第4話
地球発見から6年が経って俺は16歳になり、今は皇帝陛下に呼び出されて登城してきたところだ。
「お待ちしておりました、アルス様。陛下の元へご案内します」
出迎えてくれた侍従の人に案内されて城内を歩く。
この数年で変わったことがいくつもある。
地球が見つかってすぐに遠征の計画が始動して、1年後には巨大なワープゲートを建設するために有人の艦隊が編成されて太陽系に向けて旅立って行った。
無人艦で1年かけた道のりを、5年かけて行くらしい。有人艦で連続ワープすると中に乗っている人間が壊れるらしい。
だから、ワープの後はインターバルを挟んで再びワープすることを繰り返していく。そして向こうについて建造するワープゲートはそれだけの距離を数分に縮めることが出来るという。
既に帝国には銀河間を繋ぐワープゲートがいくつもあるが、7000万光年の距離で繋ぐのは初めての試みらしく、技術開発局が死ぬほど頑張って既存のワープゲートを改良したと聞いている。
などと考えていたが、侍従がノックする音で現実に引き戻される。
「皇帝陛下、アルス様をお連れしました」
「入れ」
皇帝陛下の許可の後、侍従が扉を開けてくれる。
俺は中へ入ると深々と一礼して皇帝陛下に挨拶をする。
「皇帝陛下、命に従いアルス・フォルフット参上いたしました」
「よく来たな、…下がれ」
皇帝陛下は俺を案内してきた侍従を下がらせると、部屋の中には皇帝陛下と俺の他に、宰相閣下と宇宙開拓局の局長がいた。
この面々の中で俺が最後というのはまずいのではないだろうか?
俺は公爵家の嫡男だが、公爵位を持つのは父であり、俺はその息子と言うだけ。見方によってはこの場で最も立場が低い。
皇帝陛下から視線で座るように伝えられると、俺は空いていた宰相閣下の対面に腰を下ろす。
「では陛下、主役も来たことですし始めさせていただきます」
宰相閣下の主役という言葉に少し気が楽になる。俺が主役ならあとから来ても違和感は無い…はずだ。
宰相閣下のこういった細かい気遣いには、何度か助けられたことがある。帝国の宰相を任される程の人物は、これほどにできる人でなければいけないのだろう。
だから、宰相閣下がハゲているのはストレスではなくそういうヘアスタイルなだけだ。…帝国の技術なら幾らでも生やせるし、きっとそうに違いない。
そんなくだらないことを考えるくらいには、俺はこの環境になれてきていた。
皇帝陛下とお会いすることは何度もあった。帝城にいるような上級貴族や政府の高官なんかは、何考えているのか分からない人が多いから安心はできないが…。
「まずは局長から説明を」
「かしこまりました。それでは、太陽系でのワープゲート建設に関してご報告いたします」
宰相閣下から引き継いだ局長が説明を始める。
「現在、派遣艦隊は太陽系10番惑星近郊にてワープゲートの建設を開始したところです。また、同時に10番惑星の調査も行っています。今はワープゲートの建設に全力を尽くしていますが、調査が終了次第、惑星表面に前線基地を建設する予定です」
「局長、ワープゲートの完成はいつになる?」
「はい。計画では1年後に建設が完了し、その後こちらのゲートとの接続作業でおよそ半年、無人艦によるワープ試験を行って完成となります」
そこで一旦話に区切りがついたとみた俺は、局長に対して地球のことを聞くことにする。
「局長、地球について何か新しい情報はありますか?」
「はい。計画に従って直接的な接触は行っていませんが、小型の無人機を投入して情報収集を行っています。アルス様から伺っていた通りの技術水準でしたから容易でしたよ」
「では、私が転生する前からそれほど時間は経っていないようですね」
「はい。今は現地では西暦2028年という年らしいので、アルス様の認識とは20年程の誤差がありましたが、本当に誤差ですね」
ふむ。俺の最後の記憶は2010年以前で記憶が曖昧だが、20年のズレということは、俺がいま16歳だから向こうで死んですぐに転生した訳でもないのか。
いや、今の時間感覚からすると割とすぐ転生している気もする。
帝国の価値観に慣れた俺だが、最近は前世の感覚とのズレが生じて違和感を感じることが多くなってきた。
「では次に、遠征軍に関してですが、これは慣例に従ってアルス殿を高等弁務官に任命して、地球文明圏の初期統治を任せることにしますがよろしいですね?」
考え事をしていたらいきなり宰相閣下から衝撃の言葉が出てきた。
統治?俺が?地球を?
「あの、宰相閣下、私が地球を統治するとはどういう…?」
「そのままの意味だ。帝国では転生者をその文明圏の高等弁務官に任命し、帝国へ正式編入するまでの初期統治を任せている。これは、その文明をよく知る者に任せたほうが円滑に進むだろうという考えからだ。実際に今までもそれで成功していたからな」
俺の問いかけに答えたのは 皇帝陛下だった。確かに理にかなっている。理にかなっているのは認めるが…俺にそんなことが出来るだろうか?
「私に務まるとは到底思えませんが…」
「いや、問題ない。知識はインプラントでどうとでもなる。何とかしろ。それよりも、遠征軍の編成はどうなっている?」
「はい、ようやく編成を完了して人員の訓練中です。艦隊総数は120万隻、人員総数は1000万人で、10個艦隊と要塞一基となります。そのほか必要なものは随時こちらから送ることになります」
艦隊10個に要塞一基ねぇ…。大戦力だ。これで脅しかけて平和的な支配というのは地球人の感覚からすると、何言ってんだこいつとなるところだ。
「艦隊の指揮も、初期統治も、インプラントがあれば何とかなりましょう。しかし、私は地球からの転生者です。未だに私が地球へ帰属意識を持っており、裏切るとは考えておられないのですか?」
そう、俺は転生者だ。過去に同じ手法で問題が起きていないとはいえ、ここまで安易に武力と権力を与えても良いものか。
「それは...」
「良い宰相。余から話そう」
俺の問いかけに口を開いた宰相を遮り、皇帝陛下からお答えいただけるようだ。
「第一に、貴様は帝国の人間だ。それも皇族の血を引く公爵家の次期当主だ。違うか?」
「その通りでございます、陛下」
その通りだ。前世の記憶は日に日に薄くなり、帝国の価値観で生きる俺の居場所は地球にはない。
地球人からすれば俺は帝国のにんげんで侵略者だろう。前世は地球人などと言っても信じてもらえるわけが無い。
それに、地球に対して同情心くらいは持つかもしれないが、この国で過ごしていれば嫌でも理解する。帝国の支配を受けいれた方が豊かになると。
「第二に、120万程度の艦隊で帝国に叛旗を翻したところで、未来などないのはよくわかっているだろう」
それもその通りだ。120万隻と要塞一基といえば確かに大艦隊だが、そもそも銀河団を丸ごと支配するような規模の国家だ。
この程度の規模に反乱を起こされたところで、些事として片付けられて終わりだ。
「それとも貴様は、この程度の戦力で帝国に挑戦するつもりか?」
「いえ陛下、滅相もございません。私は転生者だからこそ、この国の素晴らしさを理解しております。寧ろ、前世の故郷である地球を帝国支配下に置くことで地球はより豊かになるのです。これは非常に喜ばしいことです」
そう、俺は地球を帝国の支配下に置きに行く。
小国では太刀打ちできないような戦力を率い、皇帝陛下の代理人として、地球へ...。
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