究極の友情は殺人。…東大阪集団暴行殺人事件

龍玄

第1/5話 恋の方程式 嫉妬x憎悪=殺人

 「お母さん、俺、二人殺してもうた。逃げた1人も殺さなあかん」



 狭い世界で承認欲求を満たすために死刑判決を下された若者がいる。

 2006年(平成18年)6月19日に集団リンチによる殺害事件が起こった。


 発端は、些細な恋愛トラブルだった。2006年6月15日、東大阪大学・短期大学のサッカーサークル内の出来事だった。藤谷はサークル内の短期大学生の二階文乃と交際関係にあった。文乃はひと際目立つはつらつとした社交的な笑顔の素敵な女性だった。文乃は小さなころから可愛い可愛いと周りからも見られ、周囲にはいつも同性や異性がいる屈託のない人気者だった。文乃にとって誰ともなく親しく話すのは日常の事であり、何ら意味を持たなかった。その姿を見て、同じサークルの徳光雄太は文乃に好意を抱き抑えきれず、幾度もメールを送り交際を要望していた。当初は「はいはい」と受け流していた文乃だったが猛烈なアタックに絆され、学食などで声を掛けられると他意もなく気軽に話すようになった。徳光は「これはチャンス」と捉えて文乃との接見を意図的に増やし、関係を深めようと試みていた。徳光は文乃が友人でもある藤谷と付き合っているのを知りつつも文乃にアタックを続けた。

 恋愛は強奪戦。横槍を入れたり入れられたりする行為は、珍しくない。そのような障壁を乗り越えて恋愛は成就していくものだ。特に、束縛したい異性が人気者であれば、争奪戦が激化するのは至極当たり前のことだった。

 徳光の感情は高まり、友人の藤谷の存在を知りつつも文乃に「俺と付き合ってくれ」と告発した。文乃も満更ではなかった。釣った魚にえさを与えないではないだろうが、藤谷の文乃への対応は、徳光と比べて冷たく怠惰的に思えていた時期でもあった。特に女性は「押しに弱い」のは現実だ。日本の文化では女性は結婚して家庭に入り安定した生活を得るという慣わしがDNAレベルで組み込まれていと感じる程、「愛される幸せ、安定」を求める傾向にあるのは憚りない。

 文乃の感情の揺らぎは、自信喪失からくる疑心暗鬼に揺れ動く藤谷にとっては見過ごすことのできない事態に思えた。怠惰と慣れの愛の絆などワクワクの愛の前には歯が立たないのは、感覚として藤谷は痛感していた。


藤谷「最近、徳光と親しいようやん」

文乃「そう見える?」

藤谷「そうじゃないのか」

文乃「気の性じゃない」


 文乃は作り笑いを浮かべ、どこかソワソワした態度で藤谷とは目を合わせないでいた。藤谷はその時、蚊帳の外に置かれたような疎外感を受けていた。その後、徳光と文乃の仲良くする姿はサークル内で度々見受けられるようになっていた。しかし、正式に交際を始めたわけでもなく、デートすらしたことがない関係だった。

 愛の魔法に掛けられた被害妄想は、藤谷の中で「お前さへ手を出さなければこんなことにはならなかった」と徳光への嫉妬や恨みとして膨らんでいった。

 6月15日、藤谷は徳光を呼び出し、「俺の女に手を出すな」「文乃はお前の者じゃない」と言い争いとなり、殴り合いの喧嘩となった。腕力で藤谷は徳光を負かすが気持ちは収まらないでいた。憎しみとは一旦芽生えれば、質が悪い。雑草のようにまた生えてくる。根こそぎとはいかないのが常だった。藤谷は「これで終わったと思うなよ、明日、ケリをつけてやる」と明日、会う約束をさせた。


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