第4話 俺氏、女神に会い、事実を知る。
先ほどなんとかマンイーターを倒した後、
俺は燃えている奴の亡骸や周囲を、水魔法で消化し、事を終えた。
記憶を取り戻してから、初めての戦闘。
もとい魔王を倒してから、久しぶりの戦闘だったが、まあ及第点というとこか。
奴の中身を見ると、狼の骨ばかり出てきた。
だが、人骨は一切見つからなかった為、
もう溶かされたか、探し人は喰われていないかのどちらかだが...。
「どうもなんか引っかかるんだよな...。」
そう言って見つめた先にあるのは、さっきの結界。
マンイーターがこの先に行こうとしていたので、きっと何かあるに違いないし、
もしかしたら、探し人もこの先にいるのかもしれない。
ただ、この先には一応入る事は出来たものの、どうなるかが分からない。
気をつけて進みたい所だが...。
村人の男性の助けを求める声が聞こえた瞬間から感じていた、この違和感。
なぜかいかなかればいけないと思わせる何か。
「...この胸に抱えるものが分かればいいが...。」
そう願いつつ、俺は結界の中に入っていくことにした。
やはり先程のように、一瞬、服が枝に引っかかるような感覚を持ちつつも、
結界の中に入る事が出来た。
どんどん先に進んでいくと、だんだんと霧が掛かってきた。
「ふむ。霧の中を進むのはちょっとな。」
流石に霧が深くなるのはまずいので、風魔法で霧払いをしつつ、段々と先に進む。
そして進んだ先にあったのは、水が虹色に輝く泉だった。
泉の周りは、色とりどりの花が咲き誇り、蝶々も飛び回っていた。
深い森の中なのに、何故か青空が見えている。
普通だったら、考えられない景色が広がっていた。
周りを見て見るが、人や他の生き物がいる様子がなかった。
「ふむ...。...ここに迷い込んだと思ったのだが、違ったか?」
とりあえずもう一度あたりを捜索しようとすると、突然声が鳴り響いた。
「やっと...見つけました。」
「!?」
全ての方向から、女性の声が聞こえたので、俺は警戒体制を取る。
だが姿が、どこにも見えない。
「姿を見せてくれないか?見えないと、どのようにすればいいのか分からん。」
「そうですね。分かりました。」
女性がその様に言うと、泉の方から光り輝いた。
そして光の中から、まるでギリシャ神話によく出てくるキトンと呼ばれる白い服に、
背中には天使の様な羽、茶髪で長い髪の女性が現れた。
「よく来てくれました。テルマサさん。」
そう言うと、女性は微笑んだ。どうやら俺のことを知っているらしい。
「...なぜ俺の前世の名前を知っている。...と聞きたいが、何と無く分かった。」
俺は身構えるのをやめ、警戒を解く。
「あんた
「...ご名答です。まさか名乗る前から、私がどういう存在なのか当てるとは。」
女神は、自身がアーリシアと述べた。
慈愛の女神を司っており、俺をとある目的の為に、この世界に召喚した者らしい。
「...本当に俺を呼び寄せたのはあんたなんだな。
異世界に転生までさせて、何をやらせようとしていたんだ?」
「先ずあなたをあの世界に召喚したのは、明確です。
魔王を倒して、平和をもたらしてほしかったからです。」
「......俺が、前世でよく読んでいた創作物によくあった設定だな。」
その上、もう達成しちゃってるし。
ありきたりな理由だったんかい...。
「なぜ魔王を倒さないといけなかったんだ?」
「それは、この世界にはバランスというものが存在しているんです。
あなたでも分かるようにいうと、地球と月の関係のようなものです。」
アーリシア曰く、
魔王が出現した事により、この世界を維持する為の魔力のバランスが崩壊。
そのバランスの感覚は、いわゆる月が地球の引力に引っ張られる為、
同じ距離感で地球の周りを周回するのに似ているらしい。
それを正すためには、魔王を倒すしかなかったという。
「だが俺が魔王を倒したのは知っているんだろう?
どうして介入してこなかった?」
「それはですね。基本的に、神は世界の出来事に介入してはいけないというルールがあるんです。」
「ルール?」
どうやら過去に、あまりにも介入しすぎて、
世界そのものを崩壊させかけた神様がいたらしい。
そいつは、俺みたいな多くの転生者を、別の世界から呼び寄せ、世界のバランスを保とうとした。
しかし転生者たちが、色々と勝手にやりすぎてしまい、結果世界はボロボロに。
その神様は罰を受けさせられ、世界の管理者の資格を失う事に。
この事を契機に、神は世界に介入できないようになり、
転生も、世界のバランスを保つための最終手段として扱われる事となったそうだ。
「結果的にですが、本当にこの世界を救ってくださりありがとうございました。
私では、どうしようもできなかったんです。」
「...理由はわかった。そして感謝の気持ちは、一応受け取っておこう。」
俺は一旦理由を聞いた後、彼女に、次の疑問を尋ねる。
「次の質問だ。俺をどうしてここに呼んだんだ?」
「謝罪をさせていただきたかったのです...。」
そういうと、アーリシアは顔を下に向けた。
そしてそのまま会話を続けた。
「本来は一度私のところに来て、
あなたの前世での記憶を持たせたまま、転生させる予定だったのです。
ですが勝手に、直接送り込まれて、
しかも何故か記憶をなくしたまま転生させてしまって...。
まあ原因は、別の女神によるものだったのですが。」
「...なに?」
別の女神によるもの?どういう事だ?
