第5話 旅立ち

俺と詩の2人は、明見さんの下で約1ヶ月間修行をした。

そして、今日、世界の狭間を目指して出発する。


「私が行けるのはここまでだ。大丈夫だな?」

明見さんが心配そうな顔を見せる。


「はい!俺たちならもう大丈夫です。明見さん、今までありがとうございました!」


「修行も手伝ってもらって、本当に助かりました!ほら、デンちゃんも!」

「おいらも!?んー、飯はうまかったぞ!!」


明見はそれぞれの言葉を聞き、満面の笑みで言葉を返す。

「ははっ、みんなありがとうな。

こちらこそ毎日が楽しかったよ。

前にも言ったが、まずは転生者が集まる街、ユトリルに行くといい。

ここからだと、歩いて3日くらいで着くだろう。

お前たちが無事に元の世界に帰れることを願ってる。


じゃあな。」


それから、お互いに姿が見えなくなるまで手を振り続けた。不安な気持ちもあるが、そんなことは言ってられない。もう、守ってくれるものは何もない外の世界なのだ。自分の力で生き抜くしかない。


〜〜〜〜〜〜

明見さんと別れてから、森の中を歩き続けて数十分になる。足場が悪く、木々に覆われていて薄暗いため、体力が奪われる。


「そういえば、詩、君の式神で移動系はいないのか?」


「いるにはいるよ。

だけど、私はまだ霊力の操作が上手くできないし…

それに、せっかく召喚しても実体を上手く作れないんだよね…」


「実体…?」


「それについてはおいらが説明するぜ!!」

待ってましたとばかりにデンちゃんが喋り出す。


「式神を召喚するにはまず霊体を呼び寄せて呪文を唱えるんだ!

そして、霊力を形代に注ぐんだ。

まぁ、慣れていないと、式神が実態を持たず思念だけになることもあるんだ!今の主人はそんな状態なのだ!

あと、霊力が弱いと、召喚した式神に逆に祟られることもあるんだ…まぁ、霊力は使えば使うだけ強くなっていくから、そこは心配ないんだ!!」


「そうなのか。能力が複雑で、色々大変なんだな。」


「そうなんだ!だから主人にはもっと……」

そう言いかけたところで、詩に口を塞がれる。


「もう!デンちゃん!私の背中で騒がないで!

歩きずらいでしょ!まだ喋るなら、おやつの霊力玉あげないよ!!」


「えぇ!?それはいやなのだ!わかったのだ…お口チャックなのだ…」


そのようなやり取りをしていると、ギィッという軋む音がなり、その直後に突然木の間から矢が飛んできた!


「危ない!! 小道具召喚!」


飛んできた矢に召喚したマジック用のテーブルクロスを被せることができた。本来の用途ではないが、この状況ではこれが1番だろう。


「間一髪だったな…」


「何!?敵襲!?」


修行通りにスキルを使えたことにホッとする時間もなく、周りを警戒する。


「ほぉ…なんのスキルだ…?初めて見るな…」

矢が飛んできた方向から声が聞こえる。


「俺はマジシャンだ。すまないが、種明かしはなしだ。」



俺は、「マジシャンの能力で他人を傷つけない」という{誓願}をした結果、スキル「マジック」の効果や解釈が拡張された。

その一つが、消失マジックだ。能力が強化され、『自分以外の人がその物体を見ていないとき、その物体を自由に消すことができる』となり、『能力者の手元を誰も見ていないとき、消した物体を自由に出し入れできる』という新しい能力も覚醒した。

そこで、飛んできた矢に布を被せたことで、その能力の発動条件を満たし、矢を消すことができた、というわけだ。


「マジシャン…?転生者か!!興味深いが、まぁいい。

持ってるもんをすべて置け。それと、女は置いていけ。」


その場に緊迫した空気が流れる


「申し訳ないが、その要求には従えない。」



「そうか………じゃあ死ね!!」


その瞬間、四方からナイフを持った盗賊が飛びかかってきた。


詩が形代を掲げて霊力が発散する

「式神召喚! 精霊風!!」



「うわぁぁぁぁぁ」

形代が激しく光り、激しい風が盗賊たちを吹き飛ばす。

そして、風が一箇所に集まり、おぼろげに形をなす。そして、どこからか声が聞こえる。

(魔風・精霊風 参りました)


「ご主人!ナイスだ!召喚成功なのだ!

次は、精霊風に命令するのだ!」


「命令!?…よし!

精霊風!あいつらを吹っ飛ばしちゃえ!!」


(御意)


「くそ!このままやられるかよ!

スキル:魔足!!」

その瞬間、1人の盗賊の姿が消えた。


「え!?なに!?」


(ご主人様すみません、どこにいるか分かりません)


「気をつけろ!どこから襲ってくるか分からない!!こうなったら…小道具召喚!」


「まだまだ!!スキル:目眩し」

周囲に大量の砂埃が舞う。

1メートル先すらも見えず、

どこから来るのわからーー


その瞬間、どこからか声が聞こえる。

「グハッッ!!クソ…なんだこれは!?」


視界が開けると、そこには、空中で身動きが取れなくなっている盗賊の姿があった。


「よかった…上手くいってくれたね」

俺は近づきながら話す


「なんだこれは…!?…紐?」


「そうさ。これは別にマジックでもなんでもないからネタバラシしてあげようか。

これはね、インビジブルスレッドっていう空中浮遊マジック用の見えない糸だよ。それをそこらじゅうに設置してたってわけ。

そして、君が引っかかったら、リールで糸を巻く。どう?わかった…?」


「あぁ、わかったよ。そんなことより早く殺せ。俺は負けたんだ。」


「え?別に殺す必要はないでしょ?だって俺たちは結果的に無傷だし。」


盗賊は目を大きく開く。

「俺はお前たちを殺そうとしたんだぞ!?」


「でもさ、別にこれから俺たちを殺そうとはしないだろ?詩はどう思う?」


「私も別に殺す必要はないと思うよ。

だけど、ひとつ約束して!

もう盗賊行為はやめること!!

あなたが今まで襲った人たちは、あなたを絶対に許すことはないよ。だけど、それを理解した上でどうするかが大切だと思う。。。なんて説教じみたこと言っちゃったけど、要するに、これからは普通に生きてっていうこと!!

わかった?」


「あぁ。わかったよ。俺もこんな若い嬢ちゃんに怒られるやつじゃダメだな。

お礼に、ひとつ警告だ。お前らは今すぐここから逃げろ。他の奴らがアイツを呼んでいるかもしれない…」


「アイツ…?」


「この盗賊団のボス…お前らと同じ転生者だ」

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