第15話 マティルデは落ち着きたい

「わっかんねー。なんだよそれ」


 マティルデはアルブレヒトの声を聞いて一瞬だけ視線を向ける。頭を掻きむしっているアルブレヒトのことを見て眉間を寄せて口元をキュッと引き締めると、再びカレンのことを見た。


「攻められないかもしれません。でも、攻められるかもしれません。では、どうすれば良いでしょうか」


 マティルデはカレンが挑発しているように見えた。年下のくせに教師になり切って上から学ばせてあげるとでも言わんばかりの態度に見えた。だから、癪に感じてはいたけれども、無視することはできない。


「周辺の領主様と協力をすればよいのでは? 幸いなことに、私たちは周辺諸国と良好な関係を築いていると伺っています。もし喫緊の問題であるとするならば、同盟関係を結ぶことで安全を確保できませんか。それに、盗賊団が多い南部と私たちの間には幾つもの国がありますから、突如、襲われることは無さそうです」

「マティルデさんは、特に対策は必要ないと考えられているのですね」

「違います。現状の対策で十分なのでは? との話をしているのです」


 マティルデが反論すると、カレンはコクリと深く頷いた。


「確かに、仰られる通りではあります。同盟を組むことができましたら、非常に安心でき頼もしいことです。ただ、不安材料もあります」

「そのようなもの大したことではありません」

「はい。大したことではないかもしれません。マティルデさんは、どの国と同盟を結ばれるのが良いと考えられますか?」


 カレンに質問されてマティルデは答えに詰まる。どの国が良いのか悪いのか。判断が難しい。だから、無難な回答を試みる。


「周囲の全ての国と同盟を結ぶのが良いのではないでしょうか」


 マティルデはこれで何も言いようがないでしょ。と思ったが、カレンは身を乗り出して、質問を続けてくる。


「全ての国と仲良くなれればそれは素晴らしいことです。ですが、その分、問題があります」

「さっきも言ったけど……」

「お金、です」


 カレンの言葉にマティルデは目をぱちくりと動かす。


「確かにお金は必要だけど……」

「例えば、同盟国が襲撃されて助けを求められるとします。そうすれば、兵を出さなければなりません。ここアスカニア王国より、他国の方が攻められる可能性が高いのですから、自国が攻められてもいないのに兵を出す必要が発生します。同盟の内容にもよりますが、同盟を結んだ国が多ければ多いほどその出費は増すと言えます」


 カレンの言葉にマティルデは唇をキュッと嚙みしめる。何も考えず反射的に回答したことを反省して深呼吸をしていると、オイゲンが再び話に入り込んでくる。


「では、ザクセン王国やプロイセン王国と同盟を結ぶのは如何でしょうか? 」

「確かにその二国は強大ではあります。ですが、本当に私たちにとってメリットがあると言えるのでしょうか」


 カレンの意味ありげな言い方に、マティルデは深く頷く。そう。単純に同盟を結べばよい。そんな話ではなかったのだ。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る