第9話:嵐の海と伏線の記憶
炎の荒野の扉をくぐると、潮の匂いが鼻を突いた。目の前に広がるのは、荒れ狂う海。巨大な波が岩を砕き、雷が空を裂く。迷宮の第七階層――嵐の海。足元は揺れる船のような甲板、周囲は霧と雨で視界が悪い。風が体を押し、耳元で咆哮のような音が響く。
「うわ、船の上!? 海なのに迷宮かよ、めっちゃ揺れる!」カイトが甲板にへたり込み、リュックを握りしめる。顔色が悪く、船酔いしそう。
「立て。油断したら波に飲まれるぞ」リナが剣を構え、鋭い視線で周囲を警戒。彼女の髪が雨に濡れ、表情に疲れが滲むが、決意は固い。
セレナはフードを深くかぶり、金髪が風に揺れる。「この階層は『嵐の浄化』。鍵は海の底、沈んだ祭壇にあるよ。でも…嵐は記憶を呼び起こす。過去の伏線が、試練になるかも」
悠斗はセレナの言葉にハッとする。(過去の伏線…? 俺の現実世界の記憶、迷宮に入る前のことか?) ポケットの七つの鍵――金、銀、青、鉄、黒、虹、赤――を握る。鍵に触れるたびに見える映像が、創造者のゲームを思い起こさせる。
「記憶を呼び起こすって…どんな試練だ?」悠斗が尋ねる。雨が顔を叩き、体が冷える。
セレナの目が遠くを見る。「嵐は転移前の現実を映すよ。忘れた伏線、張っておいた糸が絡みつく。心を浄化しないと、鍵は取れない」
「現実の伏線…俺の学校生活とか?」カイトが首を傾げる。「俺、オタクで友達少なかったけど、そんな伏線あったっけ?」
リナが小さく呟く。「俺も。暗殺者だった過去、迷宮に入る前の日常…思い出したくない」
悠斗の胸がざわつく。迷宮に入るきっかけが突然だったことを思い出す。あの放課後、教室でイヤホンを付け、退屈な日常を思うだけだった。だが、もっと遡れば…学校での孤独、家族を失った後の空虚。伏線はそこにあったのかもしれない。
「みんな、集中しろ。嵐が近づいてる」悠斗が声を張る。一行は甲板を進み、海の中心へ向かう。
嵐の海:呼び起こされる現実
海は荒れ、船が大きく傾く。波が甲板を洗い、雷が光る。時折、海から水の魔物――ストームサーペント――が飛び出し、牙を剥く。リナの剣が一閃で切り裂くが、雨で視界が悪く、動きが鈍る。
「この雨、剣が滑る…!」リナが歯を食いしばる。
「カイト、なんか道具ない!?」悠斗が叫ぶ。
カイトがリュックを漁り、防水シートを取り出す。「これ、雨除け! みんなで被ろう!」シートを広げ、一行を覆う。
「ナイス、カイト!」悠斗が笑う。絆が試練を乗り越える鍵だ。
さらに進むと、海の中心に渦巻く嵐の目。底に沈んだ祭壇が見える。青白く輝く鍵が浮かぶ。だが、渦を潜るには船を操る必要がある。
「どうやって潜るんだ!?」カイトが叫ぶ。
その時、嵐から青い光が放たれ、一行の前に幻影が現れた。
悠斗の幻影は、現実世界の学校生活。放課後の教室、友達がいない孤独。家族を失った後、誰にも心を開けなかった自分。「お前はいつも一人。迷宮でも同じだ」と囁く。
リナの幻影は、暗殺者時代の日常。組織の命令で生き、信頼を失った日々。「自由なんて幻想。お前は永遠に鎖に繋がれる」と誘う。
カイトの幻影は、オタク部屋での孤立。ゲームに逃げ、友達を作れなかった過去。「願いは叶わない。お前は役立たず」と嘲笑う。
セレナの幻影は、迷宮の誕生。創造者に作られた存在として、自由を求めた記憶。「従え。創造者のゲームから逃げられない」と脅す。
「うっ…この記憶、俺の伏線か…!」悠斗が頭を押さえる。突然の転移の前に、張っておいた糸――学校での小さな出来事、友達になりかけたクラスメイト、失った家族の思い出――が心を締めつける。
セレナが手を上げ、聖なる光を放つ。「これは浄化の試練! 過去を回収し、受け入れろ!」
だが、幻影の声が心を乱す。悠斗の幻影がさらに深く。「お前、転移前にあのノートに書いた願い、忘れたか? 『普通の日常を壊したい』って」
悠斗はハッとする。現実世界の冒頭、放課後の教室でぼんやりノートに書いた落書き。退屈な日常を壊したいという願い。それが転移の伏線だったのか?
