第3話:砂の階層と隠された記憶

扉の向こうは、一変した世界だった。

足元は熱い砂。灼熱の太陽が照りつけ、遠くに砂嵐が渦巻く。迷宮の第二階層――砂漠の迷路。石の回廊から一気に変わった環境に、悠斗は息を飲んだ。

「うわ、砂漠!? 迷宮なのに環境変わりすぎだろ!」カイトが目を丸くし、リュックからサングラスを取り出してかける。

「文句言うな。進むしかない」リナが剣を握りしめ、先頭に立つ。汗が額を伝うけど、彼女の表情は変わらずクール。

セレナはフードを深くかぶり、穏やかに微笑む。

「ふふ、面白いね。この階層は『試練の砂』って呼ばれてるみたい。砂に埋もれた鍵を探すんだよ」

「どうやって知ってるんだよ、それ!」カイトがツッコむ。

「迷宮が教えてくれるの。耳を澄ませば、ね」セレナの言葉に、悠斗は少し違和感を覚えた。(セレナ、なんかこの迷宮のこと詳しすぎない?)

一行は砂丘を登り始めた。足が砂に沈み、進むのがつらい。時折、砂の下からサソリみたいな魔物が飛び出してくるけど、リナの剣とセレナの加護でなんとか撃退。

「はぁ…はぁ…暑すぎる…」悠斗が息を切らす。現代の高校生がこんな砂漠歩きなんて、想像もしてなかった。

「弱音吐くな。鍵はどこだ?」リナが周囲を見回す。

カイトが地図らしきものをリュックから取り出し、首を傾げる。

「待てよ、さっきの泉で見た映像…あれ、ヒントかもな。砂漠の真ん中にオアシスみたいなのあったろ?」

「確かに。そこに鍵があるのかも」悠斗が頷く。さっきの泉の映像は、ぼんやりとした砂漠の風景だった。もしかして、迷宮が意図的に見せた?

一行はカイトの記憶を頼りに進む。砂嵐が近づき、視界が悪くなる中、ようやくオアシスらしき場所に着いた。掌の木が立ち、水辺が輝く。でも、何かおかしい。

「これ…本物のオアシス?」悠斗が近づくと、水面が揺れ、幻影のように揺らぐ。

「罠だ」リナが剣を構える。

次の瞬間、水辺から巨大な砂の怪物が現れた。サンドワーム! 体長10メートルはあろうか、口に牙が並び、砂を噴き上げて襲いかかる。

「みんな、散開!」悠斗が叫ぶ。

ワームの体当たりで砂が爆発し、悠斗は吹き飛ばされる。カイトがロープを投げて助け起こす。

「こいつ、弱点は口の中じゃね!? ゲームで見たことある!」カイトが叫ぶ。

「じゃあ、誘き出せ!」リナがワームに剣を振り、注意を引く。ワームが口を開けた瞬間、セレナが光の玉を投げ込む。爆発音が響き、ワームが悶える。

「今だ!」悠斗は砂に転がる石を拾い、ワームの目に投げつける。ワームが怯んだ隙に、リナが剣で体を斬り裂く。

ワームが崩れ落ち、砂に沈む。オアシスの底から、光る鍵が浮かび上がってきた。銀色の鍵、今度はさっきの金とは違う。

「二つ目か…」悠斗が鍵を拾う。触れた瞬間、頭に映像が流れ込んだ。

――幼い頃の記憶。母親の笑顔、事故で失った家族。悠斗の願いは、家族を戻すこと? 映像はすぐに消え、悠斗はハッと我に返る。

「悠斗、どうした?」リナが心配そうに近づく。

「あ、いや…なんか、変なもの見えた」悠斗は鍵をポケットにしまう。さっきの泉と同じだ。迷宮が心の中を探ってる?

セレナが鍵を覗き込み、静かに言う。

「鍵は記憶を呼び起こすよ。願いの源を、ね」

「記憶…お前も何か見たのか?」カイトが尋ねる。

セレナは微笑むだけ。「ふふ、秘密」


砂漠の遺跡:過去の影

オアシスを抜け、砂漠の奥に遺跡が見えてきた。崩れた石柱、壁に刻まれた絵。悠斗たちは中に入り、休憩を取る。

「この絵、何だろ…」カイトが壁を指差す。そこには、迷宮の図と、人々が鍵を集める様子。だが、最後に描かれたのは、鍵を手にした者が崩れ落ちる姿。

「代償…か」悠斗が呟く。セレナの言葉を思い出す。

リナが壁にもたれ、珍しく口を開いた。

「俺の過去も、こんな感じだ。暗殺者だった頃、力を求めて失ったものがいっぱい」

「リナ、過去って…?」悠斗が驚く。

「言ったろ、元暗殺者だ。組織に育てられ、任務で人を殺してきた。願いは、その罪を消すことかもな」

リナの声は淡々としてたけど、目に影が差す。悠斗は黙って聞く。

カイトが割り込み、軽く言う。

「俺はシンプルだぜ。オタク生活を満喫したいだけ。推しのフィギュア集め放題!」

みんなが笑う中、セレナだけが遠くを見る。

「願いは、叶う前に試されるよ。この迷宮で」

その時、遺跡の奥から足音。さっきの敵グループ! リーダー男が現れ、傷ついた顔で笑う。

「見つけたぜ。お前らの鍵、全部頂く」

今度は仲間が増えてる。5人。リナが剣を抜く。

「来いよ。相手してやる」

戦いが始まった。リナがリーダーを抑え、カイトがスプレーで援護。セレナの加護で動きを鈍らせるけど、敵の魔法使いが火球を放つ。

「くそっ!」悠斗は鍵を守りながら避ける。だが、敵の少年が悠斗に近づき、ナイフを振るう。

「鍵を…よこせ」少年の目は空虚。

悠斗は咄嗟に砂を掴み、少年の目に投げつける。少年が怯んだ隙に、悠斗は鍵を握りしめ、叫ぶ。

「みんな、遺跡の罠使え! あの絵にあったろ、砂の崩落!」

カイトが壁のレバーを発見し、引く。遺跡が揺れ、砂が天井から崩れ落ちる。敵グループが埋もれ、逃げ惑う。

「撤退だ!」リーダー男が叫び、去っていく。

悠斗たちは脱出。砂漠の出口――次の階層への扉が見えた。

「また逃がしたか…」リナが息を吐く。

「でも、鍵は守れた」悠斗が銀の鍵を見る。さっきの記憶が、胸に疼く。

セレナが扉の前で立ち止まり、悠斗に囁く。

「悠斗くん、君の願いは本物? 迷宮は、試してるよ」

扉が開き、次の階層の冷たい風が吹き込んだ。

(続く)

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