第10話:闇の虚空と絡みつく伏線

嵐の海の扉をくぐると、足元が消えた。まるで宇宙に放り出されたような浮遊感。目の前は無限の闇、星のような光が遠くで瞬く。迷宮の第八階層――闇の虚空。重力がない空間で、身体がふわふわと漂う。空気は冷たく、耳元で囁くような不気味な音が響く。

「うわ、なんだこれ! 宇宙!? 重力ゼロってマジかよ!」カイトがリュックを握りしめ、くるくる回転しながら叫ぶ。サングラスが浮かんで、慌てて掴む。

「落ち着け。動きが無駄だ」リナが剣を構え、虚空を睨む。彼女の髪がふわりと広がり、いつもより少し無防備に見える。

セレナはフードを外し、金髪が闇に映える。「この階層は『虚空の真実』。鍵は闇の中心、星の祭壇にあるよ。でも…ここは過去と未来の伏線が絡み合う。現実世界の記憶、しっかり握ってて」

悠斗はセレナの言葉に胸を締め付けられる。(現実世界の伏線…学校のノートに書いた『日常を壊したい』って願い。あれが迷宮に繋がったのか?) ポケットの八つの鍵――金、銀、青、鉄、黒、虹、赤、青白――を握る。鍵に触れるたびに、創造者の嘲笑とゲームの真相が頭をよぎる。

「伏線って…具体的には?」悠斗が尋ねる。声が闇に吸い込まれ、反響する。

セレナの目が真剣になる。「この虚空は、転移前の現実を映し出すよ。君たちが迷宮に来る前に置いてきたもの――願い、記憶、人との繋がり。それが試練になる。覚悟して」

カイトが首を振る。「現実か…俺、ただのオタクだったぜ。学校でゲームのことしか考えてなかったけど…なんか、クラスメイトに話しかけようとした日、あった気がする」

リナが静かに言う。「俺も。暗殺者だったけど、組織を出る前に、普通の生活を夢見た瞬間があった。あのノートに書いたんだ…『自由になりたい』って」

悠斗はハッとする。(ノート…みんな、転移前に何か書いてた? それが迷宮の伏線?) 彼の記憶が蘇る。放課後の教室、退屈な日常に苛立ち、ノートに書いた落書き。「普通の日常を壊したい」。その直後、光に包まれた。あれが、迷宮の入り口だったのか。

「行くぞ。鍵を取って、真実を知る」悠斗が声を張る。一行は虚空を漂い、星の光を頼りに進む。


闇の虚空:過去と未来の試練

虚空は静かだが、時折、闇から黒い影――ヴォイドスピリット――が現れる。幽霊のような姿で、触手のようなものを伸ばして襲ってくる。リナの剣が一閃で切り裂くが、影はすぐに再生する。

「こいつら、斬ってもキリがない!」リナが歯を食いしばる。

「カイト、なんか道具ない!?」悠斗が叫ぶ。

カイトがリュックを漁り、LEDランタンを取り出す。「これ、超明るい光! 闇を払うかも!」ランタンを点けると、強烈な光が影を溶かし、動きを止める。

「ナイス、カイト!」悠斗が笑う。絆が試練を切り開く。

さらに進むと、虚空の中心に星の祭壇が浮かぶ。白く輝く鍵が漂い、周囲を星屑のような光が包む。だが、祭壇に近づくたび、空間が歪み、幻影が現れる。

悠斗の幻影は、現実世界の放課後。教室で一人、ノートに落書きする自分。隣の席のクラスメイト――名前は…佐藤? 彼女が話しかけてきた瞬間。「天海、最近元気ないね。なんかあった?」 その声を無視し、ノートに「日常を壊したい」と書いた。あの瞬間が、転移の引き金だった。