リナが剣を振り、幻影を切り裂く。「過去は過去! 俺は今、お前らと生きる!」
カイトが火薬を投げ、幻影を爆破。「俺も! オタクでも、みんなと一緒なら強いぜ!」
セレナの光が強まり、幻影を押し返す。「ありがとう…私も、創造者から逃げたい!」
一行は渦に潜る。船が揺れ、海底の祭壇に到達。青白い鍵が浮かぶ。悠斗が手を伸ばすが、水のドラゴンが現れる。体から嵐を呼び、牙で攻撃。
「ボスだ!」カイトが後ずさる。
リナが剣を構える。「私が引きつける! 鍵を取れ!」
ドラゴンが嵐を吐き、リナが避ける。セレナが加護を放ち、嵐を弱らせる。カイトがロープでドラゴンの足を絡め、動きを止める。
「悠斗、今!」リナが叫ぶ。
悠斗は祭壇に飛びつき、青白い鍵を掴む。触れた瞬間、映像が流れ込む。
――創造者の玉座。影の存在が鍵を集める転移者を嘲笑。「願いは私の力。伏線を回収し、現実に戻れぬよう」
悠斗はハッと我に返る。「創造者…俺たちの現実を操ってる!?」
ドラゴンが咆哮し、海底が崩れ始める。悠斗たちは急いで浮上。
海の休息地:回収される伏線
鍵を入手し、一行は嵐の端の島で休息。岩に座り、雨が止むのを待つ。カイトが缶詰を分け、みんなで温かいスープを飲む。
「はぁ…マジで溺れるかと思った。幻影の記憶、めっちゃリアルだった」カイトが笑うが、目には涙が滲む。
リナが剣を磨きながら言う。「俺の過去、組織の日常…転移前に、自由を願ったノートがあったのを思い出した。あれが伏線か」
悠斗は頷く。「俺も。学校でノートに『日常を壊したい』って書いた。あの落書きが、転移のきっかけだったのかも。迷宮は俺たちの願いを、伏線として利用してる」
セレナが目を潤ませる。「創造者は転移者の心を読み、ゲームに組み込むの。私も…作られた伏線だよ。でも、君たちと一緒に、回収して終わらせたい」
「回収って、現実に戻ったら?」カイトが身を乗り出す。
「最下層で創造者を倒せば、現実に戻れる。でも、伏線を正しく回収しないと、永遠に迷宮に閉じ込められるかも」
その時、島の奥から気配。敵グループだ! リーダー男が現れ、鍵を四つ持つ。
「お前ら、鍵集め早いな。でも、ここで終わりだ!」
敵は10人。魔法使いが嵐を呼び、剣士が突進。リナが剣で受け止め、カイトが冷却スプレーで嵐を抑える。セレナの加護が敵を弱らせる。
「悠斗、鍵を守れ!」リナが叫ぶ。
悠斗は島の岩を活用し、敵を足止め。カイトがロープで罠を仕掛け、魔法使いを絡めとる。
「撤退だ!」リーダー男が叫び、敵が去る。
「またか…」リナが息を吐く。
セレナが次の扉を指す。「次は闇の虚空。創造者の真実が、近づくよ。伏線を回収する準備を」
悠斗は青白い鍵を握る。「現実に戻る時、冒頭の伏線を回収する。みんなで」
扉が開き、虚空の闇が広がった。伏線が絡みつく中、物語は核心へ。
(続く)
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