第41話 勇者が死んだ家 1日目 その3
[アリステラ郊外 前線街]
郊外は砂の一帯が周囲100M程広がっており、その上に建物が乱立している。そんな中を戦闘職と思われる人達が慌ただしく動き回っていた。
「第1部隊未出立の者は左方に展開、急げ!」
「右方に展開の部隊負傷者多数!回復部隊急いで!」
遥か遠方では魔物の大群が押し寄せて来ており、もう既に戦闘に入っている人達もいる。
「よし新米の戦士のやつはこっちだ」
「僧侶はこちらに」
「魔物使いこっちよ」
おそらく新米や後方支援の部隊であろう各職の人達が集まるよう声が聞こえてくる。
「じゃあ俺たちは行くからな」
トモキ達戦闘職は各々呼ばれた方に向かって行く。
「うん、僕らは応援してるよ」
「おいこら"非"戦闘職はこっちじゃあ物資搬入、負傷者回復支援。仕事は山のようにあるぞー」
「げー休憩タイムじゃないんすか〜」
僕らも暇というわけにはいかないようだ。
[トモキサイド 前線街教会(僧侶ギルド本部)]
「僧侶の基本は祈りです。戦線で傷ついた仲間を守りたい。そういう思いが祈りによって奇跡となり体現するのです」
「はあ」
俺こと佐藤智樹は十字架を握る細身の神父から説明を受けていたが、なんか宗教めいた展開され困惑している。
「ええとそれで回復魔法とか防御魔法はどうやったら使えるのでしょうか?」
「全ては祈りです。願うべき奇跡を心に描き手をかざすのです。さすればほら」
神父の手からは暖かな光を感じる。
「なるほど、こうですかね」
同じように回復をイメージして、手を翳してみる。しかし何も起こらない。
「魔法の力は感じるのですが、祈りが足りておりませんね」
神父からもそう言われてしまった。
うーん、いまいち要領が掴めない。
[アライサイド 戦士ギルド本部]
「戦士の基本は敵の殲滅、それから後衛職を守ることだ。新米のお前らはまずその力を見せて貰うぞ、即戦力になりそうだと判断したら戦場に行って貰うからな覚悟しておけよ」
ここは戦士ギルドとかいう建物の表にある練習場みたいなところだ。
戦士の教官はどうやら熱血の体育会系らしい。あ、ていうか気づいたんだが。
「わりい俺は武器を持ってないんだが」
「あにー準備は基本だろうが。…まあいい今回は特別にここの訓練用の剣を貸してやる。
そう言って剣を渡される。ゲームとかで出てくる鉄製の剣だった。ちなみに新米と呼ばれる奴は俺以外に2人いた。
「さてじゃあ早速だが、ここにある鉄人を切ってみろ。できた奴は即実践投入だ」
練習場に並べられている鉄製の人形を指して教官が言う。
ぬん
俺の隣にいる背高マッチョが剣を振り下ろした。鉄人が振り下ろした剣筋に沿ってスパッと斬れた。
「ほう。経験者か。この鉄人はアイアンラットと同じ強度なんじゃが。良かろう貴様は実践投入じゃ。細かい心得は現場で学べ」
「うす」
早速1人クリアして、残りは2人になっちまった。だがあんな簡単そうに斬れるなら俺だって。
てい
ガンッ
剣が1ミリも通らず弾かれる。ちくしょうこんな硬いものを斬るのかよ。つかアイツどんだけ強えんだよ。
[ゴウダサイド モンクギルド本部]
「モンクは肉体が命そして、ワシらは互いを高め合うことに重きを置いておる。互いに打ち合いその力を高めるのじゃ。新米は3人かではそこのマッチョはワシと打ち合えい」
マッチョとはワシを指すようじゃった。最も強い者と打ち合えるとはワシとしても本望じゃ。
郊外にある建物の1つ。道場のような場所でワシらは互いに向かい合った。
「じゃあやろうかの。ワシの拳に拳を突き出せい」
「おうよ。了解じゃあ」
ガツン
拳同士が衝突した瞬間。
「おうっ」
ワシの体が後方に思いっきり吹っ飛んだ。
ドガッ
建物の壁に思いっきり背中を打ちつける。
「ほう、流石指導者じゃのう…たった1撃でこうとは。もう1回じゃあ!」
「よし来い!」
ガツン
拳がぶつかった瞬間ワシはまたも後方に吹き飛んだ。
「まだまだ!」
またも拳を合わせ壁に吹っ飛ぶ。痛みは当然感じるが拳を打ち合える喜びに比べると屁でも無かった。
「あと100発は打ちこむぞ」
「ほう、ワシは1000発と言おうと思っておったところじゃ」
コイツとは息が合いそうじゃのう。
[ササキサイド 前線街炊き出しテント(臨時主婦ギルド本部)]
「さて、あたし達はまず炊き出しだよ。他の戦闘職のサポートが主な仕事だ。でもね女だてらに舐められちゃダメなんだから。自分の身は自分で守るそのための練習もするんだよ」
大型のテントに何十人もの女性達が集まり頭巾にエプロン。色気とは程遠い戦闘服を見に纏っている。あたしは着替える暇もなかったから私服だけど、この雰囲気炊き出しだろう?だったらどんな服装でも関係ない。
リーダー格の女性の話が終わった途端一斉に料理が開始される、野菜を切る者に何やら煮炊きを始める者。
はは、なんて連携だい、碌な打ち合わせもせずに始まるんだからね。私も地域の夏祭りなんかで炊き出しはやってたけど、こんな見事な連携を見たのは初めてだよ。
流石にちょっと勝手が分からないからねえ隣のおばちゃんに聞いてみようかね。
「ねえあんた。ここに来るのが初めてなんだけどさあ、あたしはどこを手伝えばいいかねえ?」
「ああ、はいはい初めてさんねえ。だったら私のやるのを見てなよ。ここで作るのはみんな同じメニューだから1回覚えちまえばあとは早いよ」
「まずはねえここの野菜をこう切って…」
とそんな感じであたしに仕事を教えてくれる。はは、なーに外の世界とやることは変わらないじゃないか。
[ムジョウサイド 魔法使いギルド本部]
「魔法とは外気中に漂うマナを吸収して自分の魔力に変換すること。そしてそれを外に出すこと、その能力が求められるわ」
ドロクエやハローホッターで見た事があるような、鍔の高い帽子を被った女性が建物の中で力説している。
「この魔法使いギルドでは訓練用の部屋として、火水土風光闇の6属性のマナをそれぞれ集めた部屋を用意して、魔法の、発現と特性も見て行くわ。この部屋は火のマナを集めた部屋だから火の魔法からね」
ボッ
そこで言葉を切ると、女性は掌から小さい火の玉を出した。
「こんな感じね。いい、あなた達は新米だからイメージがまだつかないかもだけど火のマナを借りて外に放出するイメージをするの。ほらやってみて」
わーこれは私が昔やった魔法使いごっこと同じイメージだから多分できそう。
前にやったイメージ通りにやってみると
ボッ
先生がやったより小さいけれど火の玉が出た。
「あらあなた。要領がいいわね」
「えっ」
先生と、私と同じ新米扱いされた4人がみんな私の方を見ていた。
「あ、ありがとうございます」
ふふ、こんな風に私がやったことで注目されるなんて。化学みたいで楽しい。
[ケンタサイド]
ふー……どれだけ時間が過ぎたろうか。
ここに来てから何個も物資を運び、あっちに呼ばれこっちに呼ばれもうクタクタだった。
「うへーあーしはもうダメっすー」
「私は頭脳労働専門なのよ」
ここには非戦闘職の5人が集まっていた。
そこへ
「やー君たち元気かい」
ユーシアさんが来た。
「君はこんな所に来て、前線はいいのかい?」
「ああ、もうあらかたは掃討したからね。それより折角だから前線を見て行かないかい?」
あらかた掃討。やはりこの人はとんでも無く強そうだ。
と、そこへ、何やら可愛らしい女性が大股でこちらに近づいて来た。
「ちょっとお兄ちゃん!いきなりいなくならないでよ。前線はだいぶ混乱してるわよ」
「はは、悪い悪い。おっと失礼。彼女は僕の妹のアリシア。一応僕と同じく勇者の資質を持っていて…」
「自己紹介はいいから早く前線に戻る」
「はいはい」
「尻に敷かれてるっすねえ」
「さてじゃあ戻ろうかなみんな僕に捕まって」
突如言われた捕まってから発言に考えることもなくユーシアに捕まった。
ヒュン
一瞬の間に場面が転換する。
わああああぁぁぁあ
押し寄せる怒号。剣がぶつかる音、魔法が飛び交う風景。どうやらここは前線のようだ。
「うひゃああ戦ってるっすねえ」
「ユーシア殿」
「おお、ザンギルどうだい状況は?」
「敵軍の8割方は殲滅。指揮官のダークプリーストは残っているがまもなく殲滅できるかと」
「幹部は?」
「今日は出てくる気配はありませんなあ」
「じゃああとは僕が決めようかな。ああ、そうそう」
そう言うとユーシアは僕達の方を振り返り。
「彼は5大将軍の1人で戦士ギルドのギルドマスターもやっているザンギル。ザンギル彼らは今日王都に来た旅人だ。前線見物をさせたいから悪いけど見守り宜しく」
「はあ」
そう言うとユーシアは閃光の如きスピードで最前線に躍り出て、更に敵軍奥まで突っ込んで行った。
敵軍最奥部にはローブを纏った司令官と思しき魔物が櫓の上で何やら魔法を唱えている。
「来ますぞ、勇者様が誇る。いや世界が誇る最強の剣技が」
「魔の者よ一刀の元に平伏すが良い!くらえ!真聖剣」
真っ白い閃光が辺り一帯に広がる。
目を開けると真っ二つにされた魔物が櫓の上に横たわっていた。そして
うおおおおぉぉぉお
大音声の歓声が場を支配する。
戦っていた魔物達は結果を見て敗走を始めた。
「この勝負我々の勝ちだ!諸君王都に戻り今宵は宴を楽しもうぞ!」
これが勇者!この世界が誇る最強の者、こんな彼を殺せる者なんて果たしているのだろうか?
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