声が深淵に吸い込まれ、反響する。
セレナの目が悲しげに揺れる。「魂の深淵は、君たちが現実で逃げたもの――願い、繋がり、後悔――を映す。創造者の顔が見えるよ。でも、その顔は…君たちの心の一部かもしれない」
カイトが首を振る。「心の一部? やめてくれよ、俺の心にそんな怖い奴いないぜ! でも…文化祭で話しかけ損ねたクラスメイト、確かに後悔してる…」
リナが静かに言う。「俺も。暗殺者だった時、仲間を信じず裏切った。ノートに書いた『自由になりたい』…それが創造者の罠だったんだな」
悠斗は頷く。(俺もだ。佐藤玲奈の声、無視したあの瞬間。あのノートが、迷宮の入り口だった。現実に戻るには、全部回収しないと) 記憶が蘇る。放課後の教室、玲奈の笑顔。「天海、悩みあるなら話してよ」 無視した自分。その後、ノートに書いた「日常を壊したい」。あの落書きが、創造者のゲームに繋がった。
「行くぞ。鍵を取って、創造者の真相を知る」悠斗が声を張る。一行は深淵を進み始めた。
魂の深淵:心の裁き
深淵は静かだが、時折、闇から黒い霧のような魔物――ソウルシェード――が現れる。人の顔のような影が、怨嗟の声で襲ってくる。リナの剣が一閃で切り裂くが、霧はすぐに再生する。
「こいつら、斬っても消えない! どうすんだ!?」リナが叫ぶ。
「カイト、道具だ!」悠斗が叫ぶ。
カイトがリュックを漁り、懐中電灯を取り出す。「これ、超高出力のやつ! 闇をぶっ飛ばすぜ!」光を放つと、シェードが悲鳴を上げて溶ける。
「ナイス、カイト!」悠斗が笑う。絆が試練を切り開く。
さらに進むと、深淵の中心に魂の祭壇が浮かぶ。黒く輝く鍵が漂い、周囲を光の渦が包む。だが、祭壇に近づくたび、空間が歪み、幻影が現れる。
悠斗の幻影は、現実の教室。佐藤玲奈が笑う。「天海、文化祭一緒にやろうよ」 無視した自分、ノートに書いた「日常を壊したい」。幻影が囁く。「お前は現実を捨てた。鍵を渡せ。創造者はお前だ」
リナの幻影は、暗殺組織の最後の夜。仲間が笑う。「一緒に逃げよう」 裏切った自分。「お前は自由になれない。創造者はお前だ」と誘う。
カイトの幻影は、文化祭の準備室。クラスメイトが笑う。「佐伯、ゲームの話しようぜ」 逃げた自分。「お前は孤独のまま。創造者はお前だ」と嘲笑う。
セレナの幻影は、創造者の玉座。彼女を生み出した影が笑う。「お前は私の道具。転移者を裏切れ。創造者はお前だ」と命令。
「創造者が…俺たち!?」悠斗が頭を押さえる。幻影の言葉が心を抉る。現実の後悔――玲奈を無視したこと、日常を壊したいと願ったこと――が、創造者の一部だと?
セレナが手を上げ、聖なる光を放つ。「これは魂の試練! 創造者は君たちの心の闇を利用してる! 過去を回収し、立ち向かえ!」
だが、幻影は消えない。セレナの光が揺らぐ。「私の存在…創造者に作られた心…!」
リナが剣を振り、幻影を切り裂く。「創造者が誰だろうと、俺は今を生きる! お前らと!」
カイトが懐中電灯を振り、光で幻影を押し返す。「俺も! 孤独だったけど、みんながいるぜ!」
悠斗は歯を食いしばる。(現実で逃げた。玲奈を無視した。でも、今は違う。彼女に謝って、未来を取り戻す!)
「行くぞ! 鍵を取る!」悠斗が叫び、祭壇へ突進。
だが、祭壇の前に巨大なソウルドラゴンが現れる。闇の鱗が光り、口から魂を吸う波動を吐く。咆哮が深淵を震わせる。
「ボスだ!」カイトが後ずさる。
リナが剣を構える。「私が引きつける! 鍵を取れ!」
ドラゴンが波動を吐き、リナが避ける。セレナが加護を放ち、波動を弱らせる。カイトが懐中電灯でドラゴンの目を眩ませ、隙を作る。
「悠斗、今!」リナが叫ぶ。
悠斗は祭壇に飛びつき、黒い鍵を掴む。触れた瞬間、映像が流れ込む。
――創造者の顔。影の中に、悠斗自身の顔が映る。「お前の願いが私を生んだ。鍵は私の鎖。現実に戻るには、全てを捧げろ」
悠斗はハッと我に返る。「創造者は…俺たちの願い!? 現実の伏線が、迷宮そのものだった!?」
ドラゴンが咆哮し、祭壇が崩れる。悠斗たちは深淵の出口へ急ぐ。
深淵の休息地:最後の決意
鍵を入手し、一行は深淵の端の光の浮島で休息。星のような光点が揺れ、静かな空間が広がる。カイトが缶詰を分け、みんなでスープを飲む。
「はぁ…魂吸われるかと思った。創造者が俺たちの心って、マジかよ…」カイトが震えながら笑う。
リナが剣を磨きながら言う。「現実のノート、俺の『自由になりたい』…それが創造者の一部だった。あの願いが、迷宮を動かしてる」
悠斗は頷く。「俺も。『日常を壊したい』って書いた。佐藤玲奈を無視した後悔。あの伏線が、創造者を作ったんだ。現実に戻るには、全部清算しないと」
セレナが目を潤ませる。「私の存在も、創造者の伏線。君たちの願いから生まれた。でも、君たちと一緒なら、壊せるよ。現実に戻る時、伏線を回収しよう」
「どうやって?」カイトが身を乗り出す。
「最下層で創造者を倒す。鍵を全て集め、願いを正しく叶える。現実の伏線――後悔、繋がり――を清算するの。失敗したら、永遠に迷宮に閉じ込められる」
その時、浮島の奥から気配。敵グループだ! リーダー男が現れ、鍵を七つ持つ。
「お前ら、鍵集めすぎだろ。ここで終わりだ!」
敵は13人。魔法使いが魂の矢を放ち、剣士が突進。リナが剣で受け止め、カイトが懐中電灯で牽制。セレナの加護が敵を弱らせる。
「悠斗、鍵を守れ!」リナが叫ぶ。
悠斗は浮島の光点を活用し、敵を足止め。カイトがロープで罠を仕掛け、魔法使いを絡めとる。
「撤退だ!」リーダー男が叫び、敵が去る。
「しつこいな…」リナが息を吐く。
セレナが次の扉を指す。「次は最下層。創造者の玉座だ。伏線を回収し、現実に戻る準備を」
悠斗は黒い鍵を握る。「現実に戻る。佐藤玲奈に謝って、日常を取り戻す。創造者を倒して」
扉が開き、玉座の光が漏れた。物語は最終決戦へ。
(続く)
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