第4話:氷の牢獄と揺らぐ信頼
扉の向こうから、冷たい風が吹きつけた。悠斗の肌が一瞬で粟立つ。足元は凍てついた氷の床、周囲は白く輝く洞窟。迷宮の第三階層――氷の牢獄。砂漠の熱気が嘘のように、息が白く凍る。
「さ、寒っ! 砂漠から氷河!? 迷宮の気候変動激しすぎだろ!」カイトが両手をこすり合わせ、リュックからマフラーを取り出して巻く。
「文句は後だ。進むぞ」リナが剣を握り、先頭に立つ。彼女の息も白いが、表情はいつも通り冷静。
セレナはフードを調整し、穏やかに言う。
「この階層は『凍てついた心の試練』。氷の中に隠された鍵を探すんだけど、鏡みたいな氷が幻を映すよ。心の弱さを突いてくるかも」
「またどうやって知ってるんだよ…」カイトが怪訝な顔で呟く。悠斗も内心同意。(セレナ、絶対この迷宮のこと知りすぎ。聖女って設定、ほんとなのか?)
一行は氷の洞窟を進んだ。壁は鏡のように光を反射し、足音が反響する。時折、氷の棘が天井から落ちてくるけど、リナの剣で砕く。
「はぁ…はぁ…足滑るし、寒いし、最悪」悠斗が息を切らす。高校生の体力がこんな過酷な環境に耐えられるなんて、思ってもみなかった。
「弱音吐くな。鍵はどこだ?」リナが周囲を警戒。
カイトが壁の氷を叩き、目を輝かせる。
「待てよ、この鏡みたいな壁…さっきの鍵の記憶みたいに、ヒント映るかもな。ゲームでよくあるミラーパズル!」
「確かに。試してみよう」悠斗が壁に手を触れる。冷たい感触に、映像が浮かんだ。――カイトの過去。オタク部屋で一人、ゲームに没頭する姿。でも、友達がいない孤独な表情。
「え、俺の…?」カイトが目を丸くする。映像はすぐに消える。
「迷宮が心を見せてるんだ。願いの源を」セレナの言葉に、みんなが黙る。
さらに進むと、洞窟の中央に巨大な氷の結晶が浮かんでいた。青く輝き、中に鍵らしきものが封じられている。でも、周囲に氷の精霊みたいな魔物が浮遊。
「これ、ボス級じゃね!?」カイトが後ずさる。
氷の精霊が一斉に襲いかかる。冷たい息を吐き、床を凍らせる。リナが剣を振るうけど、精霊は体が透けて当たりにくい。
「物理攻撃効きにくい! 魔法で!」悠斗が叫ぶ。
セレナが手を上げ、光の加護を放つ。精霊の動きが鈍る。カイトがリュックから火薬みたいなものを取り出し、投げつける。
「これ、キャンプ用の着火剤! 熱で溶かせ!」
爆発音が響き、精霊が溶け始める。リナが隙を突き、剣で結晶を斬る。パリン! と音を立て、結晶が砕け、中から青い鍵が落ちた。
「三つ目…」悠斗が鍵を拾う。触れた瞬間、頭に映像が流れ込んだ。
――カイトの願い。友達が欲しい、認められたい。孤独な過去がフラッシュバック。悠斗はハッと我に返る。
「カイト、お前の願い…見たよ」悠斗が呟く。
カイトが赤面。「マジかよ…恥ずかしいな。まあ、俺の願いはシンプルだぜ。みんなと一緒に冒険できる世界!」
リナが軽く笑う。「お前らしいな」
氷の鏡窟:信頼の亀裂
鍵を入手し、洞窟の奥で休憩。壁の鏡がみんなの姿を映すけど、時々歪んだ像が現れる。リナの過去――暗殺のシーン。血まみれの剣、失った仲間。
「リナ…」悠斗が声を掛ける。
「見られたか。まあ、隠す気もない」リナが壁にもたれ、淡々と語る。「組織で育てられ、殺すのが仕事だった。ある日、裏切られて全て失った。願いは、自由に生きることかもな」
セレナが静かに聞く。「みんなの願い、素敵だね。でも、迷宮はそれを試すよ」
その時、鏡に新しい映像。セレナの過去? ぼんやりとした神殿、祈る姿。でも、背後に影のような存在。
「セレナ、お前の過去…?」カイトが尋ねる。
セレナの笑みが固まる。「ふふ、見えちゃった? 私は聖女だけど…この迷宮の秘密、知ってるかも」
「知ってるって、どういう意味?」悠斗が詰め寄る。
「転移者じゃないのよ、私。迷宮の一部…みたいな」セレナの言葉に、みんなが凍りつく。
「嘘だろ!? 仲間じゃなかったのかよ!」カイトが叫ぶ。
リナが剣を構える。「本当なら、説明しろ」
セレナは悲しげに微笑む。「信じて。君たちを導くためにいるの。でも、真実は最下層で」
緊張が走る中、洞窟の奥から足音。敵グループ、また現れた! リーダー男が笑う。
「おいおい、内輪揉めか? 鍵、全部よこせ!」
今度は7人。魔法使いが氷の矢を放つ。リナが剣で弾くけど、セレナの加護が遅れる。
「セレナ、何やってんだ!」悠斗が叫ぶ。
セレナが光を放つが、弱い。敵の少年が悠斗に迫り、ナイフを振るう。
「鍵を…!」
悠斗は鍵を守り、鏡の壁に体当たり。鏡が割れ、氷の破片が敵を襲う。カイトが着火剤で火を起こし、氷を溶かす。
リナがリーダーを抑え、戦いが激化。ようやく敵が撤退。
「また逃げられた…」リナが息を吐く。
悠斗はセレナを睨む。「お前、何者だ? 信頼できない」
セレナの目が潤む。「信じて、悠斗くん。次の階層で、証明するよ」
次の扉が開き、暗い闇が広がった。信頼の亀裂が、パーティに影を落とす。
(続く)
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