「俺…あの時、彼女と話せばよかった…!」悠斗が頭を押さえる。幻影が囁く。「お前は現実を捨てた。迷宮でしか生きられない」

リナの幻影は、組織の最後の任務。自由を求めて仲間を裏切った瞬間。「お前は自由になれない。鍵を渡せ」と誘う。

カイトの幻影は、学校の文化祭。ゲーム仲間と話すチャンスを逃した自分。「お前は孤独のまま。仲間を捨てろ」と嘲笑う。

セレナの幻影は、創造者の玉座。彼女を生み出した影が笑う。「お前は私の道具。転移者を裏切れ」と命令。

「やめろ…!」悠斗が叫ぶ。幻影の声が心を締めつける。現実の伏線――無視したクラスメイト、逃げた日常――が重くのしかかる。

セレナが手を上げ、聖なる光を放つ。「これは真実の試練! 過去を回収し、未来を掴め!」

だが、幻影は消えない。セレナの光が弱まる。「私の過去…創造者に縛られてる…!」

リナが剣を振り、幻影を切り裂く。「過去は変えられない! でも、今は俺たちがいる!」

カイトがランタンを振り、光で幻影を押し返す。「俺も! 孤独だったけど、みんながいるぜ!」

悠斗は歯を食いしばる。(現実で逃げた。でも、今は違う。みんなと未来を作る!)

「行くぞ! 鍵を取る!」悠斗が叫び、祭壇へ漂う。

だが、祭壇の前に巨大なヴォイドドラゴンが現れる。闇の鱗、星を飲み込む口。咆哮が虚空を震わせる。

「ボスだ!」カイトが後ずさる。

リナが剣を構える。「私が引きつける! 鍵を取れ!」

ドラゴンが闇の波動を吐き、リナが避ける。セレナが加護を放ち、波動を弱らせる。カイトがランタンでドラゴンの目を眩ませ、動きを止める。

「悠斗、今!」リナが叫ぶ。

悠斗は祭壇に飛びつき、白い鍵を掴む。触れた瞬間、映像が流れ込む。

――創造者の記憶。迷宮は現実世界の願いを吸収し、転移者を駒にする。「伏線は私の設計。現実に戻るには、全ての鍵を」

悠斗はハッと我に返る。「創造者…現実を操ってる! 俺たちのノート、あれも仕組まれた!?」

ドラゴンが咆哮し、祭壇が崩れる。悠斗たちは虚空の出口へ急ぐ。


虚空の休息地:現実への糸

鍵を入手し、一行は虚空の端の浮島で休息。星屑が漂う中、岩に座り、缶詰を分ける。

「はぁ…マジで死ぬかと思った。虚空って、頭おかしくなるな」カイトがスープを飲み、笑う。

リナが剣を磨きながら言う。「現実の記憶…あのノート、俺も書いた。『自由になりたい』って。あれが迷宮の伏線だったのか」

悠斗は頷く。「俺もだ。『日常を壊したい』って書いた。あの落書き、創造者が利用したんだ。現実に戻る時、この伏線を回収しないと…」

セレナが目を潤ませる。「私の記憶も、創造者に作られた伏線。だけど、君たちと一緒なら、書き換えられるよ」

「書き換えるって、どうやって?」カイトが身を乗り出す。

「最下層で創造者を倒す。鍵を全て集め、伏線を回収するの。現実に戻るには、願いを正しく叶える必要がある」

その時、浮島の奥から気配。敵グループだ! リーダー男が現れ、鍵を五つ持つ。

「お前ら、鍵集めすぎだろ。ここで終わりだ!」

敵は11人。魔法使いが闇の矢を放ち、剣士が突進。リナが剣で受け止め、カイトがランタンで牽制。セレナの加護が敵を弱らせる。

「悠斗、鍵を守れ!」リナが叫ぶ。

悠斗は浮島の岩を活用し、敵を足止め。カイトがロープで罠を仕掛け、魔法使いを絡めとる。

「撤退だ!」リーダー男が叫び、敵が去る。

「しつこいな…」リナが息を吐く。

セレナが次の扉を指す。「次は最後の階層に近い、時間の回廊。創造者の真実が、すぐそこだよ。伏線を握りしめて」

悠斗は白い鍵を握る。「現実に戻る。みんなで、伏線を回収して」

扉が開き、時の流れが漂った。物語は最終局面へ。

(続く)

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