第42話 勇者が死んだ家 1日目 その4

[勇者寮 中庭]

 ガヤガヤガヤ


 日も落ち、月が輝く時間帯。勇者寮その中心である中庭で立食パーティーが広げられている。


 僕らは街へと帰還する集団に紛れてみんなバラバラになってしまったが勇者寮に近づくにつれ、1人また1人と合流し、ササキを除く9人が集合していた。


 ちなみにササキは主婦としての仕事としてこの立食パーティーの準備をしているようだ。初日なのに大変だ。


「うぷ。トイレは、、この国のトイレはウォッシュレットついてるっすかね?」


 トダユイが食べ過ぎたのか、腹を押さえている。


「さあ、でも所詮はVRなんだから、漏らした所で漏らした気分になるだけでしょう?」


「ううー、舞っちーそれは同じ女として絶対に言っちゃダメな奴っす」


「そう。じゃあいってらっしゃい。庭を真っ直ぐ出て左よ。


カザキリの返事を聞くや否や、トダユイは大急ぎで指示された方向に走って行く。


「祝勝会はいいのだけれど、殺人はまだかしら」

 カザキリが何やら物騒なことを言っている。


「オヌシら食わんのか?」

 ゴウダが大盛りの皿を両手に近づいて来る。


「いえいいわ。それよりあなたさっきも言ったけどすごい顔ね」


 ゴウダの顔は元がわからないくらいに腫れ上がっている。魔物との戦闘ではなく、戦闘職のチュートリアルでこうなったらしい。


「フフ、怪我や傷言うもんはのう、あればあるだけ勲章なんじゃあ」


 ゴウダがよく分からない事を言っている。


「それにしても流石に初日から前線に繰り出される人はいなかったようね」

「新井さんの話だと才能があると認められれば前線行きになったそうですが」


「まあ才能って言ってもパラメータだと思うぜ」


 そう言いながらトモキが近づいて来る。


「だって、あの剛田さんが力で誰かに競り負けるとかあると思うか?実際の筋肉量とかじゃなくてパラメータ上で力2対力100だったって事じゃないか?」


「そうね、あなたも僧侶なのに魔法を発現できなかったのはそれが原因ということかしら?」


「な、まあ俺の場合はコツっていうか、祈りが何なのかよく分かんなかっただけだし」


 トモキが反論しているが、後半は良く聞こえなかった。


「まあ、まだ仕事をしてもいない私達に言えることはないでしょう。カザキリ様」

「ふふ、冗談よ」



「やあやあ君たち楽しんでいるかい?」

 そこへユーシアさんがやって来た。


「またあなたですか。僕とキャラが変わるからあんまり来てほしくないんですがね」


「まあまあそう言いなさんな。何たって僕はこのパーティの主役だからねえ。全員に挨拶回りしておく必要があるのさ」


「へえ、義務感で仕方なく来たということですか?」


「いやいや、純粋に興味はあるさ。こんな大人数の旅団なんて珍しいからね。さて、戦闘職の皆さんは初日のしごきはどうだったかな?」


「どうもこうも全然だったぜ。俺はひたすら鉄塊に剣を打ちつけているだけで過ぎちまった。お陰で肩が痛えぜ」


「ワシは痛みはいいんじゃが、師匠にはつまらん相手と思われたじゃろうな」


「俺も祈りがどうのって言われたけど、さっぱらだったな」


「わ、わたしは魔法が発現しました」


「うえ、マジかよすげーじゃん!」


「ははなるほどなるほど、みんなそれぞれみたいだね。まあ最初だから結果なんて気にしなくていいんだ。じゃあ勇者の僕からアドバイスだ。結局大事なのは思いだよ。魔法も剣技も強くなりたい、誰かを守りたい。そういう思いがあれば誰だって強くなれる。それは間違いない。僕だって最初は長剣を持ち上げることも出来なかったからね」


「最初ってお前それ赤ん坊の頃の話じゃねえだろうな……」


 ユーシアはそれに答えず。


「さて、じゃあそろそろ行こうかな。ああそうそう、勇者寮の各階の中央に会議室があるから。もし君たちだけで集まりたかったら使うといいよ。それじゃあね」


「待ちなさい。1つだけ質問に応えて」


カザキリがユーシアを引き止める。


「…何かな?」


「あなた昼間に、魔物が自分を目指して来るからここから離れられないと言ったけど、だったらむしろ人気のない所に行くべきじゃないの?」


「ああそのことか、簡単な話さ。僕がこの街にいないと魔王…」


「あーーーお兄ちゃんここにいたー」


「……アリシア」


「向こうで乾杯の挨拶をってモンクギルドの人が呼んでるから直ぐ行ってあげて!」


「はいはい。あーごめんさっきの質問は明日空いてる時にでも応えるよ」


そう言うとユーシアさんは妹に連れられて人混みの中に突っ込んで行った。


「とりあえず私達はその会議室やらにでも行ってみましょうか。薄井健太。あなたはここで戸田唯を待ってなさい」


「はい」

 相変わらず人使いというか僕使いが荒い。

 それにしてもカザキリもテンジョウもさっきユーシアさんが『魔王』って言った時すごい険しい顔をしてたな。



[勇者寮 3階会議室]

 会議室は軍議などに使われるのであろう。


 大きな会議卓が部屋の中央に置かれ、その真ん中に地図が置かれている。


 地図では、アリスタラ近郊がチェス盤のように区画で区切られ、青と赤の駒が置かれている。侵攻の際の配置などを表しているのだろう。


 部屋の隅には武器などが立てかけられている。武器庫も兼ねているのだろうか。


「遅かったじゃない」

「しょうがないですよ、トダユイが戻るのが遅かったですし、しかも3階とは思わなかったですからね」

 

「ケンタっちも途中でトイレとか言って別れたじゃないっすか」


 とトダユイがささやかな反論をしてくる。


「1〜2階は酔っ払いが2次会を始めてたから仕方ないじゃない」


「そういえば、アライさん達、戦闘職の人はいないんですか?」


「彼らは部屋だけ見たら一応職業の打ち上げに顔出してくるって直ぐに出て行ったわ」


 今ここにいるのは僕とカザキリ、テンジョウ、サクラダ、トダユイの5人だった。


「それでカザキリちゃんもうクタクタなんだけど、また話とかしようって感じ?」


「いえ、話すことは特にないわ。ただ、『勇者が死んだ家』である以上、そして裏切り者がいる以上は、動き出すなら今ぐらいかと思ったぢけよ」


「だけど勇者っちならあそこでピンピンしてるっすよ」


「そうね、今はどうも出来ないでしょう。だから殺意っていうか勇者を殺そうっていう気配を纏っているかを見ているの」


 そう言ってカザキリは僕、とトダユイ、テンジョウ、サクラダの顔を順に見た。僕も釣られてみんなの顔を見て見たが殺意どころか昼間の労働で疲弊仕切った顔にしか見えなかった。


「僕はポーカーフェイスが得意だから仮に裏切り者だったとしても君に見破られることはないと思っているけど、どうだいカザキリ君?何か分かったのかい」


「……」


 それに対し、カザキリは暫く沈黙したが。


「いえ、お手上げね。もし裏切り者が分身魔法とか使えてここにいるのが偽物っていうオチもあるかもだし。戦闘職のヤツらちゃんと今見れてないし、私としては無駄な事をしたわ。ごめんなさい」


 カザキリが謝った。言っていることはその通りだが、僕にはそれが本心とは思えなかった。


「ではカザキリ様。皆様もお疲れのことですし、ここは部屋に戻ってお休みとしますか」


「そうね、来てもらって早々で申し訳ないけど解散でお願いするわ」


「了解っすー疲れたんであーしはもう速攻で寝るっすわ」


 寮は男女で分かれているから男女それぞれ別の扉から出て行った。僕も疲れたから直ぐに眠ろう。


 サクラダと会議室を出て部屋を目指す。


「薄井くん申し訳ないけどトイレに行きたいんだついて来てくれないかな」

「ええーいいですけど」

 本当は直ぐに寝たかったんだけどな。


「ここで待っててくれていいから」


3階の中央にあるトイレに着くとサクラダがそう言ってトイレに入って行った。それから


 5分待っても10分待ってもサクラダは戻って来ない。


「サクラダさん大丈夫ですか?」


 心配になってトイレを覗いてみるがサクラダがいなかった。

 トイレの窓が開いている。ここから外に出たのだろうか下を見て見たが転落したわけではないようだ。


 何故か僕から離れたかったのかな?よくわからないが落ちたのでなければ大丈夫だろう。そう思い部屋にとって返す。早く眠りたい。


 途中酔っ払った女の戦士らしき人とすれ違った。


 「こっちは男性寮ですよ!」


 と声をかけたが返事もせずふらふらと歩いていく。まあいいやあっちは女子寮の方角だし小声で返事をしたのかもしれない。そう思い気にしないことにした。


 ようやく自分の部屋について扉を開けると、ベッドに机、クローゼットにトイレ風呂という、現代のビジネスホテルを彷彿とさせるシンプルな内装が目に入った。


 とにかく疲れ切っていたので荷物だけ置いて早々にベッドで眠った。


〜翌朝〜

 ガヤガヤと騒がしい音がして目を覚ました。時間は分からないが太陽がまだ上りきっていない早朝のようだ。


「--ユーシア様が…」

「ユーシア様…」


 ユーシアがどうのとやたらと聞こえてくる。


 扉を開けると渡り廊下からみんな中庭を見ている釣られて見ると黒い炎が中庭に燃え盛っている。


 その黒い炎の向こう側で、仰向けに倒れている人物の胸に剣が付き立てられている。


 勇者が死んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る