「実は、先程世界を崩壊させかけた神がいたと言いましたよね?
そいつが邪魔をしてきたのです。つまりその...嫌がらせです。」
「ええ...。」
神様同士にも、いじめとかそういうのはあるのか...。
「本当に、すみません。
その上、奴があなたを何処に送り込んだか分からず、手助けも出来なかったんです。
しかも情報を遮断されていたらしく、連絡もまともに出来ず...。」
どうやら俺についての情報をが見れなかったのも、その意地悪な神のせいらしい。
全くどこの世界にも、そういう事をする奴はいるんだな。
因みに、部下も送り込もうかと思ったらしいが、先程のルールのため、送りこめず。俺を知ったのも、魔王を倒した後とのことだった。
「しかも以前の管理者は、転生者への差別がひどくて...。
人によっては、差をつけたりしたそうです。
因みにそいつはもう神様の資格を失い、神の世界から追放されましたのでご安心を。」
もう「そいつ」って、嫌われてんじゃん。
どんだけ邪魔をしたかったんだよ...。
結局驚くどころか、呆れてしまった。
まさか転生させる為に、異世界の住人を呼び寄せたものの、
神様同士の痴話喧嘩に巻き込むとは...。
人の命をどう思っているんだ?
しかも、手助けすらして貰えなかったのは兎も角、
まさか実質神様じゃない奴に、勝手に色々と施されていたとは...。
「...取り敢えず、この世界での事は、今は良い。
他にも聞きたい事がいくつかあるので、知っていたら答えてくれ。」
「...はい。」
彼女は身を立て直して、俺に真剣な顔を向けた。
「まず女の子がこの森に迷い込んで、行方不明なんだが知らないか?」
「はい。その子はこちらで預かっています。
あなたが倒したマンイーターに襲われて、気絶させられました。
そこで間一髪の所で結界の中に転移させて、ここで休ませていたのです。」
「あのマンイーターが出現した理由は?この森には本来生息していないと思うが。」
「それは別の世界、私が管理している世界から流れ込んで来たモンスターです。
この世界ではあなたに倒されていなければ、大きな被害が出ていたでしょう。」
「...最後の質問。こうでもしないと俺を呼び寄せられないと思ったのか?」
「いいえ。今回のマンイーターが出て来たのは偶々です。
マンイーターに襲われた子供も、想定外の出来事でした。
私のミスによるものでもありましたので、ルールを無視しても、助けるしかありませんでした。」
...俺を呼び寄せていたのは、否定していない所から、
会おうとしていたのは、確実になったな。
「...ちなみにここは一体何処だ?森の中なんだよな?」
「はい。ここは私がこの森に設けた自分の空間です。こうでもしないと、世界の管理がうまくいかないんですよ。」
「それにしては、マンイーターの胃液で結界が溶かされていましたけど?」
「ここはあくまでも、一時的なものです。
結界が破られたら、私はこの空間を捨てるだけです。
わたしが離れれば、この空間も無くなりますから。また別のを作ればいい訳です。」
「なるほど。
ちなみにあのマンイーター以外、こちらの世界に来たモンスターはいるのか?」
「いいえ。今回は、あのマンイーターだけがこちらの世界に来ただけのようです。」
「そりゃあよかった。奴以外にも来ていたらゾッとする。」
「...申し訳ありません。」
「もう倒したのでいいです。それじゃあ、娘さんを出してくださいますか?
連れて帰るよと約束したので。」
「はい、分かりました。」
女神はそう言うと、天空から裂け目が出来、そこから女の子が出て来た。
その子は段々と空中から降りて来て、俺の目の前に横たわった。
近づいて様子を見ると、怪我は回復しており、眠っているようである。
「取り敢えず、まず彼女を送り届ける。その後、色々と話そう。」
「...分かりました。それじゃあ入り口まで送ります。」
そう言って女神は、杖を取り出し、それを振った。
そしたら俺は飛ばされ、気づいたら森の入り口に帰って来ていた。
女神に対して疑問を抱きつつも、俺はそのまま娘を、村まで送る事にした。